女の子を救うためにスキーをします
「凄い、こんなに雪が……それじゃあ早速、死ねぇ!」
旅行二日目。スキー場に来るや否や、積もった雪に興奮した宇月さんが雪を固めて僕に向かって投げてくるが、運動音痴の彼女のへっぽこな投擲はあらぬ方向に飛び、危うく一般客にぶつけてしまうところだった。
「いや、ここスキー場だから。雪合戦なんて地元でも……出来ないか」
「常識に囚われては駄目なんですよ。そういうわけで必殺、ジャニュアリースプラッシュ!」
一般客に迷惑をかけないように離れた場所に向かいながら反撃のために雪玉を作る。その間に宇月さんは小さな雪玉をたくさん作っていたようで、数撃ちゃ当たると言わんばかりにばらまいてくる。彼女の苗字は卯月では無いのだが。
「積年の恨みを晴らしたいと思ってたんだ。霜焼けになるまで顔にぶつけてあげるよ」
「くっ、乙女の顔のピンチ。御堂さん、女の子相手に全力を出そうとするこの鬼畜男を一緒に倒しましょう! ……ってあれ、御堂さんはどこ?」
僕が臨戦態勢に入ったところで御堂さんに応援を頼もうとする彼女だが、近くに御堂さんの姿が見えない。二人して辺りを探すと、更に離れた場所で巨大な雪玉を作っている御堂さん。
「何だ、一撃必殺用のを作ってたんですね。後は私に任せてください」
「え、ちょっと」
御堂さんの下へ駆け寄った宇月さんはそれを拾い上げると、僕の方に駆け寄って勢いそのままにそれをぶん投げる。流石に当たったら痛そうだと真面目に避け、地面にぶつかった雪玉は崩れて行く。御堂さんの方を見ると再び巨大な雪玉を作っているようだった。
「顔に、直撃するまで、投げるのを、辞めないッ!」
その後も宇月さんは小さな雪玉でこちらを牽制しながら、御堂さんが巨大な雪玉を作るとそれを持ってこちらに投げてくる。息の合ったコンビネーションにこちらの体力は奪われ、気づけば防戦一方に。
「ふふふっ、スピードが落ちていますよ。次で決めてあげまぶべらっ!」
勝ち誇る宇月さんであったが、唐突に横から雪玉をぶつけられてしまい情けない声をあげながら倒れる。起き上がった宇月さんが投げてきた方を向くと、そこには両手に雪玉を持ち宇月さんを睨みつけている御堂さんの姿。
「どうして私を狙うんですか! 私達の敵は一人のはずです!」
「私は雪だるまを作っていたのよ! それを毎回毎回よくも台無しにしてくれたわね! 私の敵は貴女よ!」
「くっ……いいでしょう、温室育ちのお嬢様に、下町育ちの恐ろしさ魅せてあげまぶぼっ」
雪だるまを作っては奪われ壊され続けた恨みは深いようで、容赦なく宇月さんの顔に雪玉をぶつけ続ける御堂さん。一方的な試合展開を眺めながら、御堂さんの代わりに雪だるまを作るのだった。
「ふう、我ながらいいものが出来たわ。このままオブジェとしてこのスキー場に残したいわね」
「あの、防寒具着ているとは言えどこれかなりきついですよ? 凍傷になったらとうしよう」
「大分体力使っちゃったよ。もうお昼だしご飯食べて午後からスキーに行こうよ」
「スルーしないでください」
雪合戦に敗れ、大きな雪玉から顔だけ出した状態になった人間雪だるま状態の宇月さんを写真に撮ったり、暖房の効いたフードコードに向かい料理を待つ間に温度差による霜焼けが発動しうまくご飯が食べられなかったりした後、僕達はスキーの中級者向けコースに立っていた。
「さあ、滑りますよ」
「……」
「……」
「どうして二人とも黙ってるんですか? 早く滑りましょうよ」
「いや、先に滑っていいよ」
頭の中で華麗な滑りを妄想して興奮している宇月さんだが、この後の展開がわかっている僕と御堂さんは一緒には滑らずに先に彼女を滑らせる。
「それじゃあ一番乗りです……ひゃっほぐぎゃあああああ」
意気揚々と滑り出した彼女だったが数秒も経たずにこけてしまい雪の坂をゴロゴロと転がり落ちて飲茶になってしまう。ため息をつきながら御堂さんが彼女の下へ向かい救出。僕もゆっくりと彼女の下に向かい初心者コースを指さした。
「というわけだから、初心者コースで遊ぼうよ」
「ぐ、ぐぬぬ……偉そうに、私見逃しませんでしたよ、久我さんもさっき滑る時かなりビビりながら、御堂さんの滑る姿を真似してましたね!」
「そうだよ、僕もスキー経験無いんだよ。御堂さんは旅行で経験があるけどそれでもブランクがあるから宇月さんをフォローしながら滑るのは難しいって」
これが修学旅行ならちゃんとした講師に滑り方を教えて貰えるのだが、プライベートな旅行をしている僕達は独学で滑れるようにならなくてはいけない。小さな子供も多い初心者コースで基本を習得したりと練習に励み、2時間後に再び中級者コースへ。
「さっきまでの私とは違うところを魅せてあげますよ」
初心者コースで掴んだ感覚が消えないうちにと、臆することなく滑り始める宇月さん。2時間前は真っすぐに滑って加速し続けすぐに制御が利かなくなってしまった彼女だが、今はジグザグ滑りを身に着けスピードを抑えながら安定したフォームで姿を小さくしていく。宇月さんがあれだけ滑れるなら自分も大丈夫だろうと失礼な事を考えながら僕も滑り始め、宇月さんに追いつく。
「ふふふ、どうですか。私はやればできる子なんです」
「偉い偉い。その調子で学校でも頑張ろうね」
「考えておきます。ところで御堂さんは?」
滑りながらコースの上を見るが、そこには御堂さんの姿は無い。先に滑って行ったのだろうかとコースの下を見ても彼女の姿は無く、トイレにでも行ったんじゃないのと宇月さんと会話していると上級者コースの方から彼女の悲鳴が。
「……どんなに技術があっても、自分の能力を過信する人間は痛い目に遭うんだよ」
「肝に銘じておきます」
どうやら感覚を取り戻した御堂さんは上級者コースでも通用すると一人で向かい、高度な技をやろうとして失敗して転んだらしい。残念ながら僕も宇月さんも上級者コースで彼女を救出するだけの技量は無いので、彼女を放っておいて二人で中級スキーを楽しんだ。
「ちょっと! 何私を除け者にして楽しんでいるのよ!」
「御堂さんが勝手に上級者コースに行って勝手に悲鳴を上げたんじゃないか」
「大変だったのよ、あの後プロのスキーヤーに助けられたついでにナンパされたんだから」
しばらく遊んだ後に上級者コースに向かい御堂さんを探すも見つからなかったので、リフトにでも乗ろうかと並んでいたところ、鯛焼きとタピオカミルクティーを両手に持った御堂さんが列に割り込んで来る。そのまま三人でリフトに乗り、上空からスキー場を一望しつつ明日の予定である観光やお土産について話し合う。
「いやー、楽しかったですね。来年もまた行きたいです」
「来年は受験でそれどころじゃないでしょ」
「私は推薦で大学に行くつもりだから来年の今頃はもう学校に来てないでしょうね」
「いいじゃないですか。気分転換にまた皆で旅行にでも行きましょうよ」
「クラスだってきっとバラバラになるよ。そこで新しい友達を作ってその人達と旅行に行けばいいさ。いつまでもこの関係に依存しちゃ駄目だよ」
来年もこの3人で旅行に行ったりと遊びたいと言う宇月さんを心を鬼にして突き放し、来年の事を言えば鬼が笑うと言うが誰も笑わず少し空気を悪くしてしまう。残念ながら漫画やアニメのように何度も高校2年生をループはしない。残り100日ちょっと、高校3年生になる頃には二人とも学校に復帰して、僕の事なんて忘れてちゃんと友達を作った方がいいに決まっているのだから。




