女の子を救うためにコミケに行きます
御堂さんも自分の家に戻り、夏休みも気づけば終盤に。こつこつやっていたおかげで無事に夏休みが終わる数日前に、宇月さんは宿題を全て終わらせることが出来た。
「や、やっと終わった……」
「お疲れ様。一応聞いておくけど、夏休みが終わって学校来るつもりは」
「ま、まだ心の準備が……」
達成感で気が抜けたのか机に突っ伏す宇月さんに今後について聞いてみるも、案の定まだ充電期間中のようで。僕や御堂さんとは慣れたのか案外相性が良いのかある程度会話もできるようになったが、クラスメイト相手ではお地蔵さんになってしまうことだろう。
「御堂さんも何だかんだ言って優しいからね。宇月さんと一緒に登校したがっているよ。まあ、向こうもまだ勇気が出ないみたいだけど。それじゃ」
「ま、待ってください、一緒に来て欲しいイベントがあるんです」
「ごめん無理」
学習道具をカバンに片付けて部屋を去ろうとする僕を引き留めてお願いをする彼女。この展開を予想していたので即答で断る僕。
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「数日後だろう? 先約があるんだ」
「今まで興味はあったけど一人じゃ怖くて行けなかったんです、私には久我さんしかいないんですよ」
「御堂さんでも誘って行きなよ」
「あんな腐海に御堂さんを連れて行ったら関係ぶっ壊れますよ! ああ、待って、行かないで……」
余程行きたいようでしおらしくお願いをしてくる彼女だが、彼女と一緒に行くことはできないし、行ったらややこしいことになる。今の彼女に御堂さんを誘う勇気は無いだろう、来年、きちんと学校に復帰して友達と行けるように頑張ろうねと、涙目の彼女から目を逸らしながらエールを送り部屋を出る。その数日後、彼女がどうしても行きたがっていたイベントに僕はやってきていた。
「それじゃあ二人とも店番お願いしますね大丈夫ですお土産は任せてください右手が止まらなくなるようなブツを持ってきますよ」
「健全なのにしてね」
同人誌即売会、通常コミケ。その会場に机を並べて僕と保崎さんが並んで座る。オタクサークルは今回売る側で参加しており、僕達は売り子として部長達がイベントを満喫するのを手伝うことになっていたので、宇月さんと一緒に行くことは出来なかったのだ。
「意外だね、保崎さんも来るの。僕は無理矢理参加させられたけど」
「コスプレとかちょっと興味あったんだわ。似合うだろ? 元ネタ知らないけど」
最近流行りの和風バトル漫画の衣装らしい着物姿の僕と、宇月さんもそれなりに語っていたアニメの魔法少女姿の保崎さん。コスプレをすれば売上アップなんですと押し切られて着てはみたものの、売り子がコスプレをしなければいけない風潮なんて一切無いらしく、周囲を見ても私服の人達ばかり。そもそも売上アップしたいなら中身で勝負をするべきだとこれから自分達が売り捌かないといけない本をペラペラとめくる。
「……この引きこもりの女の子の味方をするフリして襲ってる外道、お前に似てね?」
「気のせいだよ」
「後こっちのクラスのイケメンを縛り上げて襲ってる外道、お前に似てね?」
「気のせいだよ」
「えっ……お前こんなでかいのか……」
「全部あいつらの妄想だよ」
結局夏休みに同人誌の作成も手伝ったのだが、当然のように18禁のネームを寄越すわ、手伝っている男が自分しかいなかったためか自然と男キャラのモデルが自分になってしまうわ、クラスの男子のカップリング談義を延々と聞く羽目になるわ、実に地獄のような日々だった。何が悲しくて自分がクラスのそんなに仲良くも無いイケメン男子を紐で縛り上げて告白をするような本を売らなければいけないのだと大きなため息をつく。事情を知らないお客さんが試し読みすれば、間違いなく僕は自己投影したキャラでいやらしいことをしているやべえ本の作者と認識されることだろう。
「……なああれ、根暗と……変装してるみたいだけど優等生じゃないか?」
「まさか。コスプレか何かでしょ……ま、まずい、変装グッズ……」
自分がベタやら背景やらを手伝った本が売れていくことに何の喜びも見いだせないまま、何度目かのスケブを断っていると、保崎さんが宇月さんと御堂さんがいるぞと向こうを指さす。他人の空似だと思っていたがよく見ると確かに見慣れた二人だったので、僕は急いで眼帯やら別のアニメキャラのコスプレグッズを装着して変装をする。
「いやー、御堂さんの方から誘ってくれるなんてびっくりですよ」
「一度は行って見たかったのよ。ところでこの辺り、私達が来ていい場所なのかしら? いかがわしい表紙の本が目立つけど」
「いいんじゃないですか? 最近のアニメも平然と女子高生がエロゲーしたりエロ本読んでたりしてますし」
御堂さんの方から宇月さんを誘ってやってくるというパターンは全く想定していなかった。他のコスプレグッズであろう眼帯やマスクで顔を隠して自分だとバレないように努め、保崎さんにも帽子やらを渡す。
「学校に来てない上に夏休みにエロ本を買いに来るたぁ、学校に通報してやろうぜ?」
「その場合エロ本を売って部費を稼いでる僕達はもっと酷いことになるだろうけどね。ほら、保崎さんも顔を隠して」
変装をして二人の動向を眺める。この場には僕達以外にも本とかを売っている人達はいっぱいいるので彼女達がこっちに来ることは無いだろうとは思っていたが、フラグというやつなのだろうかお約束というやつなのだろうか、二人が引き寄せられるようにこちらのスペースへやって来る。
「あ、この表紙の男の人久我さんに似てませんか? 折角ですしこのヘテロを読んでみましょう」
「それじゃあ私はこっちの表紙に男しかいない方を読んでみるわ」
売られている二つの禁書の表紙に僕によく似たクソ野郎が描かれているのに反応した二人はそれぞれ手に取って読み始める。
「ひ、ひゃぁ……うわぁ……」
中身を読んで狼狽え始める宇月さん。それもそのはず彼女が読んでいる本のストーリーは、不登校の女子の世話をするために家にやってきた男の子に心を開いた瞬間に酷い事をされちゃうという今の彼女からしたら他人事でも何でもない内容なのだから。偶然こんなストーリーになった訳では無く、手伝いに来たもののストーリーすら決まっていないために『そういえば久我さん週1で休んでますけど特殊な事情なんですか』と聞かれてしまいついうっかり不登校の女の子の家に通ってサポートをしているという話をした結果出来上がってしまった。
「え……男同士よね? え? 男の人ってそんなとこにあるの?」
一方の御堂さんは何だかんだ言って今まで健全な人生を歩んできたのだろう、一切このジャンルに抵抗が無かったためか僕が豹変してクラスのイケメンを紐に縛り上げて致すという内容の本を見て若干パニックになっていた。今の二人を見たら笑ってしまいそうだと、顔を隠す必要もあったので俯いてなるべく見ないようにする。ふと隣を見ると、保崎さんは笑いを堪えながらこっそりスマホで二人の醜態を盗撮していた。
「こ、これ1冊ずつください」
「わ、私もそれを……」
結局二人とも本を買っていき、お互い気まずい感じで無言で去っていく。しばらくして諸悪の根源達がお土産を抱えて戻ってきた。このお土産のせいで家族会議が開かれることになるのだがそれはまた別の話。




