女の子を救うためにツッコミをします
「皆さん衣装が届きましたよ残念ながらメイド服しか用意できなかったので男子も着用をお願いしますねあ久我さん一着だけメイドビキニが用意できたのでどうぞ」
「一つ聞くけど、男子がメイド服を来て接客して、他のクラスに勝てると思うの?」
「今すぐ執事服を探してきますね」
文化祭の準備も中盤に差し掛かり、宇月さんに誘導されるがままにメイド服ばかり用意してきた挙句、僕にビキニを渡して来た馬鹿に突き返しながら装飾等を作っていくと、教室の外からお笑いの賞レースで芸人が出てくる前に流れてくるようなBGMが聞こえてくる。
「はいどーもー保崎です!」
「桐生です」
「「二人合わせて保崎ドラゴンです」」
「というわけでウチら同級生のコンビなんですけどもね」
「まぁもうすぐ先輩後輩になるんだがな」
「人を留年確定みたいに言うなや!」
保崎さんと男子側のクラスの人気者が黒板の前に立ってそのまま漫才を始め、皆が文化祭の準備を止めてそれを眺めながら時折クラスの内輪ネタで笑いの渦が巻き起こる。よく見たら二人の制服には賞レースのエントリーナンバーを示す名札がついていた。3回戦突破を目指すというのは冗談では無かったらしい。
「で、どうだった?」
「賞レースでネタをやるならクラスメイトのおバカエピソードじゃなくて保崎さんのおバカエピソード一本に絞るべきだね。今はクラスメイトが皆知ってるからクラスメイトのエピソードでも盛り上がるけど、賞レースだと大半は保崎さんが見るからに馬鹿そうってことしかわからないんだから」
漫才が終わり準備に戻った保崎さんから感想を求められてそれっぽいアドバイスをし、他のクラスメイトも彼女達が賞レースで活躍することに貢献したいのかネタのブラッシュアップのために意見を出す。この日準備は大して進まなかったが団結力は上がったということで、いつものように翌日に学校を休み(放課後には文化祭の準備のために学校に行く)、宇月家へ。
「漫才やりましょう」
「勉強しましょう」
彼女の部屋の前まで来ると足音で気づいたのかドアを開けて開口一番漫才に誘われるので即答で断ってやる。存在がお笑いなのは宇月さんだけで十分だ。
「暇だったから賞レースの3回戦動画をずっと見てたんです」
「勉強しろ」
「そしたら気づいたんです。『あんまりレベル高くない』って」
「人前で喋ることすらロクにできない癖に何言ってんのさ。そりゃテレビとかで漫才やってるのは決勝クラスが多いけど、3回戦クラスの人達だってお笑いの養成所でみっちり学んで劇場とかで笑いを取ってきた人達だよ。言っておくけど保崎さんも出場するし当然クラスメイトも一回戦見にいくはずだよ? そこに唐突に学校に来てない宇月さんが出てきてロクに喋れずに退出したらもう復帰は絶望的だよ?」
お笑いも喋りもナメきっている宇月さんに説教をするが、彼女は甘いですねとばかりにパソコンの画面を指さす。そこには最近流行りのバーチャルキャラが漫才のように並んで喋っている動画があった。
「時代はバーチャル漫才ですよ。架空のキャラクターに合成音声を喋らせてやるんです。私が人前に出る必要も、私が喋る必要も無い!」
「だったら一人二役出来るね。僕が参加する必要すらない。一人でボケとツッコミを頑張ってね。じゃあ勉強しようか」
「やだなぁ、久我さんはネタ担当ですよ。私は編集担当です」
「実質僕が一人で漫才やってるだけじゃないか……」
仮に僕がネタを作って宇月さんが編集をしてそれでバーチャル賞レースでいい成績を取って、宇月さんはそれで満足なのだろうかと困惑しながらも勉強を進めようとするが、案の定彼女はネタ出しばかりして進みやしない。僕の知らないところで御堂さんも宇月さんに勉強を教えてやっているらしく、全体の進捗としては問題無いというのが何とも腹立たしい。数日後、彼女がバーチャル賞レースに提出したという動画が送られてくる。動画の中には宇月さんとは似ても似つかない猫耳の美少女キャラクターと、僕とそっくりな、若干宇月さんのキャラより身長を低く設定されているキャラクターが立っていた。
『どうもー、不登校ズです!』
『いや僕は不登校じゃないよ?』
『でも週に1日学校休んでるじゃないですか。週に5日学校休んでる私と何が違うんですか?』
『全然違うよ! あやみーを学校に復帰させるために休んでるんだよ!?』
『そんなことより私なりたい職業があるんですよ』
『まず学校行こうよ』
『私聖女になりたいんです』
『じゃあトラックにでも轢かれようね』
僕の分身が心無いツッコミをすると、画面外からトラックが突っ込んで来て僕は跳ね飛ばされてしまう。二次元の動画だからってやりたい放題だし、漫才でこういう小道具に頼るのはどうなのだろうか。しばらくすると、女装した僕にそっくりなキャラクターが天から降りてくる。
『僕、聖女になっちゃった!?』
『じゃあ私はアンデッド役しますね。グオオオオオ』
『えーい、あるべき世界へ還れ、二〇ラム!』
僕が聖女になると同時に宇月さんは骸骨の姿に変身し、こちらに迫り寄ってくる。僕はアンデッドを消し去るために呪文を唱えるが、全く効いていない。
『アンデッドがこの世にいてもいいじゃん! 名前的にも死んではいないんだからこの世にいる権利はあるはずです』
『死んでるんだよ』
『じゃあ次は病気の子供になりますね。うえええええんお腹が痛いよおおおお』
『編集が面倒くさくなったからって骸骨のままにならないでよ。お腹ないじゃん』
今度は病気の子供になったらしく、骸骨姿のまま横たわって苦しみだす。僕は回復魔法を唱えて彼女を治そうとするが、彼女は苦しむ一方だ。
『あああああ痛い痛い痛い痛いアンデッドに回復魔法は厳禁ですよ!?』
『何でアンデッド設定引きずってるんだよ』
『じゃあ次はもうすぐ出産の妊婦をしますね。あら聖女様、私もうすぐ母親になりますの』
骸骨姿を変えないまま妊婦になったらしく、お腹の辺りに頭がゾンビの小さな骸骨が絡みついている。父親がゾンビなのだろうか。
『まあ素敵ですわね、祝福を授けさせて頂きます』
『ありがとうございます。もう名前も決まっているんです。私の可愛いあやみー2+24……』
『育成ゲームの名付け方はやめよう? そして配合の修正値を名前扱いしないで?』
『でも折角聖女様に祝福を頂いたのですから、それも名前に取り入れたいですわね。……そうだ、†あやみー2†+24にしましょう』
『一昔前のネットゲームのハンドルネームじゃないんだから。それと†は十字架じゃなくてダガーだよ』
赤ちゃんに祝福を授けるのが聖女の仕事なのかはさておき、僕がお腹のハーフアンデッドに祈りを捧げると宇月さんはお腹をさすりながら我が子の名前を呟く。随分と配合を繰り返したようだ。
『私聖女相手にやりたいことがあるんです』
『そもそも聖女になりたいのは宇月さんだよね? 何がやりたいのさ』
『触手です』
『動画消されちゃうよ! もうええわ、ありがとうございました』
最終的に宇月さんは骸骨からグロテスクな、ここ最近部活のメンバーに無理矢理読まされた漫画に出て来そうな触手に変身して僕を襲おうとするので、突っ込み代わりにモザイクをかけて漫才は終了する。バーチャル賞レース3回戦に進出したらしい。




