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女の子を救うために女装をします

「部費も稼げたことですし何か買いましょうパソコンなんてどうでしょうか」

「鍋セットとかいいんじゃない? これから秋になって冬になるし。学校で鍋パ」

「等身大のフィギュアを買ってシンボルにしておくとかどう?」

「うーん迷いますねあ久我さん部費が集まったのは久我さんのおかげみたいなものですから希望を聞きますよ」

「強いて言うなら余った本は全て焼却処分して欲しいかな。それよりグループラインとかやってる? 僕じゃなくて、例の不登校の子も入れて欲しくてさ」


 夏休みも終わり、学生達の日常が戻ってくる。クラスの女子やオタク女子の情報もそれなりに集まって来た。御堂さんは学校復帰に大分前向きになっているようだし、宇月さんの学校復帰のためにまずはSNSの輪に入れてみようかとオタク女子の集いの情報を得る。勿論、本人にその気がなければ無駄に終わるわけだが。


「それじゃあ久我君、彩美の事をよろしくお願いね」


 その翌日、二学期最初の家庭訪問へ向かうと、宇月さんの母親の対応がまるで娘の彼氏かのようなものに変化していた。3ヵ月も二人きりで勉強会だのを続けていればそういう仲だと疑われても仕方無い事だとは思うが、それにしても先週に比べて急な変化だなと訝しがりながら宇月さんの部屋の前に行きノックをする。


「ひゃう……あ、久我さんですよね? す、少し待ってください」


 ついこないだまでは欠伸をしながらジャージかパジャマ姿で出迎えてきた彼女だったが、この日はちゃんとした服装で髪も整えていた。部屋も先週に比べたら掃除されている気がする。勉強会をスタートしながら、まるでいきなり宇月さんが僕を男として見始めたかのような態度の変化に困惑する。そんなことになるようなイベントなんて……まさか。


「ちょ、ちょっとトイレ行ってきます」


 宇月さんがトイレに向かった隙を見計らい、彼女の部屋を捜索する。机の引き出しを開けると、例の禁書を見つけてしまい頭を抱える。僕や御堂さん以外に人と関わっていない、日頃からネットでそういう作品も見ているであろう、オタクサークルのメンバー同様に興味津々であろう彼女がこんな本を、引きこもりの女の子が世話役の男に酷いことをされちゃう本を読んでしまえば、ああいう反応になるのも、僕を男として見てしまうのも仕方の無い事なのだろう。コミケが終わってからきっと彼女はずっとそういう妄想をして恋する少女のようになっていて、家族はそれを見て察したに違いない。


「お待たせしました。へ、部屋漁ってませんよね!?」

「僕がそんな変態に見えるのかい?」

「だって本では……いや、何でもありません。さあ、勉強しましょう」


 あの場に自分はいなかった設定上この本について言及する訳にもいかないと、宇月さんが戻ってくる足音がしたので本を引き出しに戻し勉強会を再開させる。年頃の男女が一緒の部屋で勉強するなんてシチュエーションが脱線しながらもなんとかうまく行っているのはお互いが男女として見ていないからだと思っていたのだがどうなることやら。今のところはこちらの顔も見ずに教科書とノートに向き合ってくれるのでし、話が脱線しなくなったし効率を考えれば案外このままの方がいいのだろうかなんて考えていると、


「久我さん、女装しませんか」

「しないよ」


 突然急なカーブでコースアウトしてしまい、困惑しながら即答する。


「やっぱり、年頃の男女が一緒の部屋なんて、まずいと思うんです」

「そうだね。でもそれは僕が女装をしたところで根本的解決にはならないと思うんだ」

「それに、女子トークにも慣れたいですし」

「そうだね。でもそれは御堂さんとするべきであって、女装した僕としても意味が無いと思うんだ。ああそうだ、オタク女子のグループライン聞いて来たから参加しなよ。まずは会話からスタートして仲良くなろう」


 変な本に感化されて僕を男として意識してしまった少女の答えは僕を女装させることで男っぽく無くそうというものであった。『最近の漫画とかの男主人公は女装と家事が必須スキルなんです!』という意味不明な理論を持ち出して、無理矢理僕を彼女の母親の服に着替えさせようとする彼女。演劇部という立場上、他人の女装や男装を見ることもそれなりにあるが、基本裏方で出る時はちょい役だけに自分でやるのは初めてだ。


「これで満足かしら? 宇月さん」


 職業病と言えばいいのか彼女の母親の服に身を包み、例え彼女に注文されなくても胸のサイズも背丈に合うように詰め物をした僕は、精一杯高い声で言葉遣いも変えて彼女の前に現れる。当然のようにスマホを持って録画する準備をしていた彼女は、僕の女装姿をまじまじと観察し、


「ま、負けた……肌の潤いからして私と全然違うじゃないですか」

「そこは女装関係無いし、宇月さんが引きこもってるから肌荒れが酷いだけよ」

「そもそも何で詰め物してるんですか」

「腐っても演劇部、リアリティには拘るのよ」


 自分の女装姿の完成度が思った以上に良かったからか、彼女自身が自分に自信を持てていないからか、笑う余裕も無くなり勝手に敗北宣言をして項垂れる。もう着替えていいかしらと聞いたが折角ですから今日はこのまま勉強しましょうとスマホでパシャパシャ撮りながら机に座るように促す彼女。いつものように胡坐をかくのもなんだしと女の子座りに挑戦し、宇月さんは勝手に倫ちゃんと呼んで来るので対抗して彼女をあやみーと呼びながら勉強会を続けて行く。休憩時間になり、僕はスマホを取り出して彼女にとりあえず僕も入れて貰ったオタク女子達のグループラインのトークを見せる。授業中にトークが盛り上がっているくらいには活動的らしい。


「あやみー、そういえばさっき触れたけど、まずはグループラインに参加してみない? 私も部活に何度か出てメンバーの性格とか調べたけれど、あやみーと気が合いそうよ? 特に部長は普段大人しくて喋るとイカれているところがあやみーにそっくり」

「ノリノリ過ぎて話がほとんど頭に入ってきませんよ……まあ、グループだけ入って皆の会話だけ見ときますよ。ところで相談があるんです。もう女装モードはいいから普通に喋ってくださいね。男子って、ツイッターの裏垢とかで裸の画像とかアップしてる人がクラスメイトにそっくりだったらどんな反応するんですか?」


 グループの招待を受け取り、スマホをポチポチしながら宇月さんが唐突に回答に困る質問をしてくる。彼女は例の本で悩んでいるから男版に置き換えて質問しているのだろうが、それにしたってシチュエーションが特殊過ぎる。


「ツイッターの裏垢とかで裸の画像とかアップしてる人自体そういう漫画の中にしかいないし仮にいたとしてクラスの男子と『おいこいつクラスのあいつに似てね?』なんて会話しないよ……変な漫画の読みすぎだよ」

「うう……実はこないだ御堂さんと一緒にコミケに行って色々買ったんですけど、変な漫画に久我さんそっくりの人が出てきて、しかも私みたいな人が酷い目にあっちゃう本だったんです。久我さんを見るとそのシーンとかを思い出しちゃうんですよ。だから女装して貰ったんです」

「漫画と現実をごっちゃにしない。どうしても気になるならその本の僕に似た男の顔に別の男の顔を貼り付けて10回くらい読めば上書きされるんじゃないかな」


 彼女に配慮して毎回女装をしていたらそのうち本当に目覚めそうで怖いので、力技で彼女の悩みを解決する案を出す。自分によく似た人間が出ているというのもさることながら、彼女にとっては他人事ではないシチュエーションも問題なので何度も読んでいたら彼女も何かに目覚めそうなので、早いところ学校に復帰して欲しいものだ。

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