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女の子を救うために二人を引き合わせます

「というわけで、テスト範囲はここまでになるからな。俺の評価が下がるから赤点なんて取るなよ」


 夏休みも近づいて浮つく学生を現実に引き戻すように、数学教師がテスト範囲を伝えて釘を刺す。夏休みの前にはテストがあって、赤点を取ってしまえば夏休みが減るばかりか、高校生ともなると留年の危険性すらある。と言っても大半の生徒は赤点とは無縁なわけで勉強しなくちゃなーと言いつつもそれほど焦りは見られないのだが、


「や、やべえ……ウチあの教師に去年滅茶苦茶絞られたんだよ……今年も赤点取ったらマジでどうなるかわかんねえ……なぁなぁ、同じ学級委員のよしみでどんな問題が出そうか教えてくれよ」

「週に一回学校を休む僕をフォローするためにちゃんと勉強はしてるはずだよね」

「いいのか? ウチが赤点取って補習になったり留年になっても」

「いいけど……」

「ぐふっ……」


 一部の生徒は焦って勉強のできそうな人にすり寄ったり、底辺同士勉強会をしようと持ち掛けたりとしていた。結局保崎さんはフォローを全然してくれなかったがそんなことは最初からわかっていたので自分で他のクラスメイトに聞くなりやっていたので、僕は特に期末テストに関して不安は無い。不安があるとすれば、



「というわけで宇月さん。もうすぐ期末テストだ。この日はちゃんと学校に行って貰うからね」

「リ、リモート受験とかはできないんですか?」

「そんなに裕福な高校では無いんだよ。今の学校の運営すら生徒の親にある程度お金を出して貰ってるみたいだし」


 勉強を教えるはずがすぐにアニメだネットゲームだと脱線してしまう宇月さんについてだ。元々成績は悪かったし、こないだの動画の件で若干はやる気を出してくれたがそれでもブランクを埋めるには厳しい。学年最下位も現実的と言ったところだろう。


「もし酷い点数を取ったら?」

「退学かもね。女子高生ですらなくなるね。ああ、動画配信者としてはそっちの方がうまくいくのかもね。『高校中退のニート女のお喋り枠』とか」

「う、うう……さ、さあ勉強しましょう!」


 幸いにも彼女は女子高生を捨てるつもりは無いらしく、退学のワードをちらつかせただけでやる気を出してくれた。今までに比べれば極めてスムーズに勉強が進み、たった4時間ではあったが我ながら中身のある時間だったと満足出来る仕上がりだ。


「つ、疲れた……」

「わかってるだろうけど、明日以降何もしなかったら意味ないからね。毎日2時間くらいでもいいからちゃんと僕が教えたテスト範囲の辺りを把握しておいてね。それじゃ」


 物分かりの悪い宇月さんに教えるのは疲れるが同時に達成感もある。心地よい疲労感に浸りながら今頃はクイズゲーム廃人と化しているであろう御堂さんの元へ向かおうとするが、


「待ってください、私今燃えてるんです。午後も手伝ってください」


 ノートと教科書を持った宇月さんに引き留められてしまう。彼女がやる気に溢れているのは嬉しいしできることなら手伝ってあげたいが、もう一人のお姫様の機嫌を損ねると宇月さんがこうしてのんびりと不登校をすることも出来なくなってしまう。


「悪いけど、午後からはもう一人の不登校の子の相手をしないといけないんだ。どうしてもって言うなら、休日に一緒にテスト勉強するかい?」


 本気で申し訳なさそうな表情をしながら、決して彼女の相手が面倒だから断っているわけではないことを、休日を返上する覚悟と共に示す。しかし彼女が反応したのは休日にテスト勉強をするという部分ではなく、


「……もう一人? 私以外にも不登校がいるんですか? 女の子ですか?」

「ああ、言って無かったっけ。うん、もう一人クラスの女の子が学校に来てないんだよ。だから午後は一緒には勉強できないんだ。もうそろそろ行かなくちゃ」

「私もついて行っていいですか?」

「え?」


 自分の他にも不登校がいるという部分であった。そして僕が部屋を出ようとすると、余程興味を持ったのか自分もついて行くという始末。この展開はまずい。恐らく彼女は大きな勘違いをしている。『もう一人の不登校も自分と同じような人間だから、友達になれるかも』という悲しい勘違いを!


「お利口にしていますから。3人で勉強会しましょうよ」

「いや、多分勉強会にはならないと思うよ……」

「私だってテスト前には勉強したんですから、もう一人だって似たようなものですよ」


 目を輝かせながら外出の準備をする彼女。真実を伝えて彼女を絶望させることもできず、実際に会ってみたらうまくいくかもしれないという希望を胸に、結局彼女と一緒に家を出て、御堂さんの待つゲームセンターに向かってしまうのだった。


「って、ゲームセンターじゃないですか? え、ひょっとしてもう一人の不登校は家にもいずにこんなところで遊び歩いているんですか?」

「まあ、そうだね」

「久我さんも大変ですねえ。任せてください、同じ女の子同士、ちゃんと勉強くらいはするように説得して見せますよ」


 相手が誰だかも知らずに、呑気な事を口走る彼女。これからの展開に胸を痛めながらも二人で御堂さんがいるであろう、クイズゲームのコーナーへ向かう。そこには案の定、大量の100円玉を積んで危ない目をしてクイズゲームにのめり込むもう一人の不登校がいた。


「……あら、もうそんな時間? ってその子は?」

「……」

「えと、宇月さん。この人が、もう一人のクラスの不登校だよ……」

「……う、ううっ……」


 もう一人の不登校が御堂さんであることを理解した瞬間、宇月さんは泣き顔になってしまう。無理もない、希望が絶望に変わってしまったのだから。


「え、何で私泣かれてるの?」

「う、ううっ……もう一人不登校がいるって聞いて、私みたいなだと、私未満の存在だと思っていたのに、仲良くなれたり、ワンチャン私でもマウント取れると思ったのに、こんな、こんなのって無いです……」

「私は謝ればいいの? 怒ればいいの?」


 勝手に身勝手な妄想をしては打ち砕かれてポロポロと涙を流す宇月さんと、困惑する御堂さん。幸か不幸かクイズゲームに熱中しすぎていた彼女は宇月さんのおかげで冷静になってくれたようで、そういう意味では宇月さんを連れて来たことは御堂さんにとっては正解だったが、宇月さんにとっては大失敗だったようだ。


「という訳なんだ宇月さん。もう一人の不登校は学年首席で学校に行かなくたって勉強も日頃からしてるからゲームセンターに入り浸るようなダメ女でも問題無いんだよ、悔しいよね。その悔しさを胸にテスト勉強頑張ろうよ」

「ダメ女で悪かったわね……はぁ、とりあえず宇月さん? 不登校同士仲良くしましょ」

「私と御堂さんでは住む世界が違いますよ。喋るネタだって無いでしょう。私、帰りますね。勉強しなくちゃ。久我さんはどうぞ御堂さんとデートでもしててください」


 スペックも高い人気者の御堂さんに自分の苦しみなんてわからないでしょうねとでも言いたげな目で御堂さんを睨みつけて一人帰ろうとする宇月さん。テスト勉強はしてくれるかもしれないが、彼女の学校への復帰は阻害されてしまったかなとため息をつく僕をよそに、御堂さんは宇月さんを引き留める。


「まぁまぁ、ここで会ったのも何かの縁よ。そうだ、ファミレスで一緒に勉強会をしない? 一度やってみたかったの、テスト前にファミレスでドリンクバーだけ注文して何時間も居座るの」

「ファミレスで勉強会……! ま、まあ、御堂さんと久我さんが一緒なら、勉強も捗るんでしょうね」

「決まりね。さあ、皆でファミレスに出陣よ」


 友達のいない人間にとってはファミレスで勉強会というリア充のテスト前のイベントはたまらなく羨ましいらしく、そのフレーズを聞いた瞬間に宇月さんの目が輝く。こうして僕達三人の、学校で授業を受けずにファミレスで勉強をするという真面目に不真面目なテスト対策がスタートしたのだった。

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