女の子を救うためにテストを受けます
夏休み前の期末試験。どんな高校生もこのイベントからは逃げられない。学校から逃げ続けて来た二人であってもだ。クラスに行くのが気まずい彼女達のために特別に別室でテストを受けることが許可されているため、今頃は別室でほとんど書かれていないノートを見ながら頭を抱える宇月さんと、余裕ぶっている御堂さんがテストを待っていることだろう、後で様子を見に行くかなと考えながら自分の教室へ向かったのだが、
「御堂さん、身体は大丈夫なの?」
「ええ、ちょっと遠いところで入院しているけれど、命に別状は無いわよ」
そこにはさも病気のために入院していたけどテストのために登校しましたと言わんばかりの空気を醸し出している御堂さんが、クラスメイトに囲まれていた。よくもあそこまで平然と嘘をべらべらと喋ることが出来るものだ。
「もぐ……しょうがねえな、お前にも1つやるよ」
「買収されたんだね……」
真実を知る少女はその光景を眺めながら、高級そうなお菓子をパリポリと貪っていた。彼女からお菓子を1つ受け取ると、もう一人が寂しくテストを待っているであろう別室へ向かう。扉を開けると、こちらに気づいた宇月さんが涙目で駆け寄ってきた。
「う、うう……辛いテストも、御堂さんと一緒なら大丈夫だと思っていたのに。あの女は敵ですよ、裏切り者ですよ、ファッション不登校ですよ」
「おはよう宇月さん。はい、筆記用具以外全部出して。スマートフォンも。教師を宇月さん一人のために割く余裕は無いからテストはここで一人で受けて貰うから。カンニングしたら問答無用で退学だからね」
「え、待ってくださいよ、そんなのあんまりじゃないですか。久我さん可哀相な私のためにここで一緒にテスト受けてくれますよね?」
「普通に登校した人がテスト中いなくなったら不自然でしょ……」
「じゃあせめて休憩時間の度に来てください、御堂さんも」
「御堂さんはクラスの人気者だから無理だよ……寂しいなら教室に来なよ……」
宇月さんにお菓子を渡す代わりに筆記用具以外を預かり、変態だと詰られながら自分の教室に戻ってテストに臨む。テスト期間中は午前中のみの授業となる代わりに数日間に渡るタイプの学校もあるが、本校はみっちり二日間缶詰となるタイプの学校だ。最初の科目は数学。他人に教えるという経験はそれなりに自分の力にはなったらしく、去年よりも手ごたえを感じる。休憩時間になってクラスメイトと談笑している御堂さんと、机に突っ伏してうめき声をあげている保崎さんを他所に教室を出て、宇月さんの待つであろう別室へ。そこには保崎さんと同レベルなのか机に突っ伏してうめき声をあげている彼女がいた。
「どうにかして退学じゃなく補習で許して貰えるように僕から教師にお願いするから安心してよ」
「いや! 手ごたえはあったんです! 空白は多かったですけどこないだの勉強会の成果もありますし。でも何だか寂しくて、テスト受けながらアニソンを歌ってたら急に恥ずかしくなったんです」
「そういうお茶目な部分を皆に知って貰えれば友達も出来るんじゃないかな」
「生き地獄ですよ!」
手ごたえがあったと主張する彼女の視線は泳いでおらず真っすぐと僕を見つめていた。元が低くて伸びしろがあったとはいえ、この分なら前回より成績を落としてしまうといったことは無さそうだと一安心する。注文通り休憩時間の度に別室に行っては宇月さんと会話をしたり次の科目で出てきそうな部分を教えたりと不登校と世話人の期末テストを満喫すること数回、いつものようにテストが終わって教室を出ようとする僕と、テストが終わるとすぐにクラスメイトに囲まれる御堂さん。
「ごめんなさい、ちょっとトイレに行って来るわ」
クラスメイトにそう告げて僕と同じく教室を出た御堂さんは黙って僕の後ろをついてくる。
「トイレ過ぎたよ?」
「察しなさいよ。あの子のところへ行くんでしょう? 不登校仲間が寂しい思いをしないようにお喋りもしなきゃね」
「もうテストも終盤だし、宇月さんは御堂さんのことを敵だと言っていたよ……」
「仕方が無いでしょう。宇月さんも大事だけど、私とお喋りしたがっているクラスメイトも大事なの。平等主義者なのよ。それにテストの休憩時間の度に教室を出て行ったら色々噂されるわよ。貴方が教室を出て行った直後は、『久我って頻尿なのかな』なんて話題で持ちきりよ?」
「その話は聞きたくなかったよ……」
不名誉な誤解を周囲に与えてしまいショックを受けながらも別室へ。扉を開けた瞬間宇月さんが主人を待つ子犬のような目でこっちを見たが、隣に御堂さんがいることに気づき狂犬のような目つきになる。
「何しに来たんですか。頭も悪くてテストも皆と受けられない私を笑いに来たんですか」
「休憩時間に仲間とお喋りしにきたのよ。はいこれ。適度に糖分を取ることが大事なのよ」
「あ、これテレビ番組で見たことあるやつです! 食べたかったんですよ! ありがとうございます!」
しかし高級そうなお菓子を受け取った瞬間にほっこりとした表情になり、すぐに包みを開けてそれを頬張る。まるで飢えた野犬だ。
「調子はどう? と言ってももうすぐ終わりだけど」
「御堂さんに教えて貰ったおかげでばっちりですよ。この分なら200人中140位くらいはいけそうです!」
「それなら胸を張って中の下を名乗れるわね」
「どこに胸を張る要素が……」
そのまま談笑する二人。後は御堂さんに任せようと自分の教室に戻ると、ついさっきまで僕の頻尿ネタで盛り上がっていたのかこちらを見るなり『やべっ』といった表情になる友人達。一体どうやって誤解を解こうかと悩みながらも残りのテストを受け、休日を挟んで夏休み直前、テストの結果が校内に貼りだされる。宇月さんはまた不登校モードに入ってしまい結果だけ伝えてくださいと連絡を寄越してきた。自分の順位は200人中15位と優等生なのは間違いないし自己ベストだが他人からすれば面白味の無い結果だったので余韻に浸ることなく、最下位から彼女の名前を探す。真っ先に目に付いた195位保崎さんは無視してもう少し上を探すことしばらく、156位と褒められた成績では無いが前回よりは順位を上げているし学校に行っていないことを考慮すれば十分過ぎる場所に宇月さんの名前を見つけた。勉強を教えたりと色々と苦労をしたこともあり、感慨深さに浸りながら彼女に連絡をする。
『156位だったよ』
『まじですか! 凄いですね私!』
『凄くないよ』
『自己ベストですよ! ママにもパパにも褒めて貰えます!』
『学校に行っていない時点で褒められないでしょ……』
『私の親は甘いんです。不登校を許す程度に』
SNS越しで相手の顔がわからないが、恐らく部屋の中でガッツポーズを彼女はしていることだろう。宇月さんの方は一安心。問題はもう一人の方な訳だ。
「しょうがないよ、御堂さん病気で学校休んでたんだし」
「それでも3位なんて凄いよ」
「え、ええ、そうね……」
結果を見て呆然と立ち尽くす、夏休みが終わったら入院して容態次第で学校に復帰するかどうか決めるということになっている御堂さんと、彼女を心配する取り巻きの女子。順位表の一番上の方には彼女の名前は無く、3位という結果に終わっていた。学校を休んでゲームセンターで遊び歩いていても学年首席を維持できるほど、彼女は特別な存在では無かったのだろう。学校をサボると成績を落とすという現実が彼女の復帰を促すかもしれないし、自棄になった彼女が学校に行く気を失ってしまうかもしれない。どっちに転ぶかはわからないが今は僕に出来る事は無いだろうと、『前回よりちょっとだけ順位上げてるし夏休みの補習は無しだよな?』と問いかけてくる保崎さんに無慈悲にアウトだよと告げて教室に向かうのだった。




