女の子を救うために同人誌を描きます
「ところで宇月さんはいつ学校に来るんですか?」
「来て欲しいの?」
文化祭も終わり、気の早い人はクリスマスだお年玉だといった話題で盛り上がる中、唐突にオタク部長に声をかけられる。彼女が頭の中で他人と会話した挙句にいきなり『ところで』を使うのはよくあることなので気にしない。
「この前冬に出す本の内容についてチャットで議論していたんですどうすれば人気が出るのか売れるのか真剣に議論していたんです皆が各々泣けるストーリーとかを語っていたんですがそれまで無言だった宇月さんが『おっぱい大きい小中学生出しておけば売れます』と言い放ったんです確信しました彼女は天才だって」
「空気を読まずにそんな発言する子を学校に来させたくはないなあ」
「それに彼女イラストもそこそこ描けますよね私達には時間が無いんですというわけで久我さん宇月さんを連れて週末にちょっとどこへ行くんですか大丈夫ですよ今回は久我さん出しませんから宇月さんのアイデアを採用してロリ巨乳だらけの百合ん百合んな〇×△□」
途中で聴覚を遮断して宇月さんの今後を考える。僕の知らないところでチャット等でクラスメイトや学校のオタク達と会話ができている? のなら、クラスメイトとの間に距離を感じたまま病気で学校に来れないという設定を貫いている御堂さんよりもすんなりと学校に戻れそうだ。ただ当の本人は自分に自信が持てていない。どうしたもんだかと悩んでいると、聴覚を遮断している間に置いていったらしい、僕の分のノルマが机に積まれていた。
「というわけでクラスメイトは宇月さんの復帰を望んでいるよ」
「今の話を聞く限り頭のおかしいオタクしか望んでいないと思うんですけど」
「頭がおかしくてもクラスメイトには違いないだろう? 勿論保崎さんだって僕だって二人が無事に学校に来てクラスが完成するのを楽しみにしているんだ」
「今の話を聞く限り頭のおかしいオタクと頭のおかしいヤンキーと頭のおかしい女装男子しか望んでいないと思うんですけど」
「あ゛ぁ?」
「ひっ……」
クラスメイトが彼女の復帰を望んでいるという紛れもない事実を武器に宇月さんを畳みかけようとするが、頭のおかしい女装男子と言われてしまい、文化祭の件で女装男子として定着してしまったこともあり睨みつけて怖がらせてしまう。
「おっと、僕としたことが……とにかく、今更学校に行くのが恥ずかしいとかそういう感情は捨てないと。僕なんて女装キャラが定着しても毎日学校に行っているんだよ」
「それは心の底では女装が大好きだからでは?」
「……そんな宇月さんに、クラスメイトや部活の人達と親交を深められる素敵なものを用意したよ」
しつこく女装について言われて再びキレそうになるも、心を鎮めてカバンの中から紙の束を取り出して机に置く。そこにあったのはおっぱいの大きい小中学生のキャラデザインと、見ただけで中身の無い話だとわかるネームだった。
「……えっと、おっぱいを大きくすれば男子に好かれて幸せな学校生活を送れるってことですか? 私も頑張ってはいるんですよ? やっとBになったんです」
「僕の事を女装男子だと思っているからか訳の分からないカミングアウトをするようになったね。そうじゃなくて冬にイベントで出す同人誌の原稿だよ。一緒に売れる同人誌を作って、皆の輪に入り込もう。イラストそれなりに描けるんでしょ?」
「デジタル派なんですけど……まあ、いいでしょう」
珍しく僕の方から勉強以外を持ちかけて同人誌制作がスタートする。動画制作で3Dモデリングの心得がある宇月さんはキャラデザインをネームに落とし込み、僕は背景やベタ塗りを担当する。登場人物達のキャラデザインを眺めながら、宇月さんは困惑した表情になった。
「……それにしても統一感がありませんね。日頃から絵を描いてないっぽいのが丸わかりですし、これを今風の萌え絵にしてネームのポーズにするのは相当難しいですよ。誰がデザインしたんですか?」
「エロい女のデザインはエロい男にやらせるのが一番だという頭の悪い理論によって、クラスのエロそうな男子にデザインさせたんだよ」
「どれが久我さんのですか?」
「今日は随分と喧嘩を売るね? 僕が何をしたって言うのさ」
「文化祭のライブに飛び入り参加という許されない行為をしました」
執拗に僕に口撃をする彼女の部屋には、投げ捨てられたライトノベル。文化祭のステージで緊急参戦して場を沸かせるという彼女が夢にまで見たシチュエーションをあっさり僕が達成してしまったのが余程悔しいらしく、憂鬱な表情で溜息を連発する。
「来年はちゃんと学校に来て友達を作ってバンドを組んでライブに出ようね。ベースなら任せてよ」
「私はピンチヒッターとして活躍したいんですよ。いわばクラスの秘密兵器です。あとベースは私のバンドにいりません」
「だったら秘密兵器として同人誌制作手伝ってね。宇月さんがチャットでアホなことを呟いたせいで部活が荒れてね。主力メンバーの一部が手伝わないことを決めたんだ」
「私は皆が学校に行っている間にインターネットで得た知識を基に的確なアドバイスをしただけですよ。男は皆マザコンでロリコンですし、現実ではあり得ないものを求めるのがフィクションです。数年前のライトノベルの話の中身なんて誰も覚えていないけど、ヒロインだけは皆覚えていて今でも卑猥な絵が描かれ続けている……最近勉強ができるようになって来た気がします、日頃から情報収集能力や分析能力を鍛えたおかげですね」
「僕に加えて御堂さんにも勉強を教えて貰っているからだよ」
宇月さんから言えば友達関係では無く取り巻きの関係らしいが、僕の知らないところで遊んだり勉強を教えて貰ったりはしているらしい。冗談でも何でもなくお互いの事を一番よく知っているのはお互いなのだろう。黙々と作業を進めていく途中、宇月さんは突如閃いたのかパソコンに向き合いカタカタと文章を打ち始める。見るとそれはプロットのようだった。
「……中身の無い同人誌を作っているうちに、中身のある同人誌を作りたくなったんです」
「中身の無い同人誌になった原因は宇月さんだよ?」
「幸い私は時間が有り余ってますしデジタルなら素早く描けます。ロリ巨乳同人誌で人を集めておいてその隣には私が作った泣ける同人誌……完璧じゃないですか」
「1つ聞くけどヒロインが女装メイドで泣ける同人誌が作れるの?」
自分と御堂さんを同人誌に出すのは抵抗があるのか、どう考えても僕をモチーフにしたであろう女装メイドがどう考えても保崎さんをモチーフにしたであろうヤンキー女に女装がバレて脅されて……という中身が無いどころか嫌がらせでしかないプロットを作り出す。
「私なりの恩返しですよ。本当は恋人が作りたいのに私達のせいで彼女ができないことを気にしてたんです。だから同人誌の中であのヤンキー女とくっつけてあげます。この同人誌を皆が読めば自然に付き合っちゃいなよなんて流れになるはずです」
「保崎さんと付き合うくらいならまだ宇月さんの方がマシだよ」
「えっ」
既に僕は夏の時点で宇月さんやクラスのイケメン男子と致しているというのに、今度は女装して保崎さんと致す羽目になるのかとげんなりする。時間になったのである程度は進んだ原稿をカバンに入れて、作るのはいいけど印刷とかもあるんだから締め切りにはちゃんと間に合うようにしてねと釘を刺す。僕と保崎さんの絡みを想像してしまったのかはわからないが、宇月さんは随分と顔を真っ赤にしていたようだった。




