女の子を救うために水着を選びます
「す、凄い……7月中に宿題に手を付ける人なんていないと思っていましたが、まさか自分が都市伝説の存在になるとは……」
「真面目にやらないとクラスの中で都市伝説な存在になっちゃうよ。それじゃあ今日はここまで。来週までにはここまではやっておいてね」
夏休みが始まって一週間。約束通り宇月さんの家に行って宿題の手伝いをする。友達が全然いなかった彼女の人生に夏休みの宿題を写すなんて選択肢は今まで無かったはずだ。きっと夏休みの最後らへんに焦って急いでやっていたであろうことは想像に難く無い。正答率はともかく、追い込まれると真面目にやるタイプなのだから、定期的に煽って追い込んでやるのが恐らくは正解なのだろう。カバンに宿題やらを戻して部屋を出ようとする自分を、彼女が恥ずかしそうに呼び止める。
「そ、その、この後時間ありますか? 水着買うの付き合って欲しいんですけど」
「水着? 何で僕が……御堂さんでも誘ったら? 気分転換に」
「その御堂さんに気分転換に海でも行かない? って誘われたんですよ! 私スクール水着しか持ってないんですよ!?」
「漫画やアニメではスクール水着って普通じゃない?」
「二次元と三次元をごっちゃにしないでください! ほら、行きますよ。今のうちに姉妹に流行りの水着でも聞いておいてください」
夏休みが始まってから御堂さんはずっと遅れを取り戻すために勉強漬けの毎日を送っているらしい。気分転換は大事だし、御堂さんが宇月さんを誘うというのは良い流れだろう。スタイルの良さを引き立てるような水着の隣にいるスクール水着の彼女を想像してしまって若干にやつきながらも、外出の準備をする彼女に従い街へと繰り出す。途中で姉妹に水着についてアドバイスを聞くために彼女のスタイルを伝えると、ロリコン扱いされてしまった。ああ無情。
「う、学校の人とかとばったり出会いそうで怖いですね……私ってバレないですかね?」
「バレたとしてどうなるのさ」
「不登校が夏休みに外出してたらネタにされますし、第一、これって、傍から見たらデートじゃないですか。久我さんは気にならないんですか?」
「姉妹の買い物の荷物持ちにさせられた経験が何度もあるしなぁ」
近所ではそこそこ大きなショッピングモールで、しきりに辺りを気にする彼女。夏休みだし同級生がいてもおかしくないが、二人で一緒にいるのを見られたところで、妹なんだと言ってしまえば周囲は納得してくれそうなものだ。彼女が帽子と似合わないサングラスで変装をしているのもあるが、そもそも不登校になる前から彼女は空気のような存在だったのだから。
「あれ、久我じゃねえか。妹と買い物か? 随分似合わないサングラスだな」
「やあ保崎さん。妹は肌が弱くてね。それより補習は順調かい?」
「嫌な事を思い出させんなよ。今日も午前中ずっと缶詰だったぜ」
「こんにちは久我さんとそちらは妹さんですか私は画材を買いに来たんですよ残された時間は1ヵ月くらいしか無いですからね今度ベタ塗りとか背景とか手伝ってくれませんか」
「一応聞くけどジャンルは?」
「人前で何を言わせようとしてるんですかセクハラですよもう」
水着売り場に行くまでに何人かと出会ったが、誰も彼女が宇月さんだと気づく人はいなかった。非常に複雑な表情をした彼女は水着売り場に陳列されているラインナップを見て更に複雑な表情になる。マイクロビキニとスリングショットを混ぜたようなそれはプールや海で着ようものならすぐに通報されるような、本来の目的からかけ離れた動画投稿にくらいしか使えそうにないような際どい代物であった。
「これほとんど紐じゃないですか。最近はこういうのが流行っているんですか?」
「動画配信者がブームになって色々過激になったからね。宇月さんも学校辞めて動画で食べていくなら、こういうのを着て料理したりピアノ弾いたりしないと難しいんじゃないかな」
「うう……これは論外としても、とりあえずナンパされるくらいにはセクシーなのがいいですね」
「ナンパされたいんだ」
無難にワンピースにした方が良いと思っているのだが、彼女はビキニに挑戦したいのか布面積の少ない、学校の水泳の授業では使えそうにないものを眺め続ける。しかもその理由はナンパされたいという不純なものであった。
「ナンパされるって女の子としてステータスですし。例え友達いなくたって、ナンパされたり、それで彼氏が出来たら、マウント取れますし」
「そういう考えだから友達出来ないんだよ……大体御堂さんと一緒にいたらどう考えてもナンパされないでしょ。それどころか男からしたら御堂さんのお邪魔虫だよ」
「ぐ、ぐふっ……お、大人しくワンピースにしようかな」
宇月さんと御堂さんが一緒に海で遊んでいたら、男は100人中95人くらいは御堂さんをナンパしようとすることだろう。御堂さんもナンパされたがっているようだが、宇月さんを自分から誘っておいてふらふらと男について行くほど外道な人間では無いと信じている。結局宇月さんは周囲の男から邪魔だなと思われながら御堂さんと海で遊び続けることになるのだろう。なんだか悲しい。
「これなんてどうですか?」
「似合う似合う」
「適当に言ってませんか?」
「僕が女の子の水着を正当に評価できるほど見慣れているように見える?」
「それもそうですね」
結局何着か試着した後に体型をあまり気にしなくていいワンピースを選び、買い物は無事に終了する。帰り際にふと気になったことがあったので聞いてみることに。
「ところでどこの海で遊ぶの?」
「そりゃそこの海水浴場ですよ。この辺あそこくらいしか無いじゃないですか」
「え、てっきりクラスメイトとかにバレないように遠くの所に行くものとばかり」
「私は変装しますし、私みたいなのは学校じゃ目立つかもしれないけど、海水浴場ならそうでもないはずよって御堂さんも言ってましたし。ひょっとしてついてくる気ですか?」
「いや……楽しんできてね」
すぐそこにある海水浴場で遊ぶと聞いて困惑する僕を他所に去っていく彼女。困惑するのには理由があって、
「焼きそば3つとビール3つですね。2100円になります」
夏休みだしアルバイトでもするかと知り合いのツテとかを頼って短期バイトを探した結果、海水浴場の海の家でアルバイトをすることが決まっていたからだ。鉄板でそばを焼いていると、客の男達の残念そうな声が聞こえてくる。
「いやー、さっきの金髪すっげーレベル高かったなー」
「声かけたかったんだけどなー、妹? がくっついてたよな」
「似てねえ姉妹だったな」
どうやら二人とも今日ここへ遊びに来ているようだ。バレると面倒だなと暑いのは承知で帽子を深く被り接客をしていると、目の前に見慣れた二人がやって来る。
「焼きそばとたこ焼きとタピオカミルクティーを」
「カキ氷のブルーハワイ練乳トッピングとタピオカ黒糖抹茶ミルクティーを」
食い意地が張っているのか炭水化物を2つも頼む、自分と買いに行った水着を着ている宇月さんと、やたらとトッピングを注文して店員さんを困らせる、自分なら似合うという自信があるのか堂々とビキニを着ている御堂さん。顔をあげるとバレてしまうので俯いて接客をし、サービスということで気持ち焼きそばとカキ氷を多めにして代金を受け取る。
「今の店員目つきいやらしく無かったですか? 水着ばかり見てましたよ。変態です」
「顔を上げられない理由でもあったんじゃないの?」
「照れ屋さんですか? 確かに私も人の目を見るのが苦手ですからね、シンパシー感じます」
勝手に変態扱いしては勝手にシンパシーを感じる宇月さんと、こちらに気づいているのか少し笑いながら喋る御堂さんを見送りながら、満喫しているようで何よりだと安堵するのだった。




