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女の子を救うために修学旅行を休みたくないです

「はいこれ」

「?」


 宇月さんの部屋に入った僕は彼女に封筒を手渡す。寒くなって来たからか、オシャレに興味が無くなったからかジャージ姿の彼女が首をかしげながらそれを開けると、中から福沢諭吉が3人顔を覗かせる。それを見た彼女は顔を赤らめてジャージを脱ごうとした。


「何やってるの」

「そそそそそそそのその流石に破瓜は踏ん切りがつかないのでBまででああああもう1回シャワー浴びて来ていいですか」

「修学旅行の積み立て金だよ……自分の価値を高く見積もり過ぎでは?」

「へ?……突然お金渡されたら援助交際だって思いますよ!」

「それは日頃から訳のわからない漫画を読んでいるからだよ……しかも何で受け入れるのさ。そもそも宇月さんのお金じゃないし、親御さんに渡すべきだったか」


 自分を大切にして学校を休んでいるはずなのに自分を大切にしない彼女を冷ややかな目で見ながら、こちらにすり寄ってくるバステトに餌をあげて援助交際? をする。微妙に服を脱いでいるからか、恥ずかしい勘違いをしたからか顔を真っ赤にしてしばらく部屋から出て行ってください! と怒鳴られ部屋を追い出されてしまったので、リビングに向かい積立金を親御さん向けのメモと共に机に置いておく。娘に甘い両親のようだから、このお金は結局宇月さんに渡りそうだが。しばらくして落ち着いた宇月さんの部屋に戻り、いつものように勉強を進めていたのだが、


「ところで何で修学旅行の積み立て金が戻って来たんですか? 流行り病で中止になったんですか?」


 宇月さんがきょとんとした表情でそんな事を聞いてくる。ああ、そうか、学校来てないから知らなかったんだ。


「いや来週修学旅行だし。宇月さんは欠席なんだからお金が返って来ただけだよ」

「……今何と?」

「来週北海道にスキーに行って来るんだ。白いラバーズと木刀買って来るね」


 修学旅行の日程すら知らなかった可哀相な宇月さんにせめて自腹でお土産を買ってあげようと優しさを見せるが、宇月さんは目に涙を浮かべながらベッドにダイブしじたばたし始める。


「う、ううううう、そんな、あんまりです。修学旅行ですよ、学生の一大イベントですよ、皆で麻雀したり、好きな子を言い合ったり、女湯を覗いたり……」

「全体的に男子のイベントだね……」

「中学校の時の修学旅行は、余りものの班に入れられて、しかもその余りものの中でも余っちゃって、単独行動が認められないから自由行動の時にホテルでずっとゲームしてたんです。だから高校の修学旅行は成功させたかったのに、こんなのあんまりです、どうして修学旅行の日程教えてくれなかったんですか、知ってたら学校に復帰できたかもしれないのに」

「修学旅行のために復帰したとして余りものになるでしょ……」


 中学校の時は少しは友達がいた、と自称する彼女だが、どうやら真の友人関係とはいかなかったようだ。ベッドで泣きじゃくっているうちに寝てしまったので課題を机に置いて少し早めに彼女の家を後にし、御堂さんのいるゲームセンターへ向かう。馬ではなくビンゴゲームに興じている彼女に同様に封筒を渡し中身を確認させると、彼女は仕方ないわねとばかりに自分の髪を1本抜いた。


「はいどうぞ」

「念のため聞くけど何だいこれは」

「こんな端金じゃ下着一枚あげられないわ」

「下品な子だね。保崎さんと仲良くなれそうだよ」

「くっ……全部宇月さんが悪いのよ」

「すぐ責任転嫁するところもそっくりだ」


 手渡されたそれを床に捨てて店員さんの仕事を増やすと、同様に来週修学旅行なので積立金が戻って来たと説明する。こちらも修学旅行の日程を知らなかったか忘れていたようで愕然とする。


「何てこと……華麗に滑る私を魅せてキャーキャー言われるはずだったのに」

「もう学校来なくなって半年経つから取り巻きも段々他の子と仲良くし始めてるからキャーキャー言われないかもね」

「こうしちゃいられないわ、今すぐ修学旅行の準備をして参加できるように圧をかけて来なきゃ」

「自分が病気で休んでいるって設定を忘れていない?」


 宇月さんと違い諦めの悪い彼女は強権を利用して修学旅行に参加しようとするが、病気でずっと休んでいるという都合のいい設定がここで彼女に襲い掛かる。聡明な彼女もうまいこと修学旅行に参加するための知恵は結局出なかったらしく、悔しそうにスキーのゲームを探すも、そんなものは普通のゲームセンターには存在しなかった。不満気にやる事が出来たからもう帰るわと言ってゲームセンターを去って行く彼女を見送りながら、二人分のお土産に悩みつつ帰路につくのだった。



「久我君、ちょっと話があるから来てくれないか」


 翌日、休み時間に一緒の班になったクラスメイトと打ち合わせをしている最中、教師に呼ばれて教室を出ていく。人気のいない場所まで連れて来られた僕に教師はどこかで見た封筒を差し出した。とても嫌な予感がする。


「二人の子守のアルバイト代でしょうか?」

「面白い冗談だなぁ久我君は。家庭の事情で修学旅行に参加出来なくなったから代金を返しておこうと思ってな」

「その『家庭』というのはどこの家庭ですかねえ?」

「おっと、先生は職員会議があるからこれで」


 僕と一切目を合わせずにそんな説明をする、圧力に負けた哀れな大人が気まずそうに去っていくのを眺めながら、封筒を強く握りしめた。放課後、これからファミレスで打ち合わせをするという元班仲間達を見送りながら、諸悪の根源に電話をかける。


『やあ御堂さん、今どこにいるんだい? ちょっとスキーストックでぶん殴りに行きたいんだけど』

『丁度良かったわ、これからファミレスで作戦会議よ。宇月さんも呼んでいるから早く来なさい』


 悪びれる様子も無くゲームセンター近くの、クラスメイトとはまず鉢合わせにならないファミレスへ呼びつける彼女。修羅と化しながらファミレスへ向かうと、旅行雑誌を広げながらパフェを食べている二人がいた。


「来たわね。私はあえて沖縄が良いと思うの」

「私はウサギや猫がいっぱいいる島で思う存分触れ合いたいです」

「何か言うことがあるんじゃないかい? 御堂さん」

「3万円手に入ったんでしょう? 今日はおごりでよろしく」

「わぁい、ご馳走様です」


 怒りで野性的になっているからか席につくや否やステーキを注文し、置いてある旅行雑誌をパラパラとめくる。北海道のページではスキーをしている青年達が僕を嘲笑っていた。


「旅行に行きたいなら二人で行ってきなよ。どうして僕を巻き込むのさ」

「何よ、美少女と女子高生と一緒に旅行に行けるなんて全男子の憧れでしょう」

「そうですよ、どうせ久我さんは修学旅行に行ったって女子とロクに会話も出来ず、スキーでも転げ落ちて笑いものにされ、気づいたら同じ部屋の男子は皆女子の部屋に遊びに行ってて一人寂しく不貞寝し、お土産もネタに走ってジンギスカンキャラメルを買って家族から顰蹙を買うんです」

「作者じゃあるまいし……はぁ。わかってると思うけど、僕は二人と違って本来の修学旅行の期間しか動けないからね?」


 ステーキをナイフで切り分けずに豪快にフォークで刺して齧り付きながら、旅行先決め会議に渋々参加する。二人とも当初はクラスメイトと同じことをしてると何だか負けた気分になる、というよくわからない理論でスキー関連を避けていたが、段々と同じことをしてクラスメイトより楽しんでやろうという気持ちになったらしく、結局僕達は学校とは別の場所でスキーや牧場見学に行くことになったのだった。

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