女の子を救うために検閲をします
「それじゃあ、ご馳走様でした。よいお年を」
「後片付けも含めてパーティーよ」
「家まで送るよ」
「どさくさに紛れて貴方も逃げようとしてない?」
「急いでるんでタクシー呼びますから大丈夫です」
修学旅行も終わり、クラスメイトが僕の存在しない修学旅行の思い出について語っているのを複雑な表情をしながら聞いたりしているうちにクリスマス。御堂さんの両親は忙しくてクリスマスには帰って来なかったようで、折角だしクリスマスパーティーをしましょうとの提案により、僕達3人は御堂家に集まり豪華なディナーを楽しんだ。お開きになり、余程急いでいるのか宇月さんはサンタ服のままタクシーを呼びながら御堂家を出て行ってしまう。
「送り狼失敗ね。アニメの一挙放送でもあるのかしら?」
「多分締め切りが近いんだと思うよ。今回は自分で本を作って出すみたいだから」
「へえ。どんな本なのかしら」
「僕をモチーフとした女装メイドが保崎さんをモチーフとしたクラスのヤンキーにバレてしまい脅されて……って本だったかな」
二人で後片付けをしながら宇月さんが急いでいる理由を推測する。サークルの方で出す同人誌の方は既に完成したらしいが、宇月さんが一緒に出すと言っていた例の禁書はまだ完成していないのだろう。御堂さんに内容について聞かれたので当時宇月さんが作っていたプロットを伝えてやると、内容を想像してしまったらしくお皿を落として割ってしまう。
「誰が得するのかしら」
「同人誌ってそういうものらしいよ」
「内容はともかく、今回も彼女を誘って参加してみようかしら。ああ、でも彼女はもう学校の皆とそこそこ仲が良くなってるのよね? 一緒に参加するのかしら」
「そういう話は聞いてないよ、今回も変装して一緒に行きなよ。僕はサークルの方で宇月さんの作った廃紙を売るけどね」
御堂さんが増やした仕事の尻ぬぐいをしながら、今回も僕は宇月さんに頼まれても一緒には行けないので代わりに引率して欲しいと頼む。前回はただ本を買うだけだったけれど、今回はコスプレさせられそうね……と悩む彼女に別れを告げ、僕達のクリスマスは無事に終了した。そして冬休み前の登校日、放課後にオタクサークルの部室に向かうと部長や保崎さんが机に並んだ複数の本を眺めていた。夏の活動が盛り上がったことで冬は宇月さん以外にも自分で本を作る人が増えたらしい。
「よう久我。いやー凄いなこの根暗の書いた本」
「うっ……あれはただの悪ノリだよ。僕が保崎さんへの想いを打ち明けたとかそういうのでは無いから勘違いしないでね」
「? 何言ってるんだ? ああ、序盤に出て来て倒されたモブキャラは確かにウチに似てるな。まあ根暗には嫌われてそうだから仕方ないか」
「夏の時は私達が関係を茶化しちゃいましたけどもうこんな関係になってたんですねところでこの銀髪の子は誰ですかああそういえば御堂さんに似てますねずっと病気で学校休んでるみたいですけど元気でしょうか」
自分をモデルとしたキャラが出ているエロ本を他人に見られるという羞恥プレイは夏で経験済みだが、今回は女装という属性が追加された上に相手役が保崎さんなのだから頭を抱えるしかない。宇月さんの本を見ている人達に弁解をするが、どうにも反応がおかしい。プロットが変わったのだろうかと机に置かれた本を手に取った。
「作り直せアホが!」
「ぎにゃああああああ!?」
30分後、いつもとは違う時間帯に宇月家に向かい、仕事から帰っていた両親ににこやかに挨拶をした直後、怒りの表情で彼女の部屋のドアを開ける。
「いきなり部屋に入らないでくださいよ、バステトちゃんだって怯えてるじゃないですか! もし私が一人でしてたらどうするつもりですか! 責任取るんですか!?」
「この本は発禁だから作り直せ」
「あーっ! なんてことをするんですか、1冊印刷するのだって結構かかるんですよ!?」
先ほどまで宇月さんとバステトは部屋で遊んでいたようだが、急な僕の襲来に驚いたのかバステトはぴょんと部屋の端っこにある棚に飛び乗って体を縮こませる。いなくなったバステトの代わりに僕はバラバラになった本を叩きつけた。
「この本の内容を言ってみろ」
「女装……メイドが……引きこもりがちな後輩メイドと……引きこもりがちなお嬢様と……3人でする話です」
部長や保崎さんに読まれていたその本は、悪ふざけで済んだかもしれないような僕と保崎さんのギャグめいた絡みではなく、僕と宇月さんと御堂さんが絡むというあまりにも生々しい内容であった。
「頭おかしいの? こんな本を自分で作って、学校復帰したら皆地獄だよ? 御堂さんまでとばっちり食らって」
「うう……久我さんが悪いんですよ? 私と付き合う方がマシだって言うから。あんなのもう告白じゃないですか。それに聞きましたよ、夏に久我さんは私とのエロ本を自分で作ってたって」
「告白じゃあないしあれは部活のアホ共の悪ノリだよ……」
黒歴史確定な本を作ってしまった理由を問い詰めると、彼女は顔を赤らめて同人誌を作る際の僕の発言と、夏に偶然読んでしまい最終的に僕が女装する羽目になった元凶を持ち出して来る。現実で付き合わなければいけないのだとしたら宇月さんの方がマシだが付き合いたいと言ったわけではないし、同人誌の中で絡まされるのだとしたら存在自体がギャグ寄りな保崎さんの方がマシだ。
「最初はプロット通り作ってたんですけど、久我さんの発言が頭から離れなくて。気づいたら私と久我さんの本になってたんですけどそれだとあまりにも自己投影しすぎて気持ち悪いので御堂さんも登場させました」
「御堂さんは冬も宇月さんを誘って一緒に行く予定だったし、多少のコスプレも受け入れる覚悟を決めていたのに、宇月さんが自分をエロ本に登場させてると知ったらどんな反応をするだろうね」
「私は……親友に……何てことを……!」
「自分で昔取り巻きって言ってなかったっけ」
段々と冷静になってきたようで自分がどれだけ恥ずかしく愚かな事をしてきたかを自覚して狼狽える、すぐに告白だと勘違いしたりいきなり親友にステップアップしたりと人付き合いの無さによるデメリットをこれでもかと体現する彼女。踏ん切りがついたのか、PCへと向かうと完成していたらしい同人誌のデータを削除した。
「色々と大切なものを失うところでした」
「もう十分失っているから気にしなくていいよ。僕や御堂さんはまだ大切なものがあるけど」
「ぐふっ……仕方がありません、最初のプロットで途中まで作りかけていたのでそれを完成させましょう。締め切りが近いので久我さんも手伝ってください」
「そこまでして完成させたい本とは思えないんだけど……もう少し普通の女の子らしい内容にしたら? クラスの男子同士のカップリングとかさ」
「普通の女の子らしい内容でそれが出る時点で久我さんも関わってる人が偏ってませんか……?」
自分の作品を世に出す熱意はまだ残っているようで、すぐに再制作に取り掛かる彼女。僕も冷静になり、保崎さんと絡む作品だって普通におかしいしそもそもクラスメイトでカップリングを作るなと口出しをした結果、最終的に完成したのは僕をモチーフとしたキャラが女装に目覚める過程を描いたドキュメンタリーであった。




