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女の子を救うためにネカフェに行きます

「そんな訳で宇月さんはクラスメイトと一緒に漫画を描いて着実に前へと進んでいるよ」

「そう」


 ミドーバサッシー16に餌をやっている彼女に先ほどまで宇月さんと一緒に作っていた中身の無い、冷静に考えて同級生の女子に見せたらセクハラでしかない同人誌を見せる。羨ましいわね、とだけ呟いて彼女は再び愛馬の方に目をやった。


「夏休みが明けた頃は御堂さんが宇月さんを待つみたいな感じの事を言っていたけど、今はどうなんだい?」

「……今更学校に行ったところで、何になるのかしらね。クラスメイトとの距離もすっかり出来てしまったわ」

「僕の知らないところで宇月さんと遊んだりしてるんだろう? いいじゃないか、入院している間に暇だったから漫画とかアニメとか見てたらハマっちゃいました、で。ほら、この漫画のヒロイン、御堂さんにそっくりだよ」


 最近はやたらと電子マンガの広告がスマートフォンに出てくる。その中の1つである、金髪の引きこもりの天才オタク少女と執事のラブコメ漫画を彼女に見せた。


「両親に見栄を張るだけの人生は、下らないプライドで私をがんじがらめにしてしまったわ。でも、そうね。その漫画読みたくなったわ。漫画喫茶に行きましょう」


 お金があるんだから普通に電子書籍なりで大人買いすればいいのになんてツッコミを心でする中、競馬ゲームからログアウトをすると、近くにある漫画喫茶の場所を調べる彼女。ゲームセンターを出て二人で漫画喫茶、世間一般的にはネットカフェと呼ばれている場所へ行く途中、原稿をやっているであろう宇月さんに今から二人でネカフェ行くんだ、宇月さんはよく行ってそうだよねなんてメッセージを送ると、


『ネカフェなんて臭そうだし行くわけないじゃないですか。どうせあんなとこに入り浸ってるのは毎日風呂に入っていないホームレスですよ。ネットも漫画も自分の部屋で落ち着いて楽しむものですよ』


 なんて回答が返って来る。偉そうに言っている宇月さんはそもそも毎日お風呂に入っているのだろうかと生活リズムが滅茶苦茶であろう彼女にセクハラ的な質問をするべきかどうか悩んでいるうちにネットカフェへ到着。


「受付していいわよ」

「やり方わからないんだね」

「黙りなさい」


 それまでは先導していた彼女だったが、店に入るなり僕に受付を促す。このネットカフェ系列は昔友達とカラオケ目的で一緒に来たし、その時に作ったカードも捨てずに持っていたので恥をかく事なんて一切無い。個室の3時間パックで受付を済ませて自分の部屋に向かう前に、二番手の彼女のはじめてのうけつけを見守る。


「個室の3時間で」

「カードはお持ちでしょうか?」

「ああ、先払いね。これを」

「いえ、クレジットカードでは無く当店の会員カードでして」

「……」


 僕と店員のやり取りをそのまま真似しようとして、会員カードで躓きこちらを睨みつけてくる彼女。怒りながら会員カード作成の手続きを進める彼女を置いて自分の個室に荷物を置き、ドリンクとソフトクリームも用意して適当に漫画を探す。境遇が境遇だからか、ヒロインが引きこもっている漫画や主人公が引きこもっている漫画を見繕い、部屋に籠って読むこと30分。2杯目のドリンクを取りに部屋を出ると、周囲を気にしながらドリンクバーを混ぜて暗黒物質を作っている彼女に遭遇した。


「小学生かな?」

「冒険心を忘れた大人にはなりたくないわね」

「怖くても学校に行くのが冒険だろう? というか僕帰っていいかな? どうしてもここで漫画読みたい訳じゃないし」

「貴方が勝手に個室で受付をしたのが悪いんでしょう……店員さん相当困惑してたわよ。帰ってもいいから二人部屋に変えて頂戴。部屋が狭くて落ち着かないわ」


 ブルジョワはネカフェの狭い個室では我慢できないらしい。二人部屋を一人で使うのは他の客にも迷惑だろうしと結局部屋を変更して僕もネカフェに居座ることに。店員が致していないかたまに様子を窺っているようだが、カップルでも何でもない僕達はただ無言でそれぞれの漫画を読みふけるのみだ。


「ちょっとお花を摘んで来るわ。ダウンロードするなら今のうちよ」

「ダウンロード?」

「ほら、S〇Dの動画のダウンロードが無料って書いてあるわ」

「ふざけた事を言っているんじゃないよ。大体USBもDVDも持ってないしスマホじゃダウンロード出来ないよ」

「個室で試したのね」

「早くお花を摘んで来なよ」


 随分と宇月さんに悪い影響を受けてしまったようで、セクハラをしながら部屋を出ていく彼女。鍵を閉めて致してやろうかという苛立ちを飲み込み、代わりに表紙を飾っているヒロインの見た目が御堂さんっぽい漫画を数冊持ってきて、見える所に置きながら読むことに。


「ふう。……そう、そういうことをするのね。それならこっちにだって考えがあるわ」


 花を摘み終わり戻って来た彼女だったが、机に彼女によく似たヒロインが表紙でセクシーポーズをしたり水着になっている漫画が置かれていることに気づき、すぐに部屋を出て行ってしまう。それからしばらく経つが彼女は戻って来ず、その間に僕はその漫画を読み終えてしまう。当初はメインヒロインとして登場した彼女似のヒロインだったが、話が進むにつれて新登場したヒロインに人気を奪われてしまったらしく出番が少なくなって行き、最終巻である5巻では数コマしか出てこないという悲しい結末だった。ヒロインが彼女に似ているというしょうもない理由で選んではみたものの、5巻で終わっているあたりそこまで漫画自体の人気も無かったのだろう。彼女がメインヒロインなんかになってしまったばかりに。そろそろ3時間が経つ頃なので、漫画を戻して帰り支度をしようと数冊を持って部屋を出ようとすると、彼女が焦った表情で部屋に戻ってくる。


「大変よ、貴方によく似たキャラが見つからないわ」

「どうでもいいよ」

「悔しくないの? モブ顔過ぎて漫画や小説の主人公にはなれないなんて、そんなのあんまりだと思わない?」

「むしろモブ顔過ぎる人は読者が感情移入しやすそうで主人公になれそうだけどね」

「モブ顔未満の男に不登校の世話をされるなんて屈辱耐えられないわ。そうだ、宇月さんならきっと知ってるはずよ」


 僕に似た漫画のキャラを探しているうちに貴重なネカフェの残り時間を使い切ってしまうという、引きこもりならではの時間管理の杜撰さを発揮する、既に手遅れ感のある彼女は僕を憐れみながらSNSで宇月さんに連絡を取る。不登校になる前からずっと漫画やアニメばかり見てきた彼女だ、きっと僕が大活躍するような作品も知っているのだろうと、気づけば主人公志望になって来た僕も宇月さんに一縷の望みをかける。


『ちょっと待ってください、脳内アヤミックレコードにアクセスします……確か数年前に読んだ少女漫画に久我さんのようなキャラがいたはずです。雑誌はまふらー、作者はか行で……』

『少女漫画? つまりヒーロー役ってことじゃない、よかったわね。それじゃあ探してくるわ』

『読みたいような読みたくないような……』


 アヤミックレコードが何なのかには触れず、貰った情報を頼りに僕が出ているらしい漫画を探す。見つかったそれの表紙は僕似の男では無くヒロインらしき少女。まあ、少女漫画だから仕方がない。二人でドキドキしながらその漫画を読み進めると、確かに僕らしき少年が登場していた。


『思い出しました。ヒロインの最初の彼氏であっさりヒーロー役に奪われた挙句ストーカーになって逮捕されるキャラです』


 宇月さんがそんなメッセージを送る頃には、その漫画は少し湿っていたと言う。

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