34、仮面舞踏会
楽しげなそれでいて不思議な音楽がかかるなか晩餐会という名の仮面舞踏会が始まった。開会の言葉がタキシードにマントという某怪人風の姿のエリアス様からあり、すぐに開会のダンスが始まった。
皆それぞれ異様な服に身を包み不思議な仮面をつけている。参加者から参加費用をいただきそれを全て孤児院に寄付するそうだ。なので晩餐会には参加せずにお金だけを置いて帰る人も中にはいて、そんな人用に執事のクルト様がこの寒い中お菓子を用意して玄関に立っている。
やはりこちらの地域は寒さが桁違いだし長い期間続くらしく仮装とはいえ薄着の人はあまり見かけない。私のチャイナドレスも長袖でロング丈、そして生地も分厚く重い。
1人で考え事をしていると先に輪に入っていた妖精のようなドレス姿のエマ様に目配せされて私も仕方なくダンスの輪に混じる。何だか久しぶりな気がする。城では毎月舞踏会が行われていたから開会のダンス位なら目を瞑っていても人に当たらずに踊れるぞ。
「君は踊るのが上手だね。慣れている様子だ。」
突然エリアス様が話しかけてきた、ダンスの相手が変わったようだ。びっくりしたが輪を乱す訳には行かないので踊り続ける。オールバッグに白の仮面で胸に薔薇を刺しているその姿はまさに怪人だ。初めて会った時のヒョロっとした感じは全く存在しない堂々とした姿。
「旦那様にお付き合いして。」
「君はまだ18歳だ。身分証明書を燃やされる程の身分なのに読み書きもできて旦那様に付き合って踊る事もできるし食事の仕方やドレスを着慣れている身のこなしどれをとってもちゃんと教育を受けた令嬢のようだけど、君はそれを隠している。何故かな?」
すーーーーーん。どうし…。
「気の所為です。」
にっこり。もう駄目だ。これ以上は誤魔化しきれねぇ。笑ってはいるがほぼ体は震えかけている。
「エリアス、彼女の次の相手は私だ。変わってくれ。」
「に、兄さん。」
私の背後から落とされるこの吐息混じりの深い声、そして考えを鈍らせる甘い匂い。そっと優しく肩に手を置かれた。
「お嬢さん私と踊りましょう。」
と手を握りエリアス様から遠ざけてくれ、ダンスの輪の中心に入っていた。顔をあげて様子を伺う。見覚えのある騎士の制服に黒の仮面、顔は全く分からないがこの人は。
「ノーブル教官?」
「ふっここではハンスと呼ばれている。君は?」
わーお、なんてこったい。どんな偶然が起こるとこうなるんだよ!
「ダイヤです。ハンス様。」
「ふむ、では私の護衛というのは君か、それなら安心だね。それにしてもまさか君にまた会えるとは、1ヶ月ぶりだ。」
「その…他の皆様には…。」
「分かっている。だがまだ子どもの君を1人で行かせて少し後悔していたんだ。君が無事で良かった。」
と手の甲に口付けられる。この甘い匂いは他の人には分からないのだろうか?今日はとても強い。
「き、ハンス様。あの後どうなされたのですか?」
「ああ、城には全てを見透かす能力持ちがいると聞いていたから誰かが君を探しに来る前に私も学園を去ったよ。だからあの後何が起こったのか私も知らないんだ。」
ユーリの事だろう。特にポールはいつも言っていたからな。
「そうですか…。」
「だから何故逃げ出したのか、今からゆっくり聞き出す事にしよう。」
ダンスの輪から離れ屋敷の庭へ連れ出された。
「え!ちょっちょっと!」
「私の目から見た君は義理堅くちょっとした事では途中で何かを投げ出したりしない性格でとても王家、特に王子に尽くしていた。現に騎士コースでは唯一の女生徒でありながらとても信頼されていたそんな君が何故、城を捨ててしまったのか、当然の疑問だね。」
「…ただ城にいたくなかったんです。私は転移者です勝手に呼び出された、なのにユーリはいつまでも私を婚約者と認めず挙句他の女性と結婚するそうです。だったら私も自由になろうと城は窮屈なんです。」
真実を混ぜ込んだ嘘が1番バレにくい。だがこの人にそんな小手先の技が効くかどうか…。
「私は城に勤めていた。君と王子の仲の良さ、いや絆というべきかなとにかく君達の関係を知っているよ。後、私は能力なしで相手が嘘をついたか分かる。あまりみくびらないでもらいたいね。」
ひえっ。この笑顔、この笑顔は授業中も見た事がある。
「嘘じゃないです。ユーリが結婚するから私は城を出たそれだけです。」
「おや、今度は言葉を大幅に省いたね。それに婚約破棄は君から言い出したように見えたけどね。まあ良い護衛はよろしく頼むよ。」
余裕たっぷりの笑みで言う。多分、全てに気が付いてて私に聞いたな。
「ハンス様でしたら護衛は要らないのでは?」
何だか悔しくて軽口を叩くとぐっと抱き寄せられて耳元で囁かれる。
「そうだねでも君は私が必要なのでは?」
体を離しぐっと睨むが言い返せない。
「兄さん!彼女を離してください!」
エリアス様がわざわざ外まで追いかけてくれたようで私を心配そうに見る。ハンス様が掴んだままの腕を離した。
「兄さんの能力は……です……だから……。」
小声でハンス様に話すエリアス様はどこか焦りが見える。ハンス様は仮面を外していたずらっぽく笑う。
「おやエリアス、君は彼女の能力を知らないのかな?」
ハンス様がわざとらしく私とエリアス様を交互に見て言う。
「彼女は能力なしだと聞いている。」
疑うような目付きでエリアス様が私をじっと見る。
「ほう、ではそういう事にしておこう。行こうかダイヤ少し街も見回りたい。」
「はっ!」
私は慌ててハンス様を追う。エリアス様は晩餐会の途中なので流石に外まで追いかけては来なかった。
「ユーリ気持ちは分かるよ!本当に!だけど真由を探しに旅に出る事は今すぐには許す事はできない。」
「ふむ、あなたの所為で真由は出て行ったのに?」
「ごめん!でも理由は幾つかある。まず真由の能力が誰の能力も効かないのなら能力による発見は見込めない。よってすぐに真由を見つける事はほぼ不可能だ。長い旅になる。長い旅になったとして子どもの君に何が出来る?」
「でも!それは!」
「それに君は王子だ。ただ1人の後継者なんだよ。自分で身を守る事さえできないでしょ。厳しい事を言うのは本当に心苦しいけど考えてほしい。」
「王はまだ分かっていないようですね。」
「何を?」
「私はあなたに何と言われても言う事を聞くつもりはありません。真由が居ない人生なんて意味が無いんです。生きていても仕方ない。分かります?この言葉の意味。」
「それは脅しかな?」
「そう捉えてもらって構いません。」
「私は本当にとんでもない事をしてしまったようだ。」
「ええ。どうしますか?」
「それならもっと早く言ってくれたら良かったのに!」
「それは後の祭りというものです。」
「うわぁーん。どうしよーう。」
と俺の背後の扉からノック音が聞こえる。
「失礼致します。ピートです。お呼びでしょうか?」
「ピート?」
「私が呼んだの。ユーリは絶対に譲らないと思って。」
「どういう意味ですか?」
「ピート、騎士コースで一緒に行ってくれる人見つかった?」
「はい、ヒースは優秀です。」
「ああ、あの子ね。じゃあ報酬は払うから一緒に行ってってお願いしといて。学園長には休学届を出すから。」
「はっ。」
「という事だからユーリ、ちゃんと真由を見つけて来てね。」
「はい!」
「ピートよろしく頼む!」
「はっ。」
そうして真由が居なくなって1週間後、俺とピートとヒースで真由探しの旅が始まった。王が真由は割と安定思考だからきっと一所に留まり仕事を見つけていると思う、という言葉を頼りにだったら言葉が通じる近場の国で真由が働くとしたらやはりガード関係の仕事ではないかと話し合い見当をつけた。
「西は国境に関所がある、関所の役人は馬に乗った女性は見ていないらしい。だから西ではないな。」
ヒースが言う。彼は一足先に関所まで行ってくれたようだ。西はないだったら後は、東、南、北の方面か。
「王子、如何なさいますか?」
「うん、とにかくポールが言うには真由の痕跡は東に向かう方面で消えたらしいから。東へ。」
「はっ。」




