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女の子を救うためにコスプレをします

「うっ……えぐっ……こんなに悩んでたなんて……ウチ、何も知らずに茶化したりして、ごめん……」

「黙れ」

「久我さん本当は女の子になりたかったんですよね安心してくださいTS本たくさん買って来ますからいや男の娘の方がいいですか?」

「買わなくていい」


 冬の同人誌即売会、夏と同様に僕と保崎さんは売り子として部活のメンバーが作った本を売りさばくことに。宇月さんと検閲した僕が最終的に作った作品は僕とよく似たキャラクターが悩みながら女装に目覚めるという、他のクラスメイトと絡ませて迷惑をかけてはいないが僕に大迷惑な代物であった。部長や保崎さんと言った面々がそれを読んで勝手にノンフィクションだと思い込み泣き出すという最悪のスタートダッシュを決めた今回の即売会、果たして無事に終えることが出来るのだろうか。


「うう……ちょっと待て久我、なんだその衣装は」

「流行りの漫画の男役だけど」

「本当は女装してコスプレイヤーとして活躍したいんだろう? ちょっと待ってろ、似合いそうな衣装を探して来るから」

「持ち場を離れるな」


 買い出し班を見送り、職務放棄をしてコスプレ衣装を探しに出かけてしまった保崎さんを睨みながら見送り、メインとなるロリ巨乳だらけの百合ん百合んな本を机に積んだり、宇月さん含む個人で作った本を並べたり、スケブお断りの張り紙をしたりと孤軍奮闘。やってきたお客さんはやはり売り子と似たようなキャラが表紙で女装をしている本が気になってしまうらしく、宇月さんの本は赤字を回避できそうだ。


「来てあげたわ。一緒にいると私だってバレるから若干距離があるけれど、あっちに彼女も」

「やあ。宇月さんは変装をしていないんだね。今回は同級生結構来てるけど」

「もう逃げるのは辞めたんです! クラスメイトに見つかって、『宇月さん! 久しぶり、皆宇月さんが学校に来るのを待ってるよ』って言われて私が戻る土台を作るんです!」

「戻ってもすぐ進級だしそんな暖かい言葉をかけてくれる人がいるかわからないしそもそも皆が宇月さんの顔を覚えているかは疑問だけど、いい心がけだよ。それじゃあ一緒に売り子をしようか」

「私は適当にその辺をぶらついてくるわ」


 本を売りさばいていると、目の前に髪を銀髪に染め、サングラスで変装をした御堂さんがやってきて新刊をペラペラとめくる。少し離れた場所では宇月さんが減っている自分の本を見て興奮していた。オタクの聖地に来たことでかなり気が大きくなったらしく、そのまま宇月さんは僕の横に座りスケブお断りの張り紙をスケブ出来ますに書き換える。新刊を一通り買って去っていく御堂さんを見送り、二人で売り子を続けることに。


「この2冊ください」

「え……こっちが……600円で……こっちが……」

「2冊で1300円になります。こちらの本は彼女が作者ですので、簡単なスケブなら対応できますよ」


 引きこもっているうちに僕や御堂さんといった日頃から会話している人以外との対人スキルは思ったよりも酷くなっていたらしく、戦力にはさっぱりなってくれない。本が売れる度にニヤニヤしながら何を買おうか悩んでいる宇月さんに一定額は部費として納めて貰うからねと釘を刺していると、部長が様子を見に戻ってくる。


「調子はどうですかわあ結構売れてますねあれ私が個人的に作った逆ハー本が一冊も減っていないみたいなんですけどどういうことですかところで貴女は久我さんの彼女ですか?」

「えっ……彼女じゃ……無いですけど……」

「宇月さんだよ……半年以上顔を見てないだろうから仕方ないか」

「わあ生宇月さんですそういえば同人誌に出て来た子にそっくりでしたSNSではいつもお世話になってます終わった後に打ち上げで居酒屋とかゲーセンとかカラオケとか行くんですけど宇月さんも行きますよね?」

「行きませんけど……そしてこんな本が売れるわけないと思いますけど……」

「それは残念ですそれより向こうの方でコスプレイベントやってますから二人とも行ってみたらどうですか私はしばらく自分の本をここでアピールするので」


 陽のオタクと陰のオタクのやり取りを眺めた後、職権を乱用して自分の本をブースの目立つところに置く部長に見送られ、コスプレイベントに行くことに。寄り道をして色々買った宇月さんの荷物に悪戦苦闘しながら向かった先では、有名らしいコスプレイヤーが写真を撮られていたり、飛び入り参加用に衣装の貸し出しをしていたりと盛況していた。写真を撮られているコスプレイヤーの一人、というか御堂さんが僕達を見つけるなり困惑した表情で駆け寄ってくる。


「助けて。そもそもこれは何のコスプレなの?」

「知らないよ」

「え、今やってる特撮番組の敵の女幹部ですよね? やられて服が破けるシーンに定評のある。待ち合わせ場所からコスプレするなんて気合が入っているなぁと思ってたんです」

「オシャレよオシャレ! くっ、普段よりも人に見られると思ったらコスプレだと思われてたなんて」


 宇月さんがスマホを操作して僕達に見せてきた画面には御堂さんとよく似た格好の、確かに日曜日の朝にテレビをつけた時に見たことがあるキャラクター。御堂さんはコスプレをしたつもりではなくオシャレとして着て来たので代わりの服なんてものは用意しておらず、自分のファン? を無碍にすることも出来ないのか求められるままにポーズをとったりと再び会場の中に消えて行く。僕は最初からコスプレ状態なので宇月さんが自分に合ったコスプレを探して着替えるのを待っていると、売り子の時とは違った衣装で変なポーズを取っている保崎さんを見つけた。


「……はっ、違うんだよ。決してお前の衣装探しをサボっていた訳じゃなくてだな。ほら、他人に合う衣装を探すためにはまず自分がコスプレの経験値を貯める必要があるだろ? 色んな女キャラになってみてわかったんだ、お前は猫耳ナースアンドロイドになるべきだ」

「いいから売り場に戻りなよ。部長一人じゃまともに接客なんて出来ないだろうから、保崎さんが手伝わないと打ち上げ代や部費が減っちゃうよ」


 釈明しながら売り場の方へ戻っていく彼女に猫耳やらナース服やらを押し付けられ、どこに戻せばいいんだよと困惑している光景が更衣室を探しているように見えたのか、アパレルショップによくいるぐいぐい来る店員のようなスタッフに更衣室まで連れて行かれてしまい、断ることもできずにそのまま衣装に着替えて似合ってますねーと拍手をされて更に会場へと連れて行かれてしまう。


「……どうして私より可愛いんですか? 私はこれでも勇気を出してコスプレしたんですよ? 女の私を引き立て役にして楽しいですか?」

「ソンナコトナイニャ、カンジャサンノホウガカワイイニャ」


 魔法少女っぽい衣装に身を包んだ宇月さんが僕に気づき、怒ってマジカルステッキを振り回しながら駆け寄って来る。場を和ませるため猫耳ナースアンドロイドになってみるが、彼女の機嫌は直らなかったようで写真を撮られまくってやると意気込んで撮影会場の中央へと向かっていくが、全く相手にされずにいじけて露出を増やせば撮られるはずと危険な事を呟き始めたので、スマホを手にして彼女の専属カメラマンになる。撮影に集中していて気づかなかったが、実はスカートの中を盗撮されており男物のパンツだったためSNSに晒されてしまったのだがそれは別のお話。

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