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女の子を救うために部活に入ります

 ある日廊下を歩いていると、部員勧誘のポスターやらが貼ってある掲示板が目に留まる。そこにはやたらと顎が尖っているイケメンが一緒に青春をしようと言っているポスターが貼ってあった。


「この顎の尖り具合……ギャンブル同好会かな……案外御堂さんが好きそうだ」

「サブカルチャー同好会ですよと言っても実質は漫画やアニメゲームを語ったり楽しんだりするオタクサークルですけどねついこないだアマチュア無線部が廃部になって部室が空いたと聞いたんで思い切って作ってみたんです久我さんそういえば演劇部で脚本を担当していましたよねどうですかウチでシナリオライターやってみませんかというのも活動実績を作るために同人ゲームの作成を考えていましておっと勘違いしないでくださいエロゲではありませんよ学校でそんなもの作る訳無いじゃないですかいやプライベートでも作ってませんからね?」

「どうして後半目を逸らすのさ……部員名簿か何か貰えるかな」

「ああ確かに私が作って友達メインに勧誘したんで女子が多いですからね男子からしたら気まずいかもしれませんねちょっと待ってください正式部員メンバーリストとか持ってきます」


 ポスターを眺めているとクラスメイトの、宇月さん曰く陽のオタクの1人が目を輝かせながら話しかけてきて入部届を無理矢理手渡して来る。ダッシュで教室に向かいすぐに持ってきた部員名簿を受け取り、入部届と共にカバンに仕舞うと、期待の目でこちらを見つめてくる彼女に曖昧な返事をする。自分の代わりに一人部員が増えるかもしれないのだから、特に罪悪感は感じていない。




「というわけで宇月さん、これが宇月さんの仲間達リストだよ」


 後日。その入部届と部員名簿を宇月さんに手渡すと、彼女は真面目な表情で部員名簿を眺め始めた。


「……部長はあのうるさいやつですか。敵ですよ敵。あいつ確か彼氏持ちだったはずですよ? 許せませんよね」

「いいでしょ別にオタクに彼氏がいたって……」

「副部長のこいつも敵ですよ。ギャルじゃないですか。ギャルは全員敵なんです」

「宇月さんだってgirlだからね? 広義で言えばギャルでしょ?」

「この入部希望の男子、1年の時同じクラスでしたけどプレイボーイっぽいですよ。漫画やらアニメやらの話をしているのを聞いたことがありませんし。サークルに入る目的も恋愛慣れしてないオタク女を食ってやろうとかそっちじゃないんですかね?」

「それはちょっと僕の方から部長に懸念点として伝えておこうかな」


 メンバーを見てはあいつは敵だとか、こいつは苦手なタイプだとか批評を並べ始める彼女。結局彼女が好む人間はいなかったのか、ため息をついて入部届と部員名簿をその辺に投げ捨てると、ベッドにダイブいてふて寝をし始めた。


「宇月さん。同学年を敵視していたら友達は出来ないよ」

「大きなお世話ですよ……妥協しないことで真の親友が見つかるんです。ズバリ聞きますが、久我さんには親友いませんよね? 誰も拒絶しない、八方美人な人間には、自分は友達だと思っている程度の存在しかいないんですよ」


 投げ捨てたそれを拾って机に置くと、若干呆れながら彼女の拒絶っぷりに難色を示す。昔は友達が若干いたらしいが、彼女の慣れてからのこの傍若無人ぷりを見るに、友人グループの中でも浮いた存在となり、自然に距離が出来てしまい、それに気づいて空気のように徹するも時すでに遅しなタイプだったことだろう。そんな僕の同情とも憐憫とも取れる視線をうつ伏せ状態で反射しながら、彼女の中で僕は言いたいことを気兼ねなく言える、同性なら友達くらいの位置付けにはいるのだろう、遠慮なく口撃を仕掛けてくる。確かに僕の人生、友人はそれなりにいたが親友と呼べる存在はいなかったのも事実だ。友達100人より一人の親友や恋人といった存在の方が価値があるというのもよくある考えなのだろうし、こうして最終的には面倒ごとも押し付けられる自分の生き方は他人に勧められるようなものではない。それでも、


「それの何が悪いのさ。親友? 高校生活も後2年も無い。その後は大学に進学するなり就職するなりしてバラバラになるんだよ。多数の妥協した友達とコミュニケーション能力を磨くことなく、妥協することなく親友を見つけることができたとして、宇月さん、その後の人生どうするつもりだい? 離れ離れになっても、その親友とやらに頻繁にSNSをするような、休み時間の度に別のクラスに行くような人生を送り続けるのかい?」

「う、ううっ、うううううううっ……わ、私の、私の中学時代を否定しないで、くださいっ……」


 人間の性格も生き方も簡単には変えられないし、それならばメリットをうまく活用していくのが人間というものだ。少なくとも自分は周囲の人間とうまく付き合っていくノウハウは宇月さんよりは遥かに熟知しているし、それは妥協して人付き合いをしてきたからに他ならない。親友が出来たって、恋人を作ったって、結婚をしたって、ずっと一緒にいられる保障はないし、それをゴールに設定してしまうような生き方はどこかで破綻してしまうのだ。僕の最後の一言が彼女のトラウマを刺激してしまったようで、嗚咽混じりのすすり泣きが始まってしまう。やりすぎたな、と反省しながら僕は部屋を出て、ドアの前でちょこんと体育座りをした。


「……久我さんは、冷たい人ですね。さっきの言葉、撤回しますよ。八方美人でも何でもない、私のような人間を拒絶する、それが本性なんですか?」


 しばらくすると、彼女もドアの向かい側に座ったのか、すぐ傍から彼女の震えるような声がする。


「そうかもね。学校でうまく立ち回るってことは、安定した人とつるむってことでもあるんだよ。面倒臭そうな人間とは自然に距離を置いたり、悩みのあまり無さそうな人と友人関係を築こうとしたり、トラブルを避けることで例え自分に異常な本性があったとしてそれが表に出てくることなんてない。普通の人間とやらは大抵そうだと思うよ」

「そうして私のような人間の助けを求める声は、普通の人間には無視されたり、見て見ぬふりされてしまうんですね」

「そうだね。だから学校ってのは周囲の普通を見極める場所でもあるんじゃないかな。うまくいかなくて、自分がおかしいと自覚したならば、それでも正しいのは自分なんだと我が道を突き進むか、周りに迎合するか、どこかで選ばないといけないんだよ。善も悪も無い。客観的にクラスや学校自体がおかしかったとして、インターネットの世界で味方が出来たとして、現実の自分を助けてはくれない。自分が生きるコミュニティの特性を理解して常に適応していくのが人間の強みだよ」

「優等生にはそれが出来ても、私にはできないですよ。自慢じゃないですが、親に怒られたことなんてほぼありませんよ。自己主張がなかなかできない性格も、いざ仲良くなったと認識するといきなり距離を詰めようとして結果的に避けられてしまうような性格も、ずっと肯定されて生きてきたんです」

「……だから宇月さんもわかってるはずだよ。自分に必要なのは宇月さんの生き方を肯定するだけの人間ではないってことを。冷たい人はソシャゲーに付き合ったり部活探したりしないよ。僕は意外と熱血漢だったんだなと最近びっくりしているよ」

「……」


 部屋の中で泣きながら話す女子と、部屋の外で淡々と話す男子。どこかの人気バンドの歌を思い出しているうちに、ドアが開いて目元を赤くした彼女がぐいと僕を引っ張って机に座らせた。


「……久我さんの仕事は私に勉強を教えることですよね? さっさとやりましょう」

「やる気出してくれて嬉しいよ」

「あ、それと」


 教科書とノートを開きながら、入部届と部員名簿リストをこちらに寄越す彼女。入部届には勝手に自分の名前が書かれており、部員名簿リストには何人かの名前に印がつけてあった。


「部活入って様子を見てください。あと、この人達気になっているんで調査してください」

「僕これでも部活3つ掛け持ちしてる身なんだけど」

「下着姿を見たり泣いてるところを見たり必要なのは肯定するだけの人間じゃないなんて言ったり、親友みたいな距離感で私の心に踏み込んで来たんです、責任取ってくれますよね?」

「え、宇月さんの中で僕は親友なの? 男女の友情は信じないんじゃ」

「……」

「わかったわかった、さあ勉強を始めよう」


 親友というフレーズが気になって問いただそうとするが、泣いた後だからか別の要因があるのか知らないが、顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけてくる彼女に威圧されてしまい、入部届と部員名簿リストを自分のカバンに仕舞いながら自分も教科書とノートを開くのだった。

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