女の子を救うためにメイド喫茶に行きます
「久我さん、女子トークしましょうよ。学校に復帰してクラスメイトと会話する練習台になってください」
宇月さんと共に家を出て最寄りの駅に向かい電車に乗る。平日とは言えどお昼時ということもあり、お昼の間に移動をしているであろう社会人や、友達と遊びに行くであろう女子大生がちらほらと車両に。見た目は何とか普通の? メイドに見えるかもしれないが中身は男ということもあり声を出さないように努めていたのだが、そんな僕の作戦を見破ったのか宇月さんがニヤニヤしながらお喋りを持ちかけてくる。
「あやみー、最近何の映画見た? 私は手術海鮮を家族と一緒に見たわ」
「……え、あ、その……ホームアーロンを」
精一杯高い声を出して受け答えをすると、自分から持ち掛けた癖に宇月さんはしどろもどろになりながらぼそぼそと喋りだす。声も低くなっており、客観的に見たら女装しているのは宇月さんの方であろう。
「私思うんだけど、自分の得意分野だったらあやみーも饒舌に喋れるわよね? メイドへの拘りってあるの」
「主流は白黒のメイド服なんですけど、私的にはピンクのメイド服が完成系だと思うんですよ。そもそも中世のヨーロッパでは……」
電車の中でメイドへの拘りをペラペラと語り始める、是非部長とぶつけてみたい宇月さんと共に揺られることしばらく、途中の駅で一緒の車両にいた女子大生らしき人達が電車を降りる。すかさず宇月さんはスマホを取り出してSNSをチェックし始めた。
「今のJD、久我さんの事を盗撮してましたよ。多分SNSで女装メイドがいるとか話題にしてます。早速探して見ますね……えっ」
SNSで僕が晒されているのをウキウキしながら探す彼女だったが、途中で固まってしまう。彼女のスマホを覗くと、『電車の中でキモオタ女がメイドについて熱く語ってたwww』という文章と共に、僕では無くニヤニヤしながらメイドについて語る彼女の姿が晒されていた。怒り狂いながら通報をする彼女と共にメイド喫茶があるという駅で降りて御堂さんと合流する。
「……ついに本当の自分に目覚めたのね。おめでとう」
「フィオナ、誤解してない? 脅されて仕方なくなんだからね?」
「こんなシチュエーションで男に下の名前で呼ばれるとは思わなかったわ……」
駅前で周囲に人やタクシーがいるということもあり、女性が女友達と合流したという設定を貫いて自然に友達感覚で下の名前で呼ぶと、御堂さんは困惑しながらカバンからメイド服を取り出して宇月さんに渡そうとする。
「はいこれ」
「何で私が着ないといけないんですか。御堂さんの方が似合いますよきっと」
「よく考えてご覧なさい? 美少女である私と、女装の達人である彼と、貴女が三人揃っていたら周囲はどう思うか」
「なんか相対的に私が釣り合っていない感じに!?」
「悲しいわよね。人生には周りに合わせるということも大事なの。さあ、ロリメイドとして生まれ変わるのよ」
意味不明な理論で説得されてしまった宇月さんはメイド服を持ってトイレに向かい、しばらくすると僕と似たようなメイド服を着た、別にロリメイドという程ロリでも無いしかといって大人な女性という訳でも無い表現がし辛い彼女がやってくる。
「これで美少女お嬢様と二人の従者ね」
「メイド服を着るだけで魅力がアップした気がします。久我さん、どっちがナンパされるか勝負しませんか?」
「平日の昼間にメイドをナンパするような男に出会いたくないわよ」
メイド二人で両脇を固め、お嬢様オーラを出しながら真ん中を歩く御堂さんに追従することしばらく、今回の目的であるメイド喫茶へ到着する。
「おかえりなさいませお嬢様……とお坊ちゃま」
「3名よ」
「こちらのお席へどうぞ」
中に入りお出迎えしてくれたメイドさんは、職業柄女装等も見慣れているのか僕が女装していることを一瞬で見抜いてくる。こちらは女装しているのだから見抜いたとしてもきちんとお嬢様呼びを徹底すべきではないのか、そもそも二人はメイド服を着ているのだから同僚扱いするべきではないかとよくわからないことを考えながら席に着いてメニューを眺める。適当なオムライスにケチャップで絵を描くというイメージしか無かったため本格的な料理が出るとは一切思っていなかったが、メイド喫茶も年月が経ち競争しているうちに全体的にレベルアップしているのだろうか、チャーハンやマグロ丼と言ったメイド喫茶のイメージに無いメニューが目に付く。
「メニューは飲み物とオムライスとケーキだけで考えていたけど、もう少しバリエーションを増やした方がいいかもしれないわね……」
「文化祭のメイド喫茶に拘り過ぎでしょう。メイド喫茶経営する気なの?」
「料理なんて飾りですよ。大切なのは奉仕の精神。わざと水を零したらきっとパンツ丸出しで拭き始めますよ。それがメイドの極意なんです」
「変な漫画の見過ぎよ」
変わり種メニューがあっても人間は安定を選びたがるのか、結局オムライスやケーキと言った定番メニューを注文し、メイドさんがケチャップでハートを書いてる姿を参考のために撮影したり、メイドさんがよくやっているらしい手でハートを作るポーズを撮影したり、自分は裏方なのでやることはないが折角来たのだから文化祭の成功のためにと色々とメイドの極意を教わろうとする。
「あ、もうすぐメイドさんによるライブが始まるらしいですよ。折角メイド服を着ているんだから参加して来たらどうですか?」
「あやみー、自分もメイド服を着ている状態でその発言は首を絞めるわよ?」
気づけば周囲に常連っぽい客が増えており、メイドさん達が店の中にあるステージを準備し始める。特定の時間になるとメイドさん達が歌って踊るライブをするらしく、ここからデビューしたアイドルもおり最近ではアイドル志望の女の子が働きに来ることもあるという裏事情を聞いていると、宇月さんは僕をステージに立たせようとする。当然そうなると同じくメイド服を着ている宇月さんもステージに立つ流れになってしまうわけで、女装しているというとは言えど演劇で場数をそれなりに踏んでいる僕はステージに立つことで演技モードに切り替わったこともあり全く動じていない一方で宇月さんははわわわわとドジっ子メイドになりきっているのかもしれないが挙動不審に拍車をかけている。
「今の時代メイドさんだけじゃなくてお嬢様も踊るべきですよね? ほら、御堂さんがセンターに立って踊ることでお嬢様とメイド集団という感じで映えますよ!」
「その手には乗らないわよ。貴女達みたいに端っこで踊るならまだしも私がセンターで踊ったらアイドルを目指して頑張っているメイドさん達にも失礼でしょう」
「それじゃあメイド服着ましょう! ほら、メイド体験と言う感じで貸し出しやってますから!」
「必死ね……」
死なばもろとも精神の宇月さんに押し切られる形で結局メイド服を着た御堂さんもステージに立ち、新人メイド三人を加えた本日のライブが始まった。といっても曲も踊りも事前にちょっと説明されたくらいでは覚えられないので僕も御堂さんも口パクをしながらそれっぽいダンスをしていたのだが、テンパってしまった宇月さんだけはよくわからないアニソンを大声で歌いながら暗黒太極拳をやり始めて盛大に邪魔してしまう。
「うう……誰ですかメイド喫茶に行こうって言ったのは。誰ですかステージに立ちましょうって言ったのは」
「因果応報って言うんだよ。賢くなったね」
目的は果たしたのだからもうメイド服でいる必要は無いだろうとトイレで普段の服装に着替え、女装に気づいていないメイドさんや客を驚かせた後、傷心状態で着替えるのを忘れメイド服のままな宇月さんと、気に入ったらしくメイド服を買い取った御堂さんと共に店を出てそれぞれの帰路につく。流れで本来宇月さんの持ち物であるメイド服を持って帰って洗濯に出した結果家族会議が開かれるのだがそれは別のお話。




