女の子を救うために犬と遊びます
「何故かしら。アイスがあまり美味しく感じないわ」
「夏が終わってそろそろ気温も下がり始めてるからじゃない?」
「値段が3倍くらいになったアイスクリームの方がきっと美味しいはずなのに、私はあの安いアイスに憑りつかれてしまったのかもね」
「あのアイスも庶民からしたら安くないよ。庶民はガリ〇リ君のブドウ味なんだ」
高級アイス屋で買って来たアイスを店内で食べながら馬を育てる彼女だが、それでも満足はできないのか恨めしそうにもうグレープシャーベットの売っていない自動販売機を見つめている。そんな彼女と僕のスマホが鳴ると、宇月さんとバステトの写真が送られて来た。
「何かしらこれは」
「宇月さん猫を飼ったんだよ。自慢したくて仕方ないみたい」
ブレブレの猫とのツーショットを眺めていた彼女だったが、突然閃いたのか立ち上がる。
「そうよ! 寂しいならペットを飼えばいいじゃない!」
「当たり前すぎて今まで出てこなかった発想だね。というかペットいなかったんだ。ペットどころかメイドや執事もいそうなもんだけど」
「そんなものがいるのは漫画やアニメの話だけよ。というわけで善は急げ、ペットショップに行くわよ」
自分の部屋で遊んでばかりの宇月さんとは違い、彼女がゲームセンターに入り浸っている理由の一つは両親がいない家にいるのが寂しいというものもあるのだろう。ペットで寂しさを紛らわせることができれば彼女の問題が1つ解決に向かうのは間違いない。アイスを食べながらゲームセンターを出る彼女についていくことしばらく、街中にあるペットショップに到着した。ショーウィンドウには宇月さんの両親が買った跡なのだろう、里親が見つかりましたというポップの貼られた、マンチカンの子猫が入っていたであろうケージがあった。
「それで何の動物にするの?」
「決まってるでしょ。馬よ」
「こんなところにはいないよ。そもそも御堂さんの飼いたいのは競走馬でしょ。家で飼うもんじゃないでしょ」
「乗馬にも興味があるのよ。私が乗れるくらいのポニーは売ってないかしら」
「普通のペットショップに50㎏に耐えられる動物はいないでしょ」
「人の体重を勝手に決める男を食ってくれそうな生き物は売っていないかしら」
大規模なペットショップならポニーも売っているかもしれないが、普通のペットショップに売っているのは犬や猫、ウサギやハムスター、インコといったごくごく普通の、それもほとんど幼体。残念そうに店内を眺める彼女だったが、この店の中では一番大きいであろう白い犬を見つけて近づいていく。
「サモエドね。賢そうだし可愛いじゃない。私の相棒にぴったりね」
「グレートピレニーズって書いてあるけど」
「……今日からあなたの名前は『サモエド』よ」
「紛らわしいからちゃんとした名前つけてあげようよ……」
流石に彼女は乗せられそうに無いが、飛び級のツインテールの少女くらいなら乗せられそうな、代表的な大型犬。彼女はもう飼う気まんまんらしく、店員の方へ駆け寄っていく。犬のプロフィールを確認するとオスであったので、宇月さん理論が正しければオスならば問題無く御堂さんに懐くことだろう。普通だったら子供だけで犬の購入はできないはずだが、御堂さんは平然と親の威光を使って契約を進め、実際に彼女の家に犬が来るまで検査やら色々あるとのことで、とりあえず今日はお試しで併設されているドッグランで遊ぶことになった。
「さあティンダロス、今日から私がご主人様よ。たくさん餌もあげるから早く私を乗せなさい」
『ハッハッハッ』
「大人になっても50㎏は無理だよ」
「ティンダロス、やれ」
既に御堂さんを主人だと認識しているのか彼女をじっと見ながら遊んで欲しそうに舌を出す猟犬。彼女が命令すると、ティンダロスは全力でこちらにタックルをしてくる。まだ成体では無いとはいえ流石は大型犬、無惨にも僕は吹き飛ばされてしまった。やはり宇月さん理論は正しいようだ、殺意がこもっている。
「ぐ、ぐふっ……」
「素晴らしいわね! 番犬にもなるわ。武力は見せて貰ったわ、次は知力よ。1×1は?」
『ハッハッハッ』
「1は英語で?」
『ハッハッハッ』
「……! 閃いたわ、中国で縁起のいい数字と言えば?」
『クゥーン』
「サ〇フロンティアの主人公の一人は?」
『キャイン!』
「天野とウドからなるお笑いコンビと言えば?」
『ワン!』
「この馬鹿犬!」
なかなか彼女の思い通りに鳴いてくれないティンダロス。彼女の言葉を理解してわざと間違えているのだとしたら間違いなく天才犬だろう。怒った彼女がアイス食べてくるから餌とかやっておいてと育児放棄をしてペットショップから去って行ってしまったので、ドッグフードをお店で飼ってティンダロスに与えてみる。
『ヴゥゥゥゥゥ……』
「そんなに威嚇しないでよ。男同士仲良くしようよ」
『グルルルル……』
ドッグフードを貪りながらも、今にも噛みつきそうな目でこちらを睨みつけてくるティンダロス。男だから嫉妬しているのかもしれないし、実質的に彼女の犬と言われても仕方のない自分をライバル視しているのかもしれない。言葉を理解しているとは思っていないが、今後は彼女の家族として共に暮らすのだから注意点とかは伝えていた方がいいだろうと、彼女の扱い方を犬に教える。店員さんが危ない人を見るような目でこちらを見ている気がするが気にしない。
「お待たせ、犬用のアイスも買って来たわ……え、何貴方、犬と会話してるの? こわっ……」
「さっきまで犬に訳のわからないクイズをしていたのはどこの誰だっけ?」
しばらくして、アイスを頬張りながら、犬用のアイスと、僕用らしいコンビニのクッキークリームアイスの袋を持って御堂さんが戻ってくる。アイスの袋を僕に投げて寄越すと、犬におやつをあげようとするが、手が滑ってアイスが彼女の服についてしまう。
「きゃっ……あーあ、汚れちゃったわ」
『……! ハッハッハッ』
「どうしたのティンダロス、ほら、アイスはこっちよ」
落ちたアイスを拾って犬に与えようとするが、犬の目の焦点はアイスがついた彼女の服のようだ。天才犬はこれを合法的にセクハラできるチャンスだと感じたのだろう、息を荒げながら彼女を押し倒した。
「ちょ、やめ、舐めないで、いひっ、はははっ、くすぐった、やめ」
『ジュル、ジュルル、ハッハッハッ』
「い、いひひひひ、ちょっと、見てないで助けなさい!」
犬に馬乗りになられて身体中を舐められるという、犬飼としては一般的かもしれない光景だが、他の人も見ている中でのそれは公開処刑にも等しいのだろう、彼女は笑いながらもこちらに必死で止めるように訴えている。僕は黙ってスマホを取り出しその光景を録画し始めた。
「日頃の恨みを晴らさせて貰うね。ティンダロス、もっとやれ。腰振ってもいいよ」
『ワン!』
「きゃ、きゃははははは、こ、このエロ犬! に、二匹とも、あ、あとで覚えていなさいよ!」
先ほどまでは僕と険悪な仲だったが、ティンダロスは僕の言うことをしっかり聞いてくれるようになったらしく、僕の呼びかけに応じて彼女を滅茶苦茶にする。しばらくして、ヨダレでべちょべちょになり抵抗しているうちに体力も使い果たして倒れる負け犬が出来上がった。
「次に私の家に来た時にしつけが出来ていなかったら保健所に送るわよ」
「問題発言だよ」
『クゥ~ン……』
ティンダロスに見送られ、ただでさえ不審者スタイルな上に犬の涎で臭いもきつくなっている彼女と距離を取りながらペットショップを後にする。彼女にスマホごと破壊されそうになったので録画した動画は削除したが、残念ながら既に宇月さんに送信済みだ。宇月さんがこれは視聴者がつくと動画を自分のチャンネルにアップロードして、卑猥な動画扱いされて削除され宇月さんもペナルティを受けるのだがそれはまた別のお話。




