30、誕生日の日に
「真由、今日言う。誕生日会が終わったら王に。」
「うん、一緒に行くよ。」
「ああ。」
私達は支度を終えてユーリの部屋で誕生日会が始まる夕方まで待機していた。誕生日会はいつもならお客様をお出迎えし、お礼を言って挨拶をするのが通例だけど今年は始まるまで2人で待機呼びに行くからと言われたのでゆったりとした時間を過ごしている。ユーリと相談して一応指輪は外して部屋に置いてきた。
「それにしても何故?待機?」
「さあ?だが昨日、執事の心の声を聞いたら王から話があるらしい。俺達を呼ぶ前に王から参加者に話があってその後、俺達が呼ばれるそうだ。」
「ふーん。」
「そんな事より真由そのドレス似合ってるな。綺麗だ。」
ユーリが私の頬を撫でながら言う。言われ慣れてないので顔が熱くなる。
「照れるからやめて。」
「照れる姿もいいが、昨日のお前は今まで見た事がない程美しかったな。」
「思い出さないで恥ずかしいから!」
「それは無理だ、一生忘れない。絶対に忘れない。」
と優しく口付けられる。
「本当に恥ずかしい。」
その時ノックの音と共にポールが入ってきたので慌てて離れる。名残惜しいが仕方ない。
「さあ始まりますよ!」
「お前、真由に似てきたな。」
「へえっ!嫌です!こんな女!」
「おい!シバくぞ!」
「コホン、まあとにかく行きましょう。お2人さん。」
と誤魔化すポールの後ろをついて歩く。てっきりボールルームに入ると思ったらボールルームの隣の大きなダイニングに入った。中には王と王妃、騎士団長、副騎士団長、教皇、ピートの父の刑事事件担当裁判長、民事事件担当裁判長、宰相そして王の親友の貿易商のロップ様と王妃の親友の小説家のハート夫人そして周りにポールとユーリの執事が立っている。
いつもよりだいぶ少ないぞ。私達の学友はいないし。
「来たね!今日の主役達が!おめでとう!」
王の一声でそれぞれがお祝いの言葉をくれる。私とユーリは1人ずつお礼を言う。そして座るように促されたので座ると王が話し始めた。
「他にもお客様は居るんだけどとりあえずここにいる人達だけに大事な話があってね。まあそのーなんだねうん。」
少しの沈黙、全員が真面目な顔で王を見る。
「ユーリの結婚相手を見つけて来ましたよー!めちゃくちゃ可愛い子でめちゃくちゃ遠い国のお姫様なんだ!」
えっ。私とユーリは絶句している。な、何?
「おめでとう!」
「良かったね!」
「これでこの国も安泰じゃ。」
「そうね遠い国のお姫様って噂だけ聞いたけど綺麗で気立てがいいって!」
「国同士の結婚は国を強くしますからな!」
ここにいる大人達は皆嬉しそうに話し始めた。ユーリが叫ぶ。
「そんな!私は聞いてません!」
「だってユーリがいつまでも真由を婚約者として認めないから…ねえ?ごめんね真由、君にもすぐに相手をみつけるからね!」
王がじろりとユーリを睨んだ後、優しく私を見た。確かにユーリと心を伝えあったのは最近の事で王には勿論、誰にも言ってない。
「それは!」
とユーリの言葉を遮って王が話し始めた。
「まあとにかく皆と合流しよう!皆お待ちかねだよ!」
とボールルームに面する扉が開きユーリは王に連れられて挨拶まわりが始まった。私は王妃に連れられてケーキの前に。何も考えられないけど王妃は本当に本当にいい人だから心配させたくなくてケーキを食べた。味がしない砂を食べているような感覚。とにかく笑ってケーキを食べて挨拶をした。何も考えられない、何も頭に入ってこない、1時間程経っただろうか、少し人が増えてきたのを見計らってお客に紛れて私はボールルームから逃げ出した。
この世界に来た事を初めて後悔しながら、走って走り続けて私はいつの間にか学園に来ていた。分かっている、城で育った私には他に行くあてなんてなかった。騎士コースの運動場で座り込んでしまう。
「はあ、はあ。ふ、ふう…うぅぅ。」
呼吸が整うとすぐに涙が溢れてきた。確かに国が結婚で繋がったら国益になる。しかも綺麗で気立てがいいって言うし、私が消えればいい。悲劇のヒロインを気取る訳では無い。王の事が好きだし王妃も大好きだし、何よりユーリを心から愛している。だからユーリの為に私が消えよう。そうすれば全てが上手く行くはず。
というのは建前できっと私はユーリが誰かと結婚する姿なんて見られない。そんな事あの幸せを味わった後では耐えられない。だから逃げるのだ、これ以上傷付く前に逃げ出す。ユーリを1人にするのが心苦しいが今回は自分を大切にしよう。
「誰だ!そこで何をしている!」
と鋭い声が聞こえて振り向くとそこに居たのはノーブル教官だった。
「ん?真由か?どうした今日は誕生日会の筈では?」
と優しい声に戻り、泣いている事には触れずハンカチを差し出してくれる。ハンカチを受け取るとあの甘い匂いがした。クラクラするような香り。
「あの、その、私、いや、でも、ちがくて、すみ、すみません。」
泣き過ぎて過呼吸になっているのか上手く話せない。教官が優しく背中をさすってくれる。
「とにかく落ち着きなさい。仕方ない教官室で休んでいきなさい。」
もう辺りは暗くなっていて教官が手を貸してくれて立ち上がる。私は涙を止められず泣き続けて教官の手だけを頼りに歩き続けた。
「さあここに座りなさい。」
と教官室のソファに私が座るまで支えてくれた。
「紅茶をいれるから飲んだら帰りなさい。」
「あ、あり、ありがとうございます。」
私はまだ涙を止められない。ゆっくりと深呼吸をして息を吸い吐く事だけに集中する。少しずつ落ち着きノーブル教官がいれてくれた紅茶を飲むと冷静に現状をかえりみる事ができた。
「落ち着いたようだね。さあもう…。」
私は教官の言葉を遮って叫ぶ。。
「私、もう城にはいられないんです!出て行かなければならないんです!どうか手を貸していただけませんか?」
「どういう事だ?何かあったのか?」
怪訝そうな顔で言う。確かに怪しいだろうが理由は言えない。
「いえ、その、でもとにかく城を出なければならないんです!どうかお願いします!教官!お願いします!」
と深く深く頭を下げた。ノーブル教官がふっと息を漏らす。
「城のポールを知っているかな?」
「はい。私の教育係です。」
「そうか彼の能力はねトレース、人を追う事が出来るんだよ。」
「追う。」
「ああ、彼はね匂いで追うんだ。人を追い続ける。ただ匂いの元と匂いが違うと分からなくなってしまって匂いも時間が経つと消えていくから追う事が出来なくなる。言っている意味が分かるかな?」
「はい。」
「ここで着替えて着ていた服はそこの暖炉で燃やしなさいついでに香水も。私は何も知らない、ここに服と香水を置き忘れただけだ。馬は運動場のいつもの場所に繋いである。」
「分かりました、ありがとうございます。」
「ああ、そうだ。君を助けた対価として君の能力が何か教えてもらっていいかな?」
「…私の能力は、能力が効かないんです。誰の能力も効かなかった。」
「そうかだから私の能力も。それでは気を付けて。」
「はい、ありがとうございます。」
ノーブル教官が部屋から出た後、服を脱ぎ暖炉に放り込み裸のまま香水を自分にふり服に着替えた。ノーブル教官の物かと思っていたら服も香水も女性物だった。何故、女性物の服や香水を持っていたのかは考えない事にして急いで教官室から出て馬に乗った。
「行き先は…寒い土地に行こう。とにかく国を出て寒い土地に。」
私は北へ北へと馬を走らせた。1日中眠りもせず、飲まず食わずで走り続けて国を出た。




