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女の子を救うために運動をします

「保崎さん、このスマホゲーやってみない? お勧めだよ」

「おいおい、ウチにそれを勧めるなんて周回遅れだぜ? そのゲームはウチがこの学校に既に広めたんだ。課金や時間よりも協力が重要なゲームだから、ウチみたいな友達多い人間が強くなるって寸法よ」

「どうして彼女はそんなゲームを遊んでるんだ……マゾなのかな……」


 宇月さんをネトゲ依存症から救うために、そして最終的には不登校から抜け出して貰うために、彼女にネットゲームで貢ぐ人達を募ってみたものの、もう1人の学級委員は役に立たないどころか足を引っ張る形に。そして自分が学校で流行っていることを知らなかったという事実に若干ショックを受ける。冷静に考えればクラスメイトに協力して貰って宇月さんがネットゲームで強くなったどころで、時間をかけなくなるどころか更にのめり込んでしまうだけなのだろう。


「お願いがあるんだけど、このユーザー……というか宇月さんを見かけても協力しないように周りに言っといてくれないかな。むしろ徹底的に邪魔して欲しい。PVPイベントで積極的に狩ったりランキングイベントで蹴落としたり」

「ひでえことを考えるんだな。根暗の味方じゃ無かったのか?」

「味方だからこそだよ。彼女がネットゲームなんてクソだと思うようになることが、結果的に現実世界への架け橋となるのさ。ネットゲームは時間や心に余裕のある人間がやるもんさ」

「そういうことなら、ウチの余裕を根暗のために使ってやるか」


 彼女をネットゲームで強くさせる作戦は早々に諦め、彼女がネットゲームをつまらないと思うようにする作戦を決行する。ようやく役に立ちそうな保崎さんが、ニヤニヤしながら『こいつはウチ達の学校を底辺校扱いしたクソ野郎だから皆でボコってしまえ』と友人グループに発信していた。


『最近ネットゲームで踏んだり蹴ったりなんです……執拗に狙われるし、ランキングイベントではギリギリで逃すし……特にこの【世界のHOZAKI】って上位ランカーが私をしょっちゅう攻撃してくるんです、1回もやり取りした事無いのに……』

『引退するのもありなんじゃない?』

『確かに、今辞めた方が傷が浅いですよね……』

『代わりと言ってはなんだけど、今日から始まったゲームを一緒にやろうよ。事前登録している人も少ないから、多分ユーザー数も大したことないよ。あまり時間をかけなくてもランクインできるはず』


 3日後。保崎さんはしっかりと仕事をこなしてくれたようで、宇月さんは大分滅入っているようだった。すかさず僕は事前に調べておいた、あまり時間をかけなくても大丈夫そうなゲームを紹介し、彼女に乗り換えさせる。たかが1高校のユーザーが全体に影響を与えるとはとても思えないが、念のために保崎さんにこのゲームを広めないように言っておいた。1日のオンライン時間がわかるタイプのゲームなので、宇月さんがやりすぎていないか監視することもできる。1日1時間程度彼女のネットゲームに付き合いながら、翌週も僕は彼女の家へ向かう。コンコンとドアをノックするが反応は無い。ここへ来る前にネットゲームにログインした時彼女もログインしていたので起きているはずなのだが、お風呂にでも入っているのだろうかとしばらく待っていると、


「キャアアアアアア!」


 下の階から彼女の悲鳴が聞こえる。家に入った時に鍵を閉めていたはずだが、まさか泥棒が入ったのだろうかと僕は武器がてらカバンを持って声のする方へ急いだ。


「宇月さん!」

「……嘘です、嘘ですよ……」


 そこでは下着姿の彼女が、体重計に乗って絶望した表情になっているという、女の子したら泥棒やゴキブリよりも悲惨な事があったのだろうと思わせる光景があった。慌てて目を逸らす僕の事など今の彼女の眼中にも無いのか、彼女はぼーっとした表情でジャージに着替えると、とぼとぼと自分の部屋に向かいベッドにうつぶせで倒れる。これが僕の姉妹なら『男は多少肉がついていた方が好みだよ』とか、『全然太ってないよ』とか言うだけで良いし一般的にはそれが正しい対応なのだろうが、僕には彼女を学校に来させるという使命がある。だから心を鬼にすることにした。


「最後に家から出て歩いたのはいつ?」

「……1週間前の深夜にコンビニへ……」

「家から出ずに食っちゃ寝してたら太るのは当然だよ」

「ぐふっ……う、うう……」

「まあ、僕としては正直良かったけどね。太っていることを気にする、恥ずかしいと思うってことは、人の前に出ることを放棄していないってことだろう?」


 彼女は元々小柄な方だし、全然太っているようには見えないというのが素直な意見だが、それでも彼女が今の自分を太っていると思っているということは、人前に出るべき自分の姿をイメージしているということでもある。これが太っていても気にならないし、何なら自分に下着を見られたことすらどうでもいいと感じるようになってしまっては、学校に行くなんて難しいだろうから。


「わ、私はどうすれば……」

「歩いて学校まで行ったり、体育の授業をしたり、普通の学生は日常を送っているだけでそれなりに運動をするような仕組みになっているんだよ。さあ、学校に行こう」

「こんな姿で外になんて出られません……」


 普段は自称優しい、大人しい子なだけで内弁慶なのか自分にも強く当たる彼女だが、今の彼女は随分と滅入っているようで僕の提案に涙目になる。少し興奮している自分に気づき、案外自分はサディストなのかもしれないと自己分析をしている中、彼女は何か閃いたようで部屋を出てリビングの方へ向かって行った。


「パパが買ったけどすぐに飽きちゃったランニングマシンです! これで痩せる!」

「食事とか生活習慣とかを見直すのが先だと思うけど。そして僕は勉強を教えるために来ている訳で、僕が帰った後にやってくれないかな」

「一人じゃ運動できません! そこで応援していてください!」


 押入れに入っていたランニングマシンを引きずりだすと、電源を繋いでスイッチを入れて、ベルトコンベアの上で走り始める彼女。シチュエーション的には普通逆な気がするのだが、ジャージ姿で客観的にはのろのろと懸命に走っている彼女を棒読みで応援することに。ふと、昔流行ったテレビ番組を思い出す。


「三角関数の基本は?」

「はぁ……はぁ……さ、サイン……コカイン……タシュケント……ま、待ってください、私が走って私が答えるのはおかしいですよね? というかそれって高1の内容ですよね?」

「学力も体力も中学生レベルなんだよ、残念ながら。鬼教官としてスピードを上げさせて貰うね」


 マジなのかボケなのかは不明だが、三角関数すら理解していない彼女を鍛えなおすためにランニングマシンのリモコンを手に取るとスピードを上げる。悲鳴を挙げる彼女を他所に、スピードについていけずに後ろに倒れることを想定してクッションを用意しながら問題を出題し続ける。


「ゲホ、ゲホッ……1か月分くらい運動した気がします……」

「はい水分。シャワー浴びてきたら勉強始めるからね」

「ありがとうございます……ふ、ふふふ、これで500gは痩せたはず……」


 1時間後。汗だくになってソファーに倒れる彼女に冷蔵庫に入っていたスポーツドリンクを手渡すと、グビグビとそれをラッパ飲みし始める。そのまま浴室へと向かう彼女と別れ、勉強会の準備のために彼女の部屋へ。机に教科書を並べているうちに、彼女が飲んだ水分の量を思い出す。運動をしてすぐに体重を計ったところで、減るのはかいた汗の量。それよりも多くの量を飲んでしまえばどうなるかと言えば、


「ニャアアアアアアアア!?」


 こうなるわけで。どうやら今日も勉強は進まないらしい。



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