四話 魔界の国ヘカトンケイル
魔界の国「ヘカトンケイル」
複数の手を持つ巨人「ヘカトンケイル」の名がつけられたこの地は、魔界の住民が集まる中心地。
「ドラキュラ」「死者」「ドラゴン」などの住処がヘカトンケイルを囲むように点在していた。
今日この国に、魔人の少女に連れられた一人の人間が迷い込む。
「ついた、さぁ行こうルナン」
ローチはスタスタと歩き出す。
「ま、待ってよ…ここは…」
真っ黒な空。土の上で燃え浮かぶオレンジや青白い炎の光。隣を歩いていったのは、言葉を話すトカゲのような生き物。その他にも骸骨、幽霊、オークなどの魔物が練り歩いていた。
「魔物の国、ヘカトンケイルにようこそ」
ローチの澄んだ声がルナンに響き渡った。
古い木造の家にローチが入っていく。ルナンも後を追って家に入った。家の中には年老いたゴブリンが番台に座っていた。
「親父さん、1部屋空いてる?」
「あぁ…空いてるよ。代金を寄越しな」
「はい」
ローチは重そうな袋を番台に置いた。
「へぇ…分かってるじゃねぇか」
年老いたゴブリンは袋な中身を覗き込み、満足そうに小さく笑った。
「1ヶ月だ、この家好きに使いな。今いる客は適当に追っ払ってやるよ」
「ありがと、じゃ」
「ちょっと待ったー!」
ローチが頭を下げて礼をした後、2階の奥から大声が聞こえた。そのままドタドタと階段を降りてきたのは1体の骸骨だ。
「俺様の名はボンテッド!さっきの話聞かせて貰ったぜぇ!なぁブゲスの旦那!俺様とあんたの仲だろぉ?まさか俺様の事も追い出す気じゃないよなぁ!?」
「俺はブゴスだ…すまねぇなボンテッド。お前も追い出すつもりだよ」
年老いたゴブリン、名をブゴスはボンテッドの肩を持ちそう話した。
「なーんでだよぉ!?先にこの宿に泊まっていたのはこの俺様だぜぇ!?それを…なーんでこんなドチビ2匹に譲らにゃならんのだ!俺様が苦労して取った「ゴブウィスキー」の味を忘れたのかぁ!?ブダラスの旦那ぁ!」
「だから俺の名はブゴスだって。…これを見ろ」
そう言ってブゴスはローチの渡した袋から1本の酒を取り出した。
「これはゴブウィスキーか?」
「そうだ、だがボンテッド。これは100年物の上物だ。あんたが取ってきたのとは訳が違う」
「ひゃ、100年だってぇ!そんな貴重な物をこのドチビ達がぁ!?」
ボンテッドはローチとルナンを見つめてきた。
「な、なぁ頼むよぉ!俺様やっとの思いでこの宿を見つけたんだ!ここを追い出されたら骨になっちまう!骸骨だけに!骸骨だけにぃ!」
「いや」
「ガー………」
ボンテッドの願いをローチが一蹴した。ルナンがボンテッドを見ると、ボンテッドはルナンに涙を浮かべて懇願していた。
「僕はボンテッドさんがいても構いませんけど…」
「ルナン!」
ローチが初めて慌てた。
「おおおおおルナン!ありがとう!ありがとう!はい!これ決定しました!俺様はここに残ります!」
「決まったようだな」
ブゴスが小さく笑った。
ブゴスの宿屋にルナン、ローチ、ボンテッドが住む事になったのだった。