女の子を救うためにアイスを買います
危うく女装したまま宇月さんの家を出ようとしてしまい、宇月さんに突っ込まれるという屈辱を味わいながらも御堂さんの待つゲームセンターへ。テストで1位になれなかった屈辱から夏休みは真面目に勉強をしていたようだが、夏休みが明けて皆が真面目に勉強するようになったらまたゲームセンターに通うようになったようだ。実に天邪鬼なことで。
「また馬を育ててるんだ。感心しないなあ友達をアニオタ扱いは」
ゲームセンターの中を探すと、以前彼女が持っているメダルを全て溶かしたことでお馴染みの馬を育てるゲームの前に張り付いている彼女の姿。画面を見ると、『パーフェクトミドー』『アニオタアヤミー』『クーガーダーバー』という3頭を育てているようだ。最後の1頭は全くメダルを吸わせていないらしく、オッズが酷いことになっている。
「友達なのかしら、私達」
「宇月さんも気にしていたよ。自分はただの取り巻きで引き立て役なんだって」
「彼女とは仲良くなれそうな気がするけれど、結局それは私が引きこもっているうちに自然にそういう趣味に触れるようになったからに過ぎない気がするのよね。このままいけば彼女の言うところの『陽のオタク』になって、彼女に恨まれるんじゃないかしら」
「宇月さんもアニメとかの話をしてる時は活き活きしてるように見えるけどなあ」
「それは貴方が相手だからじゃない? 付き合って彼女の学園生活を豊かなものにしてあげればいいじゃな……ご、ごめんなさい、貴方はクラスの〇〇君が好きなのよね」
世間話をしている途中で突然彼女が顔を赤らめる。どうやら彼女はもう一冊の禁書に大分脳をやられてしまったようだ。妄想と現実をごっちゃにする愚かさについて説いていると、彼女が妄想で火照った身体を鎮めるためにいつものようにアイスを買いに自販機へと向かう。
「ああああああああっ!?」
「店内では静かにしようよ……」
平日の昼間にのんびりと余生を楽しんでいる老人達をびっくりさせながら怒り狂う彼女。何となく怒りの理由は予想がついたが彼女の方へ向かい自販機を見ると、やはりソレが無かった。
「店長! 店長はどこ!?」
「自販機のラインナップにここの店長は関係ないよ。単純に不人気だから無くなったんだよ。ほら、代わりにワッフルコーンのモンブランとスイートポテトが増えてる。夏休みが終わったもんね」
見栄えも重要な時代、彼女が毎日のように食べていた程度ではただのグレープシャーベットは生き残れない。高級なイメージがあるからかメロンのシャーベットは生き残ったというのに。
「私はこれから何のためにゲームセンターに行けばいいの……」
「これ食べるためにここ来てたの?」
「この自販機、このボーリング場やカラオケもあるゲームセンターくらいしか置いてないじゃない。パチンコの店の中にこの自販機を見つけて入ろうか迷ったこともあるくらいよ」
大好物、というものが存在しない自分にはわからない感情だが、彼女は本気でこの世の終わりかのような表情で項垂れる。今の彼女に別のアイスを奢ったところで火に油を注ぐようなものだろう。コンビニやスーパーに代わりとなるものが売っているだろうかと思い浮かべるうちに、グレープシャーベット自体を売っているお店を思い出す。
「ナイティーワン行こうよ。あそこはいつでもグレープシャーベット売ってるよ」
「私がこれを好きな理由は、食べ終わったら剣になるという部分も大きかったけれど、仕方ないわね。アイス食べに行きましょうか」
大手アイスクリームチェーンのお店ならグレープシャーベットは常時売っているだろうと、傷心気味の彼女を誘う。いつのまにかメロンのシャーベットを頬張っていた彼女は食べ終えた剣でフェンシングをすると、近くのゴミ箱にそれを投げ捨てる。運動神経が良くてもコントロールはGらしく全然違う場所へ飛んでいき、恥ずかしくて自分では拾いに行けないのかあれ捨ててからついて来なさいと僕に告げると、グレープシャーベットを求めてゲームセンターから出ていくのだった。
「何で距離を置くのよ。嬉しいでしょう、デートよデート」
「冷静に考えて御堂さんの今の恰好、バリバリ不審者なんだよ」
「そんな訳でないでしょう。お忍びの女優か何かだと思われてるわ」
サングラスにマスクという不審者の装備品は、例え彼女が金髪の美少女だとしても通行人に怪訝な目で見られるくらいには呪われている。ソーシャルディスタンスをしっかり取りながらムードの欠片もなく歩くことしばらく、アイスクリームチェーンに並んでいる行列が見えて来た。
「何で平日の昼間に行列が出来ているのかしら、私は早くブドウ狩りをしたいのに」
「あー、そういえば募金の日だったね」
ナイティーワンの名の通り、9月1日から3日間は募金をすることでアイスが貰えるイベントを開催しており、格安でアイスが食べられると並ぶ人達を何度かニュースで見たり、ネットでアイスのために時間を無駄にする人達だと笑われたりしているのを見てきたが、今回は僕達が晒されるようだ。
「平日の昼間に働いてもいない、学校にも行っていない人達がアイスなんて食べてるんじゃないわよ。何が募金よ、社会貢献したいならちゃんと社会に復帰しなさ……ぐ、ぐふっ」
苛立ちながらブーメランを投げるも、言い終わる前にクリティカルヒットしてしまったらしくダメージを受けて崩れ落ちる。そもそも今の時代働き方は多様化しているし大学生はまだ夏休み、自分達以外は真っ当な生活を送っている、アイスを胸張って食べる権利のある人達であろう。早くしないと行列が増えてしまうので最後尾に並び、その後ろに立つ不審者とは無関係を装う。
「クッキークリームのカップを」
「トリプルポップでグレープソルベとアーモンドミルクとポップシャワー、ワッフルコーンも。それとグレープソルベのクォートを。ドライアイスは2時間」
募金関係無く買いに来たのだが、空気を読んで500円を募金してアイスを買う。募金で貰えるアイスは普通のサイズ1つなので御堂さんは全くその恩恵に与れず、3000円近く出して持ち帰り含めて大量のアイスを買う。カップルだったり友達同士だったり、募金組がアイスを持って去っていくのを眺めながら、椅子に座って彼女がワッフルコーンにアイスを詰めてお手製トリプルを作るのを眺める。
「クッキークリームが好物なの? 可愛いところあるのね」
「いや、あんまりアイスは食べないんだ。宇月さんがよく食べてるから」
「あら、よく一緒に買いに行ってるのね。もう立派にカップルじゃない」
「行ったことなんて無いよ。彼女は親のクレカで出前を頼むんだ」
出前のシステム上最低注文額というものがあるので届くアイスはそれなりの量だが、『あげませんよ! これは私のお金で買ったんです!』と宇月さんは一人で食べていたので一度も食べたことはなかったが、高いだけのことはある、甘いものが苦手な自分でもすんなりと味わうことができた。
「……私は今まで何を食べて来たのかしら。完敗よ。これが本当のグレープシャーベットなのね」
「剣のアイスを作ってるところに失礼だよ。お手軽なコストで、自動販売機で買えるようにしている企業努力を認めるべきだ」
「グレープシャーベットを切り捨てるのを努力とは認めないわ」
未だにグレープシャーベットを撤去されたことを根に持ちながら、アイスをモグモグと食べた後に更に持ち帰りでクォートを購入する彼女。何となくバランスが悪いので家族のお土産にクッキークリームとグレープシャーベットを購入し、不審者とアイスを食べるデートを終えたのであった。




