7、初めての街
「おはよユーリ。」
「おはよう。早いな。」
確かにまだ辺りは少し明るくなってきたところだ。ユーリはもう既に着替えて何か準備をしている。
「そういうユーリも早いけどね。朝から何かするの?」
「朝は剣の鍛錬だ。」
「一緒にやりたい!かっこいいし!」
「いいぞどうせ俺1人でやってるだけだからな。」
「わーい。」
王子の部屋には専用の庭があり、そこへ部屋から直接行ける。連れて行ってもらうと目隠しの為か木々が生い茂る学校の教室位のスペースの運動場だった。
「とりあえず軽くストレッチして素振りからだな。」
「はーい。」
言われた通りにする。鍛錬の為にユーリの服を借りたのでドレスよりはるかに動きやすい。
それから毎朝ユーリと一緒に剣の鍛錬を始めた。
私が転移して半年程経った時だった。
「ユーリはいつも本読んでるね。」
今日は珍しく2人きりで、ピートも執事もポールもおらず社長室で紅茶を飲みながら私もこの世界を知る為に本を読んでいた。字は日本語と全く違うが不思議と読めるのでそういう仕組みで転移してきたんだろう。ありがたい。
「そういうお前も読んでるじゃないか。」
「私は……この世界を知り尽くしいずれは全ての民を支配するのだ!ぶわはっはっはっ。」
「怖いな。」
本から顔をあげずに言う。ユーリとはだいぶ打ち解けてきてこの世界で1番仲が良いと思う。一緒に馬鹿な事もしてくれるし勉強も教えてくれる。私がユーリに気を遣わないのが楽なのかユーリも私と居る時が1番自然だ。ピートは相変わらずユーリの顔色を伺って話をしている。まだ子供なのに両親に何か言われているのだろう。なるべく失言しないようにって感じで話す。
「ツッコンデ……。」
「それよりもうすぐ6歳になる。3週間後だ。お前の誕生日は俺と同じ日になるそれが転移者の決まりだ。すまないな。せめて何か欲しいものや、して欲しい事を言ってくれできるだけ叶えるから考えていてくれ。」
「分かった。ありがとう。ユーリは何がいい?」
「俺は……。ふふ無理だきっと叶わない。」
「言うて。」
「……。街に行きたい。自由に買い物をして買い食いをして本を自分で選んで買いたい。」
「いいねそれ!私もそろそろ外に行きたいと思っててん。一緒に行ってもいい?」
「無理だよ。きっと無理だ忘れてくれ。」
「……。」
5歳の子供なのに全てを諦めた瞳で言うのが悲しくて仕方なかった。王子だからそんな事は叶わないと色んな事を諦めてきたんだろう、それ以降その願いを口にしなかった。
「ユーリ!聞いて!」
「なんだ鍛錬中に。」
そう今は早朝の鍛錬中だ。ユーリは眠そうに言う。私はあれから2週間ずっと考えていた。
「2日前からポールが居ないねん。だからお目付け役はユーリの執事ただ1人。そしてあの執事はとっても優秀で優秀過ぎて仕事が多くていつもユーリは自由だしポールのバカンス中の5日間の仕事は全部彼にのしかかっている。」
「だから?」
「抜け出すなら絶対に今日!」
「何を言ってるんだ?すぐバレるだろ。」
「良いの!バレても!3時間もあればユーリの願いは叶うし!」
「まあそうだが。」
「大丈夫お小遣いは王からもらってきたから行こ!これが街の店の地図。今から1時間後に出発するからユーリは道順考えて!」
「……。分かった。」
そして買い物に出るシェフの馬車に潜り込み城から抜け出した。
初めて見る街は活気に溢れていてどこもかしこも人だらけだ。
「ユウ手を繋いで、さあ君の行きたい所はどこだ?」
いつもよりくたびれた服を着たユーリに話しかける。一応名前も変えてユーリはユウ、私はマイク、そして男装している。
「マイクまずはあそこでフルーツジュースを飲もう。」
ずんずんと人をかき分けて歩いて行く。店のお姉さんにオススメをきいて2種類購入する。柑橘系のミックスとベリー系のミックスだ。
「私柑橘系。」
「じゃあ俺はベリーだな。」
「後で1口ちょうだい。」
「ああいいぞ。」
店の傍にある広場の噴水の近くに座った。通勤時間なのか他に座っている人は居ない。だが人の流れが早いので目立つ事も無い。
「美味しいね。」
「ああこれも美味い。」
交換してまた1口。
「うわぁこっちも美味しい。」
「ああ酸っぱいけど美味い。」
「酸っぱいの苦手?」
「ちょっとだけな。これは大丈夫だ。」
「よかった。次は何買う?」
「あそこでポテトとチーズのフライの盛り合わせを買ってその横で肉の串焼きを、あっちでホットドッグを。」
「いいね並んでないしすぐに買えるわ。」
「ああ。」
そして順調に買い物をしてまた噴水に戻ってきて座り食べ始める。今度はコーヒーを飲むお姉さんが居るが特に私達を気にする様子はない。
「ユウ先に食っていいぞ。」
「ありがとうマイク。なんだジュースまた買ったのか?」
「ああ、スイカ味とメロン味が気になって2杯買った。どっちがいい?」
「じゃあメロン。」
「どうぞ。」
ホットドッグにかぶりつくユーリの前にジュースを置く。私はポテトをつまみながらジュースを飲むまだ1時間程しか経っていない。食べ終わったら本屋へ。
「ああ本当にうるさいな。」
急にユーリがイライラした様子で耳を塞ぐ。
「ユウ大丈夫か?」
「これだけ人が居ると辛い。」
あら、少し顔色が悪い。可哀想に何とかしてあげたいが。どうしたらいいんやろ……。そういえばとひらめき、そっとユーリに触れ、そして念じる。
「今だけやめてあげて能力を使わないで。ユウは困っています。だから今だけ静かにしてあげて。」
ユーリの肩に触れて目を閉じて言う。何となく能力を擬人化させて念じる。能力が何かはわかっていないけど。
「嘘だろ……。静かになった……。信じられない。とっても楽になったありがとう。」
ユーリが顔を上げて言う。とても顔色が良くなっている。
「いいよ親友だろ。」
とユーリに言うと嬉しそうに笑いながらまた食べ始めた。
「「ご馳走様でした。」」
2人で手を合わせて言う。ゴミは全て持って帰るつもりなので全てを私のリュックに入れる。
「さあユウ次は本屋だ。」
「本当にまだここに居るのが信じられない。ありがとうマイク。」
「いいんだよ行こう。」
ユーリはたっぷりと時間を使って10冊本を選んだ。全て購入してユーリのリュックに入れた。
昼間は城の出入りが自由なので堂々と門から入り昼食前に帰る事ができた。まずユーリの部屋に戻ったが特に変化はない。
「まさかバレてないんじゃないか?」
「ああそうかもしれないな。さあ真由も着替えたら部屋に戻れ。」
「分かった。じゃあまた昼食の時に。」
「今日は本当にありがとう。楽しかった。」
ユーリのこんなに可愛い笑顔を見るのは初めてでとても嬉しかった。