37、春の訪れ
「東はないな。新顔が通ったという話は聞かない。」
「王子、でしたら次は?」
「望みは薄いが南へ行くか。南は街が多く人の出入りも盛んで隠れるにはちょうどいい。」
「ですが俺も真由も騎士コースです。地理や政治について、特に他国の事までは知らないかもしれません。」
ヒースが真剣な眼差しで話しながら考えている。
「確かに…真由は地理は苦手だったな。だが後は北と南のどちらかだ。真由は寒いのが苦手だった気がするんだが。」
「ええ、それは聞いた事があります。どうしたものか。」
「…あの……定かな話ではないのですが…いや…でも。」
ヒースが言いかけて黙ってしまう。
「今はどんな情報でも欲しい。言ってくれ。」
「はい。真由はもしかしたらノーブル教官と一緒の可能性が低いけど少しはあるんですよね?」
「ああ、手引きをしたのは完全に彼だ。一緒にいるかは確かに分からない。」
「その、ノーブル教官が前に懐かしそうに雪の話をしていたんです。授業中にチラッと聞いたんです。」
「雪?」
「ええ、山道に雪がたくさん降って立ち往生した事があると。口ぶり的に小さい頃の話っぽかったんです。」
「それは本当か…ヒースもしかしたら当たりかもしれないぞ!北へ行こう!」
「「はい!」」
俺達は東を捨て北へと進路を変えた。
「クルト様、子ども達に配るお菓子を作るんですよね?私も一緒に良いですか?」
「ええ、どうぞどうぞ。10人分の食事とお菓子を作るのは大変なので助かります。」
「では失礼します。」
執事のクルト様は優しい見た目で中身も優しく優しさの権化みたいなお人だ。どんな時でもどんな場合でもこの人が対応すれば人を傷付けるような状況には絶対にならない気がする。
「クルト様いつも馬の世話をありがとうございます。」
「いえいえ仕事ですし、それに私に様は不要です。」
にっこりと笑いながら手を止めずに話す。クルト様には10歳下の奥様がいるのだが聞いたところによると奥様が猛アタックして結婚したと聞いている。クルト様は常に落ち着いていて何事にも動じず笑顔で受け流す大人の中の大人って感じだ。そんな人を落とすとは凄い女性だ。
「クルトさん?」
「はい、どうされました?」
ジャケットを脱ぎながら手を洗い終えたクルトさんが食事を作り始めた。
「クルトさんは何でもできますよね?どこで学んだのですか?」
「何でもできるなんて恐れ多いです。殆どは両親から学び後は独学です。料理は特に本を読んだり食事をした際にレシピを聞いてみたりといった具合に恥ずかしながら食べる事が好きなので。」
「そうですか。奥様と食事に行かれたりするんですか?」
「ええ、月に1度決めた日に。」
「うわぁ素敵です!憧れます!」
「ふふっ、エマ様とハインツ様も様々な場所へお出かけされてますよ。」
「へー。素敵ですね。」
「仕事中よ!無駄口叩かず手を動かしなさい!」
「は、はひっ!」
「はい、エマ様。ふふっ。」
調理室の扉からエマ様とニコニコ顔のハインツ様が入ってきた。
「こーらエマ!ダイヤはまだ慣れてないんだから厳しくしない!」
「う、うるさいわね!」
この2人は一緒に居ると美女と野獣って感じだ。野獣っていうか山賊。
「エマも素直になれよ。ダイヤと仲良くなりたいんだろ?」
「なっ!あんた何を!バカ!」
「ハイハイ。分かりやした。」
「とにかく、もう子ども達が来るわよ!急いで仕事しなさい!」
「はい!」
ここの人達は優しい人ばかりだなぁ。エマ様とハインツ様が出て行く。何しに来たんだよ。ふふっ。何かを察したようにクルトさんが言う。
「ダイヤさんゆっくり慣れれば良いですよ。」
「ありがとうございます。」
「今日はピクニックです。山の上の草原へ行って写生をして屋敷に戻ります。今日はハンス様も一緒に来てくださるのでたくさん遊んでもらってくださいね!」
私はノリノリで言う。ハンス様は薄く微笑んでいるだけで否定も肯定もしない。笑うわあの顔。私がここに来て3ヶ月仕事や環境にも慣れて楽しくなってきた。
「はーい。じゃあ行きましょうか!しゅっぱーつ!」
「せんせーいこの花ってなあに?」
屋敷から離れ山を登り始めて20分子ども達は元気がよく走っている子もいる。子ども達の中の1人の男の子が立ち止まり話しかけてくれる。
「なんだろうね?ハンス様ー!」
ごめんなさい花の名前は分からないんです。と目配せするとハンス様が笑顔で答えてくれる。
「それはクロッカスだ。綺麗だね。」
「うん綺麗ー!ムラサキいろー!」
とハンス様に言った途端走って他の子達の方へ言ってしまう。草原はもう見えてきたので子ども達は着いている頃だろう。私はハンス様の横に並び歩く。
「もうそろそろ春だ。」
ハンス様が呟くように言う。独り言だったらどうしようと考えながら話す。
「この国は春が来るのが遅いですね。」
「ああ、あちらではもうとっくに春らしい陽気だろう…帰ってみてはどうかな?王も心配してるのではないか。」
「……私は…傷付くのが怖くて逃げたんです。」
「王子が君を傷付けるとは思えないが。」
「ええ、私が勝手に傷付くんです…。さあ行きましょう!お弁当の時間です!」
「分かった。」
「へい、兄ちゃん串焼き食べてかないかい?」
串焼きかぁー真由食べたなぁ。
「じゃあ貰おう!2本包んでくれ!」
ピートと王子は北へ入る時にクラドの街へ行く道とまた違う街へ行く道の2本分かれ道があって俺が1人でクラドへ2人はもう一方へ分かれたので、俺1人で聞き込みだ。
「あっおじさんちょっと聞きたいんだけど、この街で俺と同じ位の年でめちゃくちゃ強くて可愛い女の子知らない?」
「兄ちゃんと同い年?うーん?強い女の子ねぇ。」
「そう!例えば騎士とか?憲兵とか?護衛とか?」
「うーんさあ?分かんねーなぁ。」
おじさんは困り果てた様子で嘘の臭いはしない。
「じゃあ強い女の子ってこの街ならどこで働く?」
「うーん。憲兵隊か貴族様の家じゃねえか?」
「そっかぁーありがとうおじさん!」
「あんま役に立ってねえな。すまねえまた来てくれ!」
「うん!」
でもこの店の雰囲気もしかしたら居るかもしれないな。
「希望の匂いがする!」
俺は早足で憲兵隊の屯所へ向かった。




