女の子を救うために馬を育てます
宇月さんに一日の体重の増減に一喜一憂することなく、親がいないからって出前やカップ麺ばかり食べないよう、間食を控えるように忠告した後、コンビニでおにぎりを買って電車の中で食べるというあまり人の事を言えない僕は御堂さんの待つゲームセンターへと向かう。メダルゲームのコーナーでボール抽選ゲームを遊んでいる、当然のようにシャーベットを食べた後の剣を3本ほど侍らせている彼女には宇月さんの乙女の悩みなんて理解できないだろうし、宇月さんには御堂さんの運動すればいいなんてストイックな考えは理解できないのだろう。
「メダルは増えた?」
「ええ。聡明な私に時間という最強の武器が合わさればもう無敵ね。この1週間、朝も昼も夜も通い詰めていい状態の台を拾い続けた甲斐があったわ。でもね、夕方になって学生集団がやって来たり、休日になって家族連れがやって来たり、早朝には老人達の憩いの場になっていたり……そんな中、一人でチマチマメダルを増やしながら遊ぶのはとても辛かったわ。……仮に休日に私が呼んだら来てくれた?」
「まあ、休日は暇してるし。交通費がまぁまぁ痛いけど」
「こっそり自分のお金を使ったり、人助けにはお金がかかるのね」
「バレてたのか……」
クレジットがたんまり入ったゲームのカードを手に取ると、自分で食べる用だったのか、この時間に自分が来るのを見越して置いていたのかは不明だがグレープシャーベットをこちらに寄越して別の台へと向かう彼女。残念ながら学校は交通費しか出してくれないので親にお小遣いアップを交渉してはみたものの、高校生なんだからアルバイトをしなさいと言われてしまう始末。平日は部活とかまぁまぁあるし、休日も彼女達に呼ばれるような展開を考えるとなかなかハードな日々になりそうだ。
「ある程度メダルが溜まったら、これをやろうと思っていたの」
「全財産を賭けて大勝負にでも出るのかい?」
彼女の向かった先には馬の模型がパカラパカラと駆け回る競馬ゲーム。昔は自分もヒヨコのレースに数枚賭けて一喜一憂したものだが、これは随分と賭ける最大枚数が多そうで、さぞや脳内麻薬が出ることだろう。
「このゲームは自分で馬を育ててレースに出走させることができるのよ。やっぱりセレブと言えば馬よね。私が成功者になった暁には、馬主になって世界にその名を轟かせて見せるわ。それに、」
走りまわる馬を眺めながら、彼女はスマホを取り出してゲームの画面をこちらに見せてくる。そこでは女の子達がレースをしている、最早ただの長距離走にしか見えない光景があった。
「今流行ってるでしょ、馬」
「随分と狭い世界な気がするけど……」
スマートフォンのゲームをプレイしながら台に座り、私は優しいからメダルを恵んであげるわと隣に僕を座らせる。友達やカップルでワイワイ遊ぶことを前提としているのか、隣り合って二人でプレイできるような構造になっていた。彼女にメダルを分けて貰い、とりあえずメダルを使って自分の馬を作る。実際の競馬は見た事が無いが、昔父親が持っていた似たように馬を育てるゲームを遊んだことがあるのである程度の知識はあるし感覚は掴める。無難な組み合わせで自分の馬を作り、『クーガーウーマー』という絶妙なネーミングセンスを発揮させて隣の彼女を見てぎょっとする。そこにはブエナヴィスタ×スペサルウィークの配合を進めようとしている彼女の姿があった。
「御堂さん、ブエナヴィスタはスペサルウィークの子供だよ!? 血が濃すぎるよ!」
「甘いわね。インブリードって知ってる? 血が濃いと強い馬が出来やすいの」
「こんなことしたら短命になるよ」
「所詮はゲームよ。すぐに死ぬわけないじゃない。さあ、ここから私のミドーバサッシーの伝説が始まるのよ」
「名前も酷い……」
「貴方のよりマシよ」
危険な配合により産まれた、すぐに馬刺しになりそうな馬を調教し始める彼女。僕も同じくメダルを使って馬を育て、しばらくしてお互いレースに出すことに。オッズ表にはミドーバサッシーの他に、ミドーグレープやミドープリティーという馬名が表示されていた。
「何か増えてない?」
「私、必勝法に気づいたの。……たくさん馬を出せば、勝ちやすい!」
「力技だね……」
1位から3位を埋めてやるわと自信満々に言う彼女だったが、すぐにオッズ表を見て顔を顰める。自分の馬は2番人気なのに対し、彼女の馬は揃いも揃って下位人気だったからだ。
「ちょっと、おかしいでしょ。騎手だって有名な人に頼んだのよ」
「血統とか適性とかをちゃんと考えないから……このレースはダートだから芝タイプの馬は不利だよ」
「そういえばこのレースで腕試ししようよと提案したのは貴方だったわね……自分に有利な条件で勝負を挑むなんて卑怯よ! アイスを返しなさい!」
こちらを睨みつける彼女の機嫌を直すためにアイスを買いに席を立つと同時にレースがスタートする。恐らく自分が帰って来る頃には結果を見て彼女が更に怒り狂うことだろうとグレープシャーベットを2つ買って戻ってくると、案の定僕の馬が1位を取って彼女の馬達は3位にも入れないという悲しい現実がそこにはあった。
「ぐ、ぐぬぬ……その馬こちらに寄越しなさい」
「そんな機能無いでしょ……」
「じゃあ席を交代しなさい。私は勝利の喜びを味わいたいの」
買って来たアイスを奪い取ると乱暴に包みを歯で剥がしながら僕の席に座り、自分の育てた馬すら奪い取る。仕方なく彼女の席に座り、レース後で疲弊している馬達を休息させながら開催されているレースを眺めていたのだが、彼女は翌週のレースにクーガーウーマーを出走させていた。
「翌週は疲れが取れて無いと思うよ」
「1週間も休めば十分よ。……ちょっと、人気無いじゃないこの馬」
「これメダルゲームだからさ。実際の馬の知識も必要だとは思うけど、ある程度はメダルを使って餌をあげたり調教したりしないと勝てないようにできていると思うよ」
先ほどは2番人気だった僕の馬も、連闘するだけの体力が無いからか、メダルを吸わせていないからか、10番人気と一気に落ちていた。何とか健闘して3位には入り込むことが出来たが、学年主席はレースも1位で無いと満足できないらしく二本目のアイスに手を付ける、
「ぐぬぬ……うまく行かないわね」
「メダルゲームとは言えど結構本格的な競馬ゲームみたいだし、適当にやったら勝つのは難しいんじゃないかな。そのスマホゲーは役に立たないの?」
「スキルが発動すれば勝てるのに……」
負けず嫌いのスキルを発揮して、スマホで攻略サイトやらを調べ始める彼女。僕も彼女の馬のケアをしつつ調教をしたりレースに参加させて時間が過ぎていく。お互い順調に馬を活躍させ、引退したら繁殖させようなんて話をして盛り上がっていたのだが、ふと辺りを見ると人が増えていることに気づく。もう学校も終わり、不真面目な学生達や家族連れがやって来る時間だ。
「もうこんな時間なのね。二人仲良く競馬ゲームをしているところを同じ学校の人にでも見られたらお互いどんな噂をされるものかわかったもんじゃないわ。そろそろ解散しましょうか」
「そういえば学校で御堂さんをゲームセンターで見かけたなんて話は聞かないね」
「リスク管理はきちんとしてるのよ。休日だって若干変装してもしも学校の人に見られてもバレないように立ち回っているの。皆の中で私は病気か何かで休んでいる薄幸な美少女であり続けるのよ」
「保崎さん辺りがバラしそうな気もするね」
「もしそうなったらあの女を社会的に抹殺してやるわ」
大量のシャーベットの剣、もとい食べた後のゴミを持ってそれじゃあまたねと去っていく彼女。自分は何となくもう少し続けたかったので一人寂しく馬を育て続けるのだった。




