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女の子を救うためにボケをします

 いつものようにゲームセンターに向かい御堂さんを探す。馬を育てている訳でも無く、音ゲーをしている訳でも無い。一体どこで遊んでいるのやらとウロウロすることしばらく、パンチングマシーンの前で息を切らしながらサンドバッグに渾身の右ストレートを放つ彼女を見つける。


「お、遅いわよ……貴方が探してくれないからもう右手がボロボロよ」

「平日の昼間にパンチングマシーンで遊んでいる女子高生なんて探せるわけ無いじゃないか。ボクシングでもするのかい?」

「いいえ、貴方にやる突っ込みの練習をしようと思ってね」

「ト〇ブラウンですらそんな全力パンチはしないよ。御堂さんもお笑いに目覚めたのかい? そして僕がボケなんだね」


 学校にも来ずに突っ込みの練習をするためにゲームセンターで何度もパンチングマシーンをプレイし腕を痛めるという彼女の姿は宇月さん以上に滑稽でお笑いだが、彼女は私がボケなんてあり得ないでしょうと言わんばかりに鼻で笑う。


「今までお笑いはほとんど見てこなかったけれど、なかなかいいものね。宇月さんはバーチャル賞レースに出るのでしょう?」

「僕がネタを作って彼女が動画を作るわけだから実質僕が出てるんだけどね」

「負けてられないわ、私もネタを作ったから今から家で練習をしましょう」

「いや、バーチャルだから練習する意味無いんだよ」

「甘いわね。私達が動いている姿をモーションキャプチャーしてバーチャルにするのよ」


 ほとんど腕が上がっていない状態で練習をすることが可能なのかはさておき、ゲームセンターを出て彼女の家へ向かい、お笑いのために彼女が用意したらしい部屋へ向かう。そこにはモーションキャプチャーのために使うスーツや、カンペを出すためのスクリーンが用意されていた。別のスクリーンにはモーションキャプチャーで僕達が動かす予定のバーチャルなキャラが二人待機している。僕のキャラクターは白シャツに短パンという初期アバターっぽいいい加減な造形なのに対し、彼女は自分そっくりな顔にキラキラとしたエフェクトをつけたりドレスを着ていたりとやりたい放題だ。


「親の稼いだお金で訳のわからないものを作っちゃってまあ」

「芸能活動って余裕のあるセレブがやるものよ。スクリーンに台詞や動きが表示されるから、その通りにやって頂戴」


 スーツに着替え、並んでスクリーンの前に立つ。仮にも演劇部なのでネタだけ書いてバーチャルで動かすよりは、実際に動く方が幾分やる気が出る。ネタを作ったのが彼女というのが不安だが。そんなことを考えているうちに、漫才のタイトルがスクリーンに表示され、彼女がそれを読み上げる。


「コント、『狙っている女子が不登校になったので下心丸出しで家に通う男』」

「(悪意ありすぎだよ!)」


 心の中で突っ込みを入れながら、自分の台詞や動きを確認する。クソみたいな台本なのは既にわかりきっているが、職業病というやつなのか素直にやってしまう自分が悲しい。


「いやーあの子が不登校になるなんてラッキーだったなー学級委員だから合法的に彼女を学校に復帰させるために家にいけるしこれで仲良くなればむふふふふ(陣〇かよ!)」


 冒頭から説明をしながらるんるん気分で彼女の家へ向かう僕。ピンポンとチャイムを鳴らすと、どんよりした表情の彼女がドアを開けて出てくる。


「誰……」

「やあ道見さん。僕だよ、久我だよ(僕の名前も変えてよ!)」

「……誰?」

「学級委員の久我だよ! どうしたのさ道見さん、急に学校に来なくなるなんて」


 自分を不登校のモデルにするのは嫌なのか、彼女は猫背で伏し目がちで人と目を合わせない、宇月さんっぽい挙動をしながら不登校の理由を語り始める。


「好きな男子とうまく喋れなくて、嫌われたかなあって思ったら学校に行くのが辛くなったの」

「そうなんだ。じゃあ帰るね」

「酷くない!?」


 彼女の不登校の理由が色ボケであることを知るや否や、脈無しかと帰ろうとする僕に彼女がツッコミを入れる。僕がボケで彼女がツッコミといういう構図だが、そんな理由で不登校になられたら恋愛感情を持っていなくても帰りたくなるだろう。


「ちなみに誰が好きなの?」

「野球部の田中君」

「あーあいつ屑だからやめたほうがいいよ。裏ではバットで猫とか虐めてるって聞くし」

「そうなんだ……」


 彼女の好きな人を聞き出し、諦めさせるために嘘の屑エピソードをでっちあげる僕。コントとは言えどこんな人間になりきらないといけないのは辛いものがある。


「だから田中君は諦めたほうがいいよ。しばらく学校に行っていないから学校に行った時に気まずいかもしれないけどさ、僕が力になるから」

「田中君の次に好きな人がいるの。サッカー部の遠藤君」

「遠藤君も屑だからやめたほうがいいよ。試合中にゴールポストとかずらしてるし」


 随分と惚れっぽい性格なのかその後も次々と好きな男子を述べては、僕の出まかせ屑エピソードで諦める彼女。もっといい人が身近にいると思うよ、とアプローチをかけても僕の名前は一向に出て来ずに段々と焦りながら卓球部の人はピンポン玉と見せかけてキンカンをたまに使っているだとか将棋部の人は金と玉を股間に持って行ってギャグをやっているとかいい加減なエピソードになっていく。これではコントではなくてただのあるある? 偏見ネタだ。


「私のクラスの男子って屑ばかりなのね……」

「まともな男子も残ってるよ、ほら、一人心当たりがあるんじゃないかな?」

「女子バレーの佐藤さんって男より男らしいわよね」

「そっちかー……佐藤さんは体育館の上の方にしょっちゅうバレーボールをはめてるよ」


 男子が終わったと思ったら次は女子のターンになってしまったらしく、僕は女子の屑エピソードを次々と喋るハメになる。女子も数人くらい諦めさせたところで、彼女が嬉しそうな顔になる。


「恋愛は私にはまだ早そうね。クラスメイトと喋るネタが無くて辛いってのも理由の1つだったけど、今日久我君に教えて貰った皆のネタで友達の輪に溶け込むわ」

「えっ」

「安心して。情報源は久我君だってちゃんと伝えて、クラスの情報通としての地位は確立させるから」

「いや、それはまずいって」

「明日から学校に行くわ。そういう訳でさようなら」


 クラスメイトに僕が皆を屑扱いしていたことを伝えるという宣言をした後無情にもドアは閉められる。次は僕が不登校になる番かな、と呟いた後、チャンチャン♪という古臭い効果音と共に暗転代わりなのか部屋の電気が消えた。


「どう?」

「つまらないし同じようなネタを何度も繰り返し過ぎだから。大体このコント動きがほとんど無いじゃないか。モーションキャプチャーでやる意味が無いんだよ。そもそもあの初期アバターとキラキラドレスでやるネタじゃないでしょ」


 明かりがついた後に鼻息荒くドヤ顔の彼女に素直に面白くなかったと伝える。こんなものはコントでも無ければ漫才でも無い。練習と言っていたので本来は何度か動きや喋りの質を上げるためにやるべきなのだろうが、これ以上やる気は起きないし彼女も私一人でこの作品は完成させるわと怒ってしまって家から追い出される。宇月さんからバーチャル賞レース3回戦に進出しましたという嬉しそうなメッセージが送られて来る頃、そういえば御堂さんの作ったしょうもないコントもどきはどうなったのだろうかとメッセージを送ったところ、


『動画を作るのって難しいのね』


 とだけ返ってくる。秀才の御堂さんとは言えど動画制作は簡単にはいかないし宇月さん程の情熱も無かったのだろう、途中でモチベーションが尽きてしまったようだ。こうして僕の声も入っている駄作が世間に公開されるという悲劇は防がれたのだった。


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