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女の子を救うために旅行をします

「寒い……」

「どうして北海道に行こうなんて決めたのかしら」

「防寒性能よりもオシャレを優先した結果だよ。ほら見なよ、保崎さんすらモコモコの服を着てる」


 北海道の大地でカイロを揉みながら凍える、見せる相手もいないのにオシャレを意識しすぎた結果寒さに弱くなってしまった二人。同時刻に開催されているクラスメイトの修学旅行では寒いんだから防寒着を持って来いよときちんと連絡があったからか、僕達3人を除いた集合写真の面々は皆暖かそうだ。


「とりあえずラーメン食べましょう」

「そうね。他の皆は団体行動が故に遅いけれど、私達は思い立ったら即行動、修学旅行のしおりに縛られる必要も無いわ」

「その代わり事前に先生がリサーチしたオススメのプランを使えないから地雷を引きそうだけどね」


 僕の持って来た替えのジャンパーを奪い取りながら、空港の近くという好立地にしては看板がボロボロの、客がいないからなのか昔からやっているからなのか判断に困る寂れたラーメン屋を指さす宇月さん。引きこもりの癖に冒険心だけは一丁前のようで、スマホでそのお店を調べることなく意気揚々と二人は店に向かう。そして30分後、二人は暗い表情で店を後にした。


「しょっぱい……どうして私達はチェーン店にしなかったんでしょうか」

「レビューサイトで調べたけれど、現地の人に人気だったわよ。北海道の人間は狂っているわ」

「農家だったり林業だったり肉体労働が多いから、塩分のあるラーメンが人気になるんじゃないかな。僕は割と食べれたよ。二人とも引きこもっているから」


 毎日の登下校や体育の授業といった日常を失ったことで、二人の味覚は変わってしまったようだ。ご飯を美味しく食べるためには学校に戻らないといけないという事実を受け止めた二人と共にホテルに向かい荷物を置く。修学旅行は4人で1部屋だが、僕達は贅沢に1人1部屋だ。僕はともかく二人は一緒の部屋にすればいいものを、自分の部屋で一人で過ごすことに慣れ過ぎてしまったのだろうか、一緒に寝る程は仲良くなっていないのだろうか、二人とも一人部屋を希望してしまった。


『まずは牧場に行きましょう』

『そうですね、ソフトクリームに焼肉にジンギスカン、どれも楽しみです』

『さっきなんだかんだいってラーメンと餃子食べてたよね? そもそも飛行機の中でもお菓子結構食べてなかった?』


 修学旅行のしおりなんてものはないのでどこにどんな順番で行くかすら決まっていない。各々の部屋の中で次に行く場所についてスマホ越しに打合せするという現代っ子ぷりを発揮しながら、近くにある牧場へ行くことにしたのだが、


「暑い……」

「この格好で牧場に行ったら変な目で見られそうね」

「いろんな場所に行くんだから服は何パターンか用意しなよ……」


 二人ともオシャレ全力か防寒全力かの2パターンしか用意して来なかったようで、スキーに行くための防寒具で牧場に行こうとして途中で暑がる始末。結局北海道に来て腹ごしらえをした後に最初にやることは、現地で服を調達するという斬新なイベントとなった。


「丁度いい暖かさです。やっぱり北海道のウニクロは一味違いますね」

「北海道のひまむらも負けてないわ」


 予想外の出費を極力抑えるために駅前のチェーン店で服を揃え、気を取り直して牧場に向かう僕達。他校の修学旅行生や外国人観光客に紛れながら電車に揺られ、牛や羊や馬がちらほらと見える牧場へ到着する。


「ひゃ~可愛いですね、ステーキにジンギスカンに馬刺し……」

「酷い呼び方だよ」

「そんなことより、乗馬しましょう乗馬!」


 動物を見て目を輝かせる、頭の中で動物と触れ合っているのかそれとも肉を堪能しているのか判断に困る宇月さん。そんな彼女よりも目を輝かせているのは、スマホとゲーセンで馬を育て続けてきた御堂さんであった。レクチャーを受け、僕と宇月さんは初心者向けのポニーに、馬主気取りなのかジョッキー気取りなのかわからない御堂さんは引退した競走馬に乗る。


「さあ、人参が欲しければ全力で走りなさい」


 ちゃんとした防寒着は用意して来なかったくせに、漫画とかでよく見る人参をぶら下げるお手製の道具は用意して来たようだ。釣り竿っぽいものの先端に人参をぶら下げたそれを馬の頭に装着するが、馬は無関心。馬は目が顔の横にあるから仕掛けがバレバレだとどこかのテレビ番組でやっていたのを思い出しながら見ていると、怒った御堂さんはカバンからムチを取り出す。


「この、駄馬! 馬刺しにするわよ! ひっ、暴れるんじゃないわよ、いやああああ!」


 それで馬を叩き出すという愚行に及んだ御堂さんは、天罰が下ったのか驚いて暴れた馬に振り落とされてしまう。ざまあみろ。


「御堂さんって、馬鹿なんですね」

「そうだよ。勉強が出来ても馬鹿は馬鹿なんだ。宇月さんも自分に自信を持ちなよ」


 落馬した馬鹿を放っておいて宇月さんと二人でポニーに乗ってのんびりと牧場を回っていると、後ろから御堂さんがポニーを急かしながらやってくる。


「目の前で女の子が落馬したのに酷いわね。幸い受け身が出来たから怪我はしなかったけれど、楽しい旅行が最悪の結果になるところだったわよ」

「自業自得でしょ……怪我したら自分でブラックジャックでも呼んで治療してね」


 そのまま三人でパカラパカラと散歩を続ける。日頃から部屋にこもってばかりの二人には、自然豊かな場所でのんびりと過ごすのは効果が覿面だったらしく、牧場を一周する頃にはすっかりと癒された表情になっていた。


「やっぱり日の光と緑に囲まれるのって大事ですね。よし、決めました。これからはVRで自然の中を歩きます」

「いい心がけね。私もランニングマシーン使いながらテレビばかり見てないで自然の風景にしてみるわ」

「外に出て歩け」


 前向きなのかよくわからない決意をした二人と共に、その後も牧場で牛の乳絞りをしたり、羊の毛を刈ったりと地元ではできない体験をしながら体を動かし、お腹も空いてきたので夕食のためにレストランに来たのだが、


「ジンギスカン……は嫌ですね」

「牛ステーキも嫌ね」

「僕は仔牛のカツレツとジンギスカン、それと馬刺しにしようかな」

「久我さんには人の心が無いんですか?」

「引くわ」


 二人とも触れ合っているうちに情が移ってしまったらしく、レストランでお目当てのお肉が食べられないという事態に。温室で過ごしすぎた二人と違って、毎日学校に行ったり世間の荒波に揉まれ続けた僕は例え触れ合った動物がその日のうちにお肉になってくるようなサイコな世界だとしても何の抵抗も無いのだ。結局ソフトクリームやフライドポテトでお腹を満たす二人と、その二人に引かれながら触れ合った動物達を丸ごと頂くような外道の僕という構図に。牧場を出て電車に揺られ、ホテルに戻って翌日の打合せをしていたのだが、


『お腹空いてきました』

『そうね。ソフトクリームじゃお腹は膨れなかったわ。焼肉食べに行きましょう』

『いいですね、私もさっき近くのお店を調べてたんですけど良さそうなお店があったんです、行きましょう』

『人の心とやらは数時間も持たないんだね……』


 牧場を出てしばらくすれば罪悪感やらはどこかへ飛んで行ってしまったようで、打ち合わせを中断して二人は夜の街に焼肉を食べに行くという事態に。結局僕も突き合わされ、既に満腹なのに水を飲みながら二人が肉を堪能するのを眺めて気持ちが悪くなり、ホテルに戻って吐くという悲しい修学旅行の思い出を作るのだった。




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