女の子を救うために肝試しをします
「海は楽しかった?」
「そりゃもう楽しかったですよ! 御堂さんを連れているだけで周囲の視線が釘付けですよ。やっぱり美少女っていいですね、だからネットゲームのアバターを美少女にしました」
「ナンパはされた?」
「私がトイレに行って戻ってきたら御堂さんが男達に囲まれてました……まんざらでも無さそうだしお邪魔かなあと海の家でたこ焼き食べつつ眺めていたら、食べ物たくさん奢って貰ってました。だからネットゲームで姫プレイすることにしたんです」
二人が海に行った翌日。宇月さんの宿題を手伝いながら昨日の事を聞いてみると、嬉しそうに思い出を語り始める。ナンパのくだりは店番だったのでよく知っている。宇月さんがいなくなってフリーになってすぐに声をかけられる御堂さん。戻って来た宇月さんがそれに気づき、気まずそうに海の家にやってきてたこ焼きを注文して椅子に座って見物。まんざらでも無さそうと言っていたが、御堂さんは実際のところ困った様子で宇月さんはどこに行ったのかと男達の相手をしながら辺りをキョロキョロしていた。宇月さんはたこ焼きに夢中で気づいていなかったが。
「その分なら、御堂さんが学校復帰するってなった時に一緒に復帰できそうだね」
「? どういうことですか?」
「一緒にカラオケ行ったり二人で海で遊んだり、もう友達でしょ」
バイトが終わった後もこっそり二人が海を楽しむ様子を眺めていたが、宇月さんと御堂さんの相性は悪くは無さそうだ。スマホゲーに熱中していたり、ゲームセンターにたむろしたり、宇月さんの趣味についていく素質は御堂さんにもありそうだし。宇月さんには友達が出来て、御堂さんは夏休みで充電が終わり、二人仲良く学校に行ってめでたしめでたし。そんな未来を思い浮かべていたのだが、宇月さんは冷めた表情になってハン、とこちらを鼻で笑う。
「久我さんは国語が苦手なんですね。『取り巻き』って言うんですよ。海に誘われたのだって、引き立て役なんですよ、私は。それでも、人恋しいから断れないんですけどね」
「卑屈過ぎだよそれは」
「案外御堂さんも、周りを友達だと認識できていないんじゃないですか? 常に自分を凄いと肯定するだけの存在が果たして友達と呼べるのでしょうか? 御堂さんもそういう孤独を感じていたから、親がいなくなっただけで学校に行けなくなったんですよ。だってそうでしょう、友達がいっぱいいれば、学校に行くのは楽しい事なんですから」
「……」
そのまま持論を展開し、御堂さんの事を冷静に分析する彼女。彼女の言う通り、御堂さんは友達を上辺だけの付き合いで、距離感があるから学校に来なくなってもメッセージを誰も送ってくれないと嘆いていた。友達がいっぱいいれば、大好きな親がいなくなっただけで学校に行けなくなるなんてことはない、というのも真理なのだろう。学年最下位スレスレの保崎さんは、友達と遊ぶだけに学校にはきちんと来ているからこそ学年最下位スレスレでも進級出来ているのだから。
「ま、取り巻きでも引き立て役でもいいんですけどね。学校で浮かないなら。今度御堂さんの友達……取り巻き、引き立て役の情報調べておいてくださいよ。私が混ざれそうかも」
「それは本人に直接聞くんだね……」
周りに人がいるかいないかの違いだけで、宇月さんも御堂さんも、宇月さんに言わせれば僕も同じ孤独を抱えた存在。だから相性がいいのかもなと悲しい事を考えながら、宿題の手伝いを進めていく。今日の分のノルマは達成したので帰り支度を始めると、宇月さんはゲーム機の電源を入れ始めた。
「暇ですよね? ホラーゲーム一緒にやりましょう」
「ホラーゲームやったことないんだけど。そもそも二人でできるものなの?」
「私がやりますから隣で見ていてください」
「何でさ」
「怖いじゃないですか」
宇月さんはこの夏休みに自主勉をすることなく売れている人の動画を見て研究していたのだが、ホラーゲームでキャーキャー騒いでいれば売れるらしい。女子高生のホラーゲーム実況は需要があるはずなんです、と僕が映らないようにカメラを設置しながら、いわゆるサウンドノベルと呼ばれる文章だけで進めていくホラーゲームをプレイし始めた。
「多分そろそろ怖いの来るよ」
「邪魔しないでくださ『グアアアアア』ぎゃああああああああ!」
「そこは『キャー』じゃないと。ぎゃああああああああはちょっと」
ホラー耐性があるようには見えなかったが案の定苦手だったようで可愛らしさの欠片もない絶叫を轟かせる彼女。一方の僕は日頃から文章に慣れているのもあり、お約束というものがわかってしまうため心の準備を自然としてしまい怖さが半減してしまう。突然ゲームのスピードが速くなったので何事かと思えば、宇月さんが目を瞑ってボタンを連打していた。
「気づきました目をつむれば怖くない『キシャアアアア』ぎにゃああああああ! 音で攻撃するなんて卑怯ですよ!」
「今の宇月さん、保崎さんより遥かに馬鹿だよ」
目を瞑っていても結局音は聞こえるわけで、五感の一つを封じた状態で聞こえる音は恐怖を倍増させる。結局途中で心が折れたようで、布団にくるまってガタガタと震えてしまいゲームは中断。仕方なく代わりに続きをプレイしていると、布団の中から寝息が聞こえてくる始末。あれだけ怖がっていたのによくもすやすやと眠れるものだ。
「宇月さん、クリアしたから帰るからね?」
「むにゃ……え、私は消化不良ですよ。そうだ、夜の学校で肝試ししましょう」
「漫画と現実をごっちゃにしない。忍び込んだら僕でも停学、宇月さんは問答無用で退学だよ」
「何言ってるんですか、漫画のような権力を持った都合のいい『友達』がいるじゃないですか」
「良い性格してるよ、御堂さんと親友になれるんじゃないかな」
布団から顔を出し、スマホで御堂さんに連絡を取り始める彼女。御堂さんも深夜の学校を探検するという問題行為には憧れがあったのか、トントン拍子で話はまとまり、数日後の夜10時に僕達は学校の前に集合した。
「夜10時って微妙ですね。ついさっきまで部活組とか残業組がいた感じでしょうか」
「ごめんなさい、深夜2時くらいにしたかったのだけど、私の権力を以てもこれが限界だったわ。いつか深夜2時に学校に入れるような人間になって見せるわ」
「教師になれば?」
肝試しと言っても教師がわざわざお化け役をやってくれるなんてことは当然無く、電気の消えた、と言っても夜10時なので周辺の民家の電気とかはまぁまぁついてる状態で学校を探検するだけ。僕が保護者役らしく宿直の先生への連絡先を渡されてしまった。これを使って学校に迷惑をかけるような展開にならなければいいのだが。
「それじゃあ出発しましょうか」
「目指すは学校の七不思議全制覇ですね」
「そもそもそんなもんあるの?」
「深夜になると、パソコン室のパソコンが1台だけ光っていて、そこから霊が出てくるらしいですよ」
「この学校パソコン室無いけど」
下らない話をしながら、懐中電灯をつけて三人で夜の校舎を適当にぶらつく。夜の10時の学校にお化けなんてものが出るはずも無く、時間が時間なので怖がりの宇月さんも特に怖がる様子も無く、御堂さんも本人曰く怖がりな方らしいのだが彼女も特に怖がる様子が無く、退屈な時間が過ぎていくことしばらく、女子トイレの前で御堂さんが立ち止まる。
「ちょっとお花を摘んで来るわ」
「あ、私も行きます」
トイレに向かう二人達だったが、焦った様子でわずか10秒程度で戻ってくる。
「え、はやっ」
「……個室が閉まってたんですよ。おかしいですよね、普通空いてますよね」
「トイレの花子さんかもしれないわ。ちょっと様子見て来てくれる?」
「男の僕が入るのはちょっと……」
我慢しているのかもじもじしている二人を前に、女子トイレに入るべきか悩んでいると、女子トイレの中から『グオオオオオオオ』という化け物っぽい声が流れてくる。それを聞いた途端、
「ぎゃあああああああ!」
「ひぃっ!」
宇月さんも御堂さんも悲鳴を挙げて、持っていたスマホも投げ捨てて互いに反対側へと走り去ってしまう。その声をどこかで聞いた事があるような気がした僕も身構えていることしばらく、やがて水を流す音が聞こえ、カツカツとこちらへ声の主が向かってくる音がしたかと思うと、
「うおっ!? な、何でお前こんなところにいるんだ、人のトイレ出待ちとか変態かよ!?」
「それはこっちの台詞だよ……」
果たしてそれは保崎さんだった。彼女は今日まで補習だったらしく、解放された後に折角だし夜の学校を探検してみようとうろうろした挙句、スマホゲーのイベントがあるからとトイレに籠って遊んでいたらしい。さっきの化け物っぽい声は広告とかでよく流れてくるゾンビゲーの声だった。教師には黙っててあげるからさっさと帰りなよと保崎さんに伝え、二人のスマホを手に取ると、彼女達を探すために一人で夜の校舎の探検をし始める。ちなみに二人とも僕を見捨てて学校から脱出したらしく、日付が変わった頃に公衆電話から僕のスマホに連絡が来るというオチだった。




