女の子を救うために動画を作ります
「思ったよりも入部する人が多かったですねおかげで部屋が少し狭いですこれは早めに活動実績を出して広い部室を学校に用意させないといけないですねというわけでゲームを作らなければいけませんやはり無難にノベルゲームでしょうか皆でリレー小説みたいな感じでカオスな作品を作りましょう」
「くくく……私が中学生の頃に書いていた夢小説というパンドラの箱、開ける時が来たようね」
「でも学校に活動実績を出すなら真面目な作品にした方がいいんじゃない?」
「確かにそうですねシナリオは演劇部で脚本を担当している久我さんがいますから私達は立ち絵とかボイスを頑張りましょう」
勝手にシナリオ担当にされながらオタクサークルの部室を眺める。アニメの談義をしている人、お絵かきをしてる人、ゲーム機を持ち込んでワイワイやっている人……宇月さんに頼まれて入ったはいいものの、自分はそこまでその手の趣味に詳しくないこともあり、周りの会話についていくことができない。
「あ、てめ、ふざけんな、それハメだろ、あああああああ! あーくっそ! ハメ技使うやつにはハメさせてやんねー! ばーかばーか」
近くで男子と格闘ゲームをして負けた保崎さんが、不機嫌そうに棚に置いてある漫画を手に取って近くに座る。宇月さんみたいな人ばかりいると思っていたが部長は割と手当たり次第に勧誘したらしく、美少女アニメを語っている人達の近くでロボットについて熱く語っている人達がいたりとメンバーはカオス極まりない。タイプが同じオタクなら争いも起きるが、別のタイプなら争いも起きないということなのか特に雰囲気が悪い訳でも無かった。
「保崎さんも入部したんだ」
「格ゲーとロボットの話ができると思ってな。まあ放課後はダチと遊ぶのが大半だからそんなには来ねえよ、幽霊部員幽霊部員」
「僕も宇月さんに頼まれて様子を見に来ただけだから保崎さん以上に幽霊になりそうだよ。そういうわけで来た時でいいから部活の雰囲気とか部員のディテールとか調べておいてくれないかな」
「しょうがねえな……代わりにこれを完成させてくれよ。カッコいいと思って買ったけどちまちました作業できねえんだ」
「プラモは自分で作るもんだと思うけど……」
宇月さんのための部活調査を頼み、代わりに聞いたこともないロボットアニメのよくわからないロボットのプラモの箱を押し付けられる。それをカバンに仕舞うと、勝手に人をシナリオ担当にして作品の方向性について話し合っている部長達の方へと向かうのだった。
「ふぁ~……ついつい夜更かししてしまった……」
深夜までプラモ作成に勤しんでしまい、寝不足のまま宇月さんの家へと向かう。学校に行くわけでは無いから多少遅刻してもいいや、という認識が僕の中でも多少はあるのだろう、最近彼女達に会いに行く日の前日は夜更かしをついついしてしまう。午後に会いにいく御堂さんはともかく、宇月さんは遅刻したらかなりスネてしまいそうなので気をつけなければ。
「今日は、好きなアニメを紹介したいと思います……」
彼女の部屋の前まで来たが、中から彼女の声がする。会話の内容的に誰かと電話でもしているのだろうかとしばらくドアの前で待っていたのだが、
「どーも! あやみーのアニオタちゃんねるです!」
「はじめましての方ははじめましてー」
急に大声になったり声色が変わったり、どうにも会話の内容がおかしい。かといって会話中に部屋の中に入るのもなんだしと待つことしばらく、
「あああああああ!」
中から彼女の悲鳴が聞こえてきたので何事かとドアを開けることにする。そこには制服姿の彼女が、パソコンの前で項垂れているという光景があった。
「……どうして制服を?」
「……先週から、色々、考えたんですよ。これからの事。その結果、動画配信者になるしかないと思ったんです。……って、何見てるんですか! 私がついさっき作ってしまった黒歴史を見ないでください!」
ベッドにうつぶせになりふて寝してしまったものの、自分がパソコンの画面を覗こうとすると慌てて飛び起きてついさっきまで録画していたらしい動画を削除し始める彼女。実際には1年の時に廊下とかですれ違ったりはしているのだろうが、彼女の制服姿は新鮮だ。
「その発想はおかしいよ。学校に行こう?」
「学校に行って卒業したって、働けるイメージ湧きませんし……時代は動画配信者ですよ。引きこもっている間に他人の動画結構見ましたが、女子高生が顔出ししてるだけでそこそこ視聴されるはずです」
「女子高生? 学校に行っていないのに女子高生とはこれいかに。そして真面目にやらないと来年には女子高生では無くなっているかもよ」
女子高生というステータスを前面に押し出す彼女だが、女子高生であっても人気の動画配信者は顔が可愛いとかセクシーだとか技能を持っているだとか何かしら持っている。御堂さんならまだしも彼女にはそういう可能性を感じない、なんてのはあまりにも酷な言葉だしセクハラにもなりかねないので口を噤む。
「ぐふっ……で、でもでも、会話の練習にもなるかもしれませんし……」
「確かにね。それに勉強配信ってのも需要があるし」
学校に行くという方向で頑張って欲しいところだが、コミュ力も学力も残念ながら低い彼女がいきなり学校に復帰したところで色んな傷を抱えてしまい兼ねないのも確かだろう。動画や配信を通じて喋ったり、視聴者と一緒に勉強したりと、好きなことで学んでいけるのだとしたら手伝う価値はあるかもしれない。
「というわけで再チャレンジです。……どうもー、あやみーでーす。今日はですねー……えーと……その……何を喋ればいいんですか?」
「僕に聞かれても……普通はやりたいことがあってそれを表現したりするために動画を作るのであって、動画配信を目的にしたらそりゃ内容が無くなるよ。アニメの話でもしたら? さっきアニオタちゃんねるとか言ってたし」
「人をアニオタ扱いしないでください! ……どうも、あやみーでーす。今日はですね、えーと、その、アニメの……話を……最近見てるのは……えーと……」
ここへ来た本来の目的である勉強がすっかりどこかへ行っていることに不安を抱えながらも彼女の動画制作を応援するが、彼女はオタクサークルの部長のように趣味なら饒舌になれるというわけでもないらしく、アニメの話であってもうまく喋ることが出来ていない。
「口の悪い素? の自分を出してみたら? 外の世界ならともかく自分の部屋なんだし」
「ネットの世界で素の自分を出して暴言とか吐きまくる女子高生ってやばくないですか?」
「やばいね」
「それに私が声を荒げたりするのは久我さんに失礼な事を言われたりとストレスが溜まった時だけですよ。素の私は大人しくて優しいということにしましょう。……というわけで見本見せてください」
動画の最初の30秒くらいを何度かやり直して挫折したのか、僕をパソコンの前に無理矢理座らせて録画の方法とかの説明をする彼女。
「……どもども、クーガーです。今日は自分の高校の演劇部にある完全オリジナルの脚本を紹介して行きたいと思います。まずは毎年部活紹介の時にやっている『ヘルメットバトル』、これは初代部長が原付で通学していた時に転んでしまって、ヘルメットが取れて道路でくるくる回転したのを見て思いついた話なんですけどね……」
唐突にネタ振りをされても困るのだが、丁度演劇部の今までの脚本をまとめようという話になっていて過去の脚本の知識があったのでそれについてしばらく喋る。自分の担当した脚本も含めて数分ほど語り録画を切って宇月さんの方を見ると、わなわなと震えていた。
「うう……あがりまくって噛み噛みになると思ってたのに……」
「残念だけど脚本担当とは言えちょい役で出たりもするからね。それなりに練習は積んでいるんだよ。悔しかったらちゃんと勉強して語彙力つけたり頭の中で文章を組み立てたりしよっか」
自分でもうまく喋ることが出来たと思っているからか、若干勝ち誇った顔になってしまいながら教科書を並べる。この日、彼女は語彙力と組み立てる力を養いたいのか国語と数学はかなり熱心に取り組むのだった。




