一話 天使と人間の子
…今から300年前、世界は3つに分かれていた。
…3つの世界はお互いに干渉する事は無く、それぞれがそれぞれの幸せを手にしていた。
…しかしその幸せは三世界の融合により突如、失われる。
…三世界の住人達は、自らとは違う見た目の存在に驚き、関わり、そして恐怖した。三世界の住民は互いを殺しあい、この世界から無数の命が失われた。
…それから100年が経ち、三世界の住民達は世界によって領土を分けた。西に天界の天使達が暮らし、中央に地上界の人間達が暮らす。東には魔界の住民が暮らすようになり、戦いは膠着した。
…それからまた100年が経つと、天使は人間と協力関係を結んだ。戦いは再度勢いを増し、手を組んだ天使と人間によって魔界の住民は苦戦を強いられる事となった。
…そして今。天使と人間の間に産まれた子、サンによって300年による三世界の戦いが終結する。
一話 天使と人間の子
人間の国、ドルミラン王国。
「始守国」とも呼ばれるこの国は、魔界の住民が住むこの世界の東側に最も近い位置にある。
そんなドルミラン王国の土を踏みしめる一人の少年がいた。その少年の名「サン」。
太陽と同じ意味の名を持つ少年は明日、初めての「魔物狩」を備えていた。
魔物狩とはこの世界の東側に住む、魔界から這い出た悪しき存在「魔物」を殺し、世界に平和をもたらす行為である。15歳を迎える少年や少女は、自らの親に連れられて、初めて魔物狩を行うのだ。ドルミラン王国に入り人間達は親子で行進していく。サンは呟いた。
「僕にも魔物が倒せるかな…」
「魔物は天使様の加護を受けた俺たち人間を殺せない、大丈夫だ!」
サンの父親が安心させる。
「で、でも怖いよ…」
「そんなに心配するなぁ!危なくなったらお父さんが守ってやる!」
「う、うん!」
サンの父親は最強と謳われる人間の一人だ。戦場を駆け回る荒々しい強さに憧れを抱く冒険者も多い。
「すげぇ!ドラゲンがいるぞ!」
「ほんとだ!本物だ!」
サンの父親、ドラゲンにドルミラン王国の住人達が集まってきた。
「はは、参ったなぁ…サン、先に行っててくれ!」
「うん!」
「あ、それと!…天使様からちゃんと加護を受けるんだぞー!」
「分かった!」
サンは行進から遅れないように歩き出した。
行進が止まり、「天使の加護」を受ける場所へと到着した。天使の加護とは魔物に殺されても死ぬことは無く、加護を受けた場所に戻る事ができるというものだ。この加護のおかげで人間は戦いにおいて死ぬ事がない。注意をしないといけないとすれば天使の加護は1日で無くなるという事だろう。しかし人間は2日以上は魔物と戦わずに撤収するので、基本的には人は死なずに魔物を殺すことが出来るのだ。
「次に天使の加護を受ける方、どうぞー!」
サンが呼ばれた。
「今行きます!」
巨大なベルの横に立ち、目を瞑る。サンを呼んだ人がベルを鳴らすと、サンの体に光が注がれた。
「終わりですよ!次の方どうぞー!」
「は、はい!」
慌ててベルの横から立ち退いた。
「これで加護を受けられたのかな…」
サンはいまいち実感が湧いていなかった。
自分の体をペシペシと叩き、確認してみるが特に変わった様子はない。
「何してるの?」
体を叩いていると、突然声をかけられた。サンが振り返ると自分と同じくらいの身長の少女が首を傾げていた。少女は茶色の髪の毛に、青い瞳を持っていた。
サンはいつのまにか顔を赤らめていた。
「べ、べつに!」
「あなたも今日が始めての魔物狩?」
少女はサンの様子とはお構いなしに質問をする。
「う、うん。そうだよ」
そう言うと、少女はサンの手を握った。
「ひゃあ!」
サンは驚いて変な声をあげてしまった。
「私もそうなんだ!」
「魔物って凶暴なんでしょ?昨日は眠れないくらい怖くって…」
「は、はぁ。僕も眠れなかったです」
「やっぱりそうだよね!?」
「う、うん」
それからサンと少女は、魔物狩への気持ち、親の不満を語り合った。話には花が咲き、気づけばかなりの時間が経っていた。
「おーい、サンどこだー?」
「あ、お父さんだ!僕行かなきゃ」
「そっか、じゃあここでお別れだね、あなたの名前は?」
「僕はサン!」
「私はアイリス!また話そうね!」
「うん!また話しましょう!」
サンはアイリスに別れをつげ、父親の元に戻った。
「どこ行ってたんだ?もうすぐ魔物狩だぞ」
「うん!ちょっとね」
サンが顔を赤らめるとドラゲンは不思議そうに頭を傾げた。そして何かに気づいた。
「おっと、サン!そろそろ始まるようだ!」
サンがドラゲンの指差す方向を見ると、人が門に集まり始めていた。
「これより!魔物狩を行う!天使の加護を受けたのち…討伐に迎え!」
「おおおー!!!」
いよいよ、魔物狩が始まる。