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女の子を救うためにプリクラを撮ります

「……♪」


 宇月さんの方は今日の件で一気に進展したような気がするからか、平日の昼間で人がいないことをいいことに鼻歌交じりで上機嫌に御堂さんの待つゲームセンターへ向かう。多分彼女はこの一週間ずっと馬を育てていることだろうとメダルゲームコーナーの競馬ゲームの筐体の方へ向かうと、


「うっ……ううっ……」


 そこにいたのは、筐体の画面に顔を突っ伏しながらすすり泣く彼女の姿。元々時間的に客がいないし店員さんも他の階にいるからか、誰も彼女の事を心配してはくれないという悲しい光景がそこにはあった。


「大丈夫御堂さん!? どうしたのさ、両親から電話でもあったのかい?」


 気丈な彼女が泣くことに原因があるとすれば、彼女が愛している、学校に行かなくなってしまった原因でもある両親くらいなものだろう。学校に行っていないのが両親にバレてしまったのだろうかと不安になったが、彼女は目を赤くしながら筐体の画面を指さした。


「ついに三冠馬になるチャンスが来たから、全財産を単勝で賭けたの。そしたら、そしたら……!」

「帰っていいかな?」


 競馬で全部スったなんてあまりにも馬鹿馬鹿しい理由で泣いているとわかると、慰めることなく塩対応をする。自分の心配を返して欲しい。


「貴方に何がわかるって言うのよ……! 私がこの一週間どれだけ馬に愛情を注いでいたと思っているの!? ああ、ミドーバサッシー6、連対もしなかったせいで賞金が無いから餌もあげられないわ……」

「馬の名前に番号をつけているあたり愛情が注がれているように思えないんだけど」

「せめて、せめてこっちの馬で栄光を……」


 6代目と思わしき愛馬を画面越しに撫でながら、スマホを取り出して馬のゲームを起動し、貯めていたらしいガチャチケットを使い始める。しかし最高レアが出るどころか、そのワンランク下のレアも保証分程度しか出てこないという悲惨極まりない結果を連発していた。


「私が、私が何をしたって言うの……!」

「学校に行かずにゲームセンターで遊び歩き、立場を利用して学校を脅し、僕には頻繁にアイスを奢らせているね」

「クリティカルヒット!」


 悲劇のヒロインを気取っている彼女に無慈悲な現実を伝えると、クリティカルヒットしてしまったらしくふらふらと逃げるようにアイスの自販機へ向かう。無言でグレープシャーベットをシャクシャクと平らげで若干メンタルは落ち着いたのか、店内をキョロキョロと見渡した。


「しばらくお馬さん、というかメダルゲームは引退ね。で、何する?」

「僕にやることを聞くくらいネタが無いなら学校行こう?」


 もう彼女が学校に行かずに遊び歩いてから1ヵ月以上経っている。いい加減遊ぶのにも飽きた頃だろうし、そろそろ学校に行って欲しかったのだが僕の提案に彼女は甘いわねとばかりに指を鳴らした。


「私が学校行ったらどうなると思う?」

「少なくとも僕の負担は減るね」

「減る? 『無くなる』の間違いではなくて?」

「……」


 彼女が学校に行けば僕は宇月さんの方に労力を割けるわけだから、宇月さんの脱不登校も効率的になるなんて考えていたが、それはあくまで僕目線の話。元々宇月さんは御堂さんの『おまけ』でしかない。本体が学校に行ってしまえば気に掛ける必要も無くなり、『御堂さんを学校に来させてくれてありがとう。宇月さんは学校の方で何とかしていくから君はもういいよ』なんて展開になってもおかしくない。それで宇月さんは学校に来ることができるようになるのかを想像したが、ロクな未来は見えなかった。


「というわけでもう1人のために私はまだまだ学校に行くつもりはないわ。なんて優しいのかしら私」

「絶対自分のためだよね」


 尤もらしい事を言いながら次の遊ぶ対象を探すためにゲームセンターの別のコーナーへ向かう彼女。メダルゲームのコーナーからUFOキャッチャーやらが置いてあるコーナーへ移動し、彼女はとある機械の前で止まった。


「これがプリクラね。へえ、写真を加工もできるのね。私の美しい顔が更に美しくなるのね」


 プリクラ。ただ写真を撮って加工するだけの、ゲームでも何でもない代物だが、それでも大抵のゲームセンターには置いてあるのだから需要は高いのだろう。目力アップだとか超美麗だとかただ写真を撮るだけの機械にどうしてこれだけのバリエーションがあるのか理解できないが、そこは男と女では興味が違うのだろう、彼女はまるで回転寿司を初めて見た子供のように筐体に書いてある説明文をまじまじと読んでいた。


「それじゃあ入るわよ」

「え、僕も? 恥ずかしいんだけど」

「この時間誰も見てないでしょ。そして誰も見てないとしても一人でプリクラ撮るのは虚しいし恥ずかしいわ。貴方で我慢してあげる。なんと、割り勘よ。お得でしょ」

「御堂さんが一方的に得している気が……」


 超美麗と書かれたプリクラに目をつけた彼女が僕を強引に中に押し込もうとする。観念して代金の半分である300円を彼女に手渡し、中に入って写真を加工したりするためのモニターの説明文を眺める。タイトル通り、顔を超美麗に補正するのが売りらしい。超美麗とやらが何なのかは知らないが。


「結構中は広いのね」

「まあ、友達グループ4、5人で撮ることもあるだろうからね。証明写真の機械とは違うよ」

「尚更1人で撮ると虚しいわね」


 中心に位置取った彼女は撮影開始のボタンを押そうとするが、何か躊躇っているらしく手鏡を取り出して髪型とかをチェックし始めた。


「証明写真を撮るわけじゃないんだから……」

「女の子にはそれじゃ納得できない部分があるのよ」

「大体この後写真を加工するんだよ? 別人になるよ多分」


 見た目のチェックに時間をかけ過ぎたからか、外でチャリンチャリンと返金される音がする。もう一度お金を入れるために外に出ようとするより先に、店員が外から注意をしに来た。


「すみません、撮影をしていないようですが」

「ごめんなさい、ちょっと電話がかかってきて対応していたの」


 外に出て店員に謝ると、もう一度お金を入れて戻ってくる彼女。ちょっと撮影しないだけで注意するなんて、神経質な店員ね、どうせこの時間客は少ないのにと不思議がる彼女だが、男である自分はその理由がよーくわかる。きっと中で致していると思われたのだろう。


「それじゃあ撮るわよ……セイッ」

「いえーいぴーす」


 気を取り直して、中心に立って両手をクロスさせるポーズで撮影に臨む彼女。僕もとりあえず横に立って棒読みと共にピースサインをして、カシャリとした音と共に自信満々の表情をした彼女と、無表情の僕がモニターに映し出された。


「補正するまでも無く超美麗ね……貴方が可哀相だから超美麗にしてあげる」


 ウキウキで僕の顔を弄り始める彼女。超美麗と言ってもリアルな感じではなく、少女漫画的な美麗さらしく僕の目玉はやたらと大きくキラキラとなってしまい、更に顔の周りに花のエフェクトが付与される。


「ふ、ふふふ、ふひひひひ! あー可笑しい。さあ、現像しましょ」


 結局自分の顔を一切弄ることなく、外に出て写真を取り、近くに置いてあったハサミで半分にして僕に寄越す。


「撮ったはいいけどこんなの何に使えって言うのよ?」

「カップルだったら自分のスマホとかサイフとかに貼ったり、後はプリクラ用の手帳に貼ったりするね。ほら、こういうの」


 カバンから手帳を取り出すと、彼女に寄越されたプリクラを貼って彼女に見せる。文化祭の打ち上げだとかでクラスメイト達と一緒に行った時に撮ったプリクラの写真だとか、家族でゲームセンターに遊びに来た時に姉妹と撮った写真だとか、数は少ないが捨てるのもなんだしと一応保存はしている。


「これがたくさんある女の子はリア充って訳ね。男の貴方ですら何枚かは思い出があるのに、私には無いのね」

「プリクラくらいで大げさな……手帳とかは無料で配られてるから御堂さんも使ったら?」

「何かこの1枚だけしか貼られない手帳を想像したら悲しくなったからこれはこのまま保存しとくわ」


 プリクラをカバンに仕舞うとそれじゃあねと去っていく彼女。何かの弾みで流出してしまえば、カップルで撮ったプリクラだと思われてしまうが、幸いにも僕の顔は原型を留めていないので火の粉が降りかかることは無いのだ。





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