女の子を救うために文化祭を楽しみます
「こちらパンフレットになります。3年2組ですか? それでしたら向かって左側になります」
「お、よっぴーじゃん。ウチステージでバンドも漫才もやるから見に来いよ!」
あっという間に準備も終わり、文化祭当日。文化祭実行委員や生徒会はもっとやることがあり、受験を控えた3年生やフレッシュな1年生は文化祭を満喫して貰いたいということで、2年生の学級委員の僕が受付で一般参加の人達の対応をする。
「あ、弟君だ。おいすー」
「倫也のメイド服が見れると聞いて飛んできました」
「着ないから。受付は昼までだから、そこから15時までは自由時間だから案内するよ」
「弟君、彼女どころか友達もいないんだね……」
「そうなんですよ久我のお姉さん。こいつ真面目過ぎてクラスメイトは若干引いてるんすよ」
「来年には僕が先輩になっているんだから口の利き方には気をつけようね」
姉妹の対応をしている途中、校門の辺りで怪しい二人組がこそこそとこちらを伺っているのを発見する。姉妹が去って行った後、僕はため息をつきながらその二人に対して手招きをした。
「申し訳ありませんが本校は不審者は出入り禁止ですので」
「私のどこが不審者だって言うのよ!」
「そうですよ、どこからどう見ても普通の女子高生ですよ」
「サングラスを外してから言ってもらおうか」
サングラスとマスクで変装をしたつもりの宇月さんと御堂さんだが、元から存在感の無かった宇月さんはともかく金髪で目立つ御堂さんは変装をしたところで気づかれそうなものだ。文化祭の準備に参加してない癖に来てんじゃねえよと珍しく正論で突っ込む保崎さんにちょっと抜けるねと伝え、二人を演劇部の衣装部屋へ連れて行く。
「演劇部は特に文化祭のステージで劇をやるとかそんなことはないから好きに変装していいよ。どうせお化けもメイドもいるしどんな衣装になったって浮かないさ」
「それじゃあ私はお姫様の衣装にします」
「私はサングラスはかけたままで、スーツを着てSPっぽくなってみるわ」
「そうかい、それじゃあ文化祭楽しんできてね」
そんなに予算が無いので毎回主役のヒロインが使いまわし色あせているお姫様の衣装を手に取って目を輝かせる宇月さんと、クールな自分にはこれが似合うとでも言いたげに黒いスーツを見てにやける御堂さん。思い思いの衣装に着替えようとする二人を置いて受付へ戻ろうとするが、一緒に回ってくれないんですかと呼び止められる。
「待ってくださいよ、エスコートしてくださいよ。二人じゃ心細いんですよ」
「そうよそうよ、不登校同士とは言え二人で文化祭を回るのは気まずいわ」
「僕は受付があるし、二人と一緒に歩いていたら周りに何を言われるかわかったもんじゃないよ。大体御堂さんは病気で学校を休んでいる設定なんだしテストの時は普通に学校来てたんだから何食わぬ顔で参加すればいいじゃないいか」
「不登校期間が長すぎて、嘘をつくのが下手になったの。今クラスメイトに色々聞かれて隠し通せる自信が無いわ」
「そうだ、久我さんも変装すればいいんです。仕方がないですね、お姫様の衣装は譲ります」
強引に押し切られてしまい、仕方なく被り物をして一人で受付を頑張っているであろう保崎さんの犠牲を忘れずにお姫様とSPと共に文化祭を回ることに。統一感が無さ過ぎて一体どこのクラスの出し物なのだろうかと周りに不審がられながらもクラスや部活の展示を見たり、チープな焼きそばやクレープを食べたりと文化祭を満喫する。メイド喫茶の裏方として持ち場に戻るまで後1時間といったところで、ベースを抱えた保崎さんがこちらを見つけるなり走り寄ってくる。
「大変だ久我! 次にやるバンドがベースが必要か不要か論争で揉めてベースの人が脱退してしまったんだ! 必死でベーシストを探したけどお前しかいないんだよ!」
「よく僕だってわかったね。演奏前にそんな論争をするようなバンドで演奏したくないよ。ベース不要なんでしょ」
「文化祭を成功させたいんだよ、受付から逃げたことはチャラにしてやるからさ」
「馬鹿だから忘れていると思ったけどそうはうまくいかないか。仕方がない」
コミュ障共を救うためとはいえ馬鹿な保崎さんに受付を一人で任せてしまったことにする負い目もあるので、ベースを受け取って演奏や漫才が繰り広げられる体育館へと向かう。幸いにも流行りのバンドのコピーバンドで練習をしている時にもやったことがある曲だったのでそれなりに自信を持ってステージに立つことができた。保崎さんは次の演奏の準備があるので客席にはいないが、代わりに自分達がステージで活躍する妄想でもしているのだろうか、少し悔しそうな目でこちらを見つめる二人の姿が。実際にバンドに参加してみてベースの必要性に悩みながらも演奏を無事に終えて、保崎さんの演奏やら漫才やらを見た後に裏でオムライスやらクレープやらを作るために自分のクラスのメイド喫茶へ向かう。僕を見るなりメイド服を着たオタク部長がヒラヒラの白黒ビキニを持って駆け寄って来た。
「大変です久我さん他のクラスよりも売り上げがよくありませんこれはテコ入れとして久我さんが女装マイクロビキニメイドになるしかないんです」
「ねえよ。何だその衣装、大事なところが全然隠せないじゃないか、風営法違反だよ」
「久我、ワンフォアオールの精神を持て」
クラスメイトに押し切られてしまい、妥協して普通のメイド服を着て接客をする羽目に。宇月さんの家で行ったメイドの練習とやらは全く役に立たないし、演劇部の経験が自然と女の子らしい動作や声色をさせてしまうのでそもそも女装メイドだと周りに気づかれていないらしく、テコ入れにはなっていない。
「妹君、是非家でも奉仕して欲しいね」
「本当にメイド服が見れるとは……」
パシャパシャと僕のメイド服姿を撮りまくる、現実のメイド喫茶やらでやったら出禁になりそうな身内がクラスから出て行って一息つけると思ったら、今度はお姫様とSPが入ってくる。元から存在感の無かった宇月さんはともかく御堂さんも多少変装した程度でクラスメイトにバレなくなるくらいには過去の人となりつつあるらしい。
「オムライスとメイドリンクをください」
「私はクレープとチャーハン」
「かしこまりました。チャーハンは少々お時間かかりますがよろしいでしょうか?」
テコ入れのためにメイドとして接客をするが、裏方の仕事をしなくていいという訳では無いし調理ができる人間が少ないということもあり裏へ回ってチャーハンを作る。どうして作ることができる人がほとんどいないメニューを採用したのだろうこのクラスは。
「お待たせしました。こちらオムライスとメイドリンクになります」
「このドリンクを零しちゃってパンツを見せながら拭くオプションを」
「そのようなサービスはやっておりません」
「じゃあケチャップで女装って書いてください」
「書きづらい……」
先に宇月さんに料理を持ってくると、勝手にメニューに付け加えたセクハラでしかないオプションを要求するので突っぱねる。残念ながらケチャップでオムライスに文字を書くのは正式なオプションなので潰れまくりの文字を書いて文句をつけられながら調理場へ戻り、クレープとチャーハンを持って御堂さんの元へ。
「なかなかの味ね。デザートにグレープシャーベットを頂けるかしら」
「申し訳ありませんがそのような商品はございません」
「校庭でアイスを売っている部活があったからそこまで行って買って来て。これもメイドの仕事よ」
「パワハラですわ」
未だに未練がましくグレープシャーベットを要求する御堂さんに他の客の邪魔になるからさっさと食べて帰れと塩対応をする。どこかの馬鹿が『ウチのクラスには女装メイドがいるんです!』と宣伝したらしく二人が帰って行った後から客足が伸び始め、交代する暇もなく結局閉会式にも女装メイド姿のまま出席する羽目になる。
「2年生の売上1位は……2組です! 代表者、前へ!」
僕の犠牲の甲斐あり優勝できたらしく、代表者になったつもりは無いのだが壇上に立って感想を述べる羽目に。疲れなどもあり声色を変える余裕が無く、ほとんど素の声で感想を述べた結果全校生徒に女装キャラとして定着してしまうのだがそれは別のお話。




