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女の子を救うために格ゲーで負けます

「ゲームセンターかぁ……去年の文化祭の打ち上げの帰りに行ったきりだなぁ」


 午前中に宇月さんと話をした僕は、家で昼食を採って私服に着替えた後に学校近くにある大きなゲームセンターへとやってきていた。不登校の説得なんて面倒だからサボるわけでは無く、もう一人のターゲットである御堂さんがここにいるからだ。保崎さんは御堂さんの説得には失敗したがアドレス交換には成功したらしく、別の学級委員を寄越すからそこを離れるなよとアシストはしてくれた。


「元々は凄く真面目な人間だったって聞くし、宇月さんよりは話ができるといいんだけど」


 宇月さんとも御堂さんとも高校一年生の時はクラスが別だったが、友達が出来ずに隠れるように生きて来た宇月さんと違い、御堂さんの噂はよく聞いていた。なんせ定期テストの順位表で毎回一番上にいるような成績優秀な人だ。成績優秀で真面目で、家柄も良い、絵に描いたような優等生。グレてしまったというのも一時的な事だろうと、彼女がいるらしいアーケードゲームのコーナーへ向かう。


「……」


 平日の昼間で客が少ないこともあり、格闘ゲームを無表情で遊んでいる金髪の、右側をサイドテールにしている少女はすぐに見つかった。金髪と言っても彼女はハーフで地毛なので、グレて髪を染めている訳では無い。そういう外見なので廊下等ですれ違った時に自然と見てしまったりするが、とても綺麗な人だ。


「御堂フィオナさんだよね? 僕、学級委員の」

「久我倫也君でしょう? 一年の時は4組で学年順位は20位~30位をうろちょろしている。ねえ、貴方格ゲーしたことある?」

「ごめん、無いんだ。あんまりゲームセンター自体行かないし」

「それは良かったわ。さ、反対型に座って100円を入れて」


 話しかけて名乗る前に名前と成績すら当てられてしまう。そのまま格闘ゲームを勧められてしまうも、気まぐれに動画サイトで人気の対戦動画を見た程度の、遊んだことのない僕に彼女の相手が出来るとは思えない。100円を入れてとりあえず男キャラを選んで、すぐに目の前の彼女に乱入されて対戦が始める。適当にジャンプを繰り返したり、パンチを繰り返したりするが操作方法すらロクにわからない僕は30秒と経たずに彼女に敗れてしまった。


「ごめんよ、相手にならなくて」

「素晴らしい負けっぷりね。ちなみにこないだ来た子は私を完膚なきまでに叩き潰してくれたわ……いいわ、貴方に話をしてあげる。貴方、普段は誰と住んでいるの?」

「誰って、家族だよ。両親と、OLの姉と、中学生の妹。父さんは翻訳者だから、家にいることも多いかな」

「理想の家族ね。貴方の家の子になりたいわ……私、お嬢様なの。どうしても周りとは話が合わなくて、友達は少なかったわ。高校に入ってからの友達も、所詮は上辺だけの関係。私が学校に来なくなっても、誰も心配するようなメッセージを送って来ない。いえ、心配してくれる人はきっといるのよ。私が距離を置いていたせいで、そんな連絡をする距離感に無いだけで」


 仮に僕が嫌なことがあって引きこもってしまった時、友達は心配してくれるだろうか。友達はいると思っているし、向こうも僕の事を友達だと思ってはずだが、親友という間柄の人間は見当たらない。だから『誰か家まで行った方がいいんじゃないの?』『お前が行けよ』みたいな流れになるかもしれないと思うと、僕も彼女とあまり変わらないのかもなと若干悲しくなってくる。彼女の続きの言葉を待ったが、ゲームの筐体のBGMが辺りを支配するのみ。


「えと、つまり親友が欲しいってこと?」

「コンティニューよ」

「あ、はい」


 どうやら続きを聞くには再び100円を入れて彼女と勝負しないといけないらしい。さっきはコテンパンに負けてしまったが、次は善戦してやると筐体に書かれたコマンドを見やり、飛び道具的なものがあることに気づく。そして始まったリベンジマッチ、僕はひたすらに飛び道具を打つことにした。彼女が学校をサボってここに来るようになったのは高校二年生になってから。つまりはここで格ゲーを練習している時間はそこまで多くないということであり、ワンパターンな飛び道具連射に対応するレベルには無い、ということらしい。


「……私を怒らせたいの?」

「いえ、すみませんでした」


 このままいけば僕が勝てそうだったのだが、対面から怒りを隠そうともしない、トーンの低い声が聞こえてきてすぐに謝ってしまう。飛び道具を封印し、いい感じに防戦に徹して無事に彼女は二勝目を挙げた。


「それでも私は寂しくなかったの。両親という存在がいたから。私はママもパパも好きよ。仕事で忙しくて昔からあまり構ってはくれなかったけれど、それはそれだけ偉い人だからって、誇りにも思ってた。いい子にしていれば、テストで良い点を取れば、大好きな親が褒めてくれる。厳しい親という訳では無かったけれど、私は親に褒められるために、優等生になったわ。勉強だってスポーツだって、何だってやってきた。その結果どうなったかと言うとね……」


 親に褒めて貰うために頑張る、というのは誰しもが経験した道だ。僕だって小学生の頃は満点のテストを親に見せて褒められてはニコニコと笑っていたから。そういう経験があったからこそ、無意識レベルに人は努力をする習慣がつく。再び話が止まり、僕は100円を入れる。飛び道具はたまに使う程度で彼女に負けようとしたのだが、


「……ひぐっ……えぐっ」


 彼女の操るキャラの動きが明らかに先ほどと比べると鈍くなっている。そして対面からは、彼女のすすり泣く声。泣いている彼女に攻撃をするのは辞めておこうと操作を辞め、タイムアップで彼女の勝利が確定し、顔は見えないがきっと酷いことになっているであろう対面の彼女が落ち着くのを待った。しばらくして、枯れた声で彼女が笑い出す。


「お前はしっかりした子だから、もうママやパパがいなくても大丈夫だよなって、本格的に仕事をするために海外に行っちゃったのよ……あはは、あはははは! 傑作ね! 私、何のために頑張って来たの? 私はこれから何を目標にすればいいの?」

「……」


 僕は宇月さんに比べると御堂さんの抱えている問題は軽そうだと思っていた。だって宇月さんと御堂さんとでは、失礼な話かもしれないがスペックが違うから。けれども実際は逆なのかもしれない。宇月さんの抱えている問題は友達が作れないという学校の中で解決できるような問題だし、チラっと見た彼女の部屋の中は漫画やゲームと言った趣味の物で溢れていた。友達が出来れば、趣味の合う仲間が出来ればそれだけで解決しそうな問題なのだ。対して御堂さんの抱えている問題は家族や生き甲斐という僕達が簡単に踏み込めない部分。現に宇月さんは身の上話をする時とても落ち着いていたが、御堂さんは自分の事を話すのも辛いと言った感じだ。


「私はわからなくなったの。本当の自分は優等生なのか、親の評価のために頑張ってきただけの、遊びたい少女なのか、それすらも。今までは、あの女……保崎さんのような子を、馬鹿だと思ってたのも事実よ。だから保崎さんが、『勉強ばっかじゃ疲れるよな、ウチらのチームに入って一緒に青春しようぜ?』と手を差し伸べてくれた時、私は拒絶してしまったの。……親もいなくなったことだし、しばらくは色々と、今まで出来なかったことをしたり、自分探しをさせて貰うわ。……話は以上よ。女の子の泣き顔を見る趣味が無いなら、さっさと帰ってくれるかしら」

「……それじゃあ、また」


 身の上話を終えると、また泣きたくなったのか、トボトボとトイレに向かっていく彼女。それを見送った後、僕はゲームセンターを出て家に帰り、制服に着替えて報告するために学校へと向かうのだった。



 …

 ……

 ………



「……というわけです。すぐに学校に来させるのは難しいと思います」

「は~皆色々大変だねえ……つうかあの根暗、ウチをイジメのリーダー格か何かだと勘違いしてねえか?」


 保崎さんが聞き出せなかった彼女達の情報を僕が先生へと報告するのを眺めながら、欠伸をする彼女。彼女が悪い人でないというのは何となくはわかる。根暗なんて言っているのもきっと見たまま感じたままで悪意は無いのだろう。


「なるほどね。宇月さんは趣味の合う友達を作りたい、御堂さんは自分を見つけたい……継続的にサポートしてあげる必要があるね。……よしわかった。久我君、来週からも週1で、今回みたいに彼女達に会って助けてくれるかな」

「週1は多くないですか? それに僕はあくまで学級委員として暫定的に説得をしに行っただけで、本来は女生徒がやるのが適切だと思いますが」


 僕の報告をまとめながら、来週もよろしくと僕を見る担任。確かに1度行って終わりでは意味がないし、何度か行く必要はあるとは思うけれど、週1は多い気がするし僕ばかり行くのはバランスが悪い。


「学校は毎日あるんだ。週1でも足りないくらいだよ本当は。久我君は成績優秀だからそう負担にはならないだろうし。それにな、久我君もあまり人と喋ったりしないタイプだろう? 一年の時の担任も、久我君は良い子だけど、あまり友達と喋っているのを見ない、特に女子とは会話をしているところを見たことがないから心配なんて言っていたぞ?」

「大きなお世話ですよ……」

「ぷぷぷっ、ぼっち扱いされてやんの」


 学校は毎日ある、だなんて尤もらしい事を言う担任。女子に興味が無いわけでは無い。ただ、姉も妹もいて女子のリアルを知っているから、あまり積極的になれないだけなのだが、そういうのを言ったところで通じないのだろうと諦める。


「ちなみに久我君が学校を休んだことによる授業のサポートは保崎さんがするように」

「はぁ!? なんでウチが」

「保崎さん。はっきり言って保崎さんの成績は酷い。このままでは内申どころか進級も危うい。いい機会だから少しは勉強もしなさい。内申目的でも学級委員になった以上はそれくらいはして貰うよ」

「大きなお世話だ!」


 それじゃあ僕は他の教師への連絡とか色々仕事があるから、来週からよろしくねと去っていく担任を見送りながら、大変な事になったなと悩む僕と、露骨に項垂れる保崎さん。余程勉強するのは嫌らしい。


「く、くそっ……。久我、頑張って不登校を登校させろよな! ウチを救うために!」

「これ関係なく勉強はしないと進級できないよ。……ま、乗りかかった船だ。彼女達を救うために、頑張ってみるかな」


 こうして二人の女の子とおまけを救うために、週一で学校を休む僕の高校二年生が始まるのだった。

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