27、お呼び出し
真由様、放課後に3B教室まで来てください。
消して他言せずに1人でという約束でお願い申し上げます。
「ふむふむ。」
朝、私のロッカーに入っていた。やけにファンシーなお手紙。怪し過ぎない?
多分女の子、騎士コースに女の子はいないし私の友達は女の子は残念ながらユーリの件で離れていってしまったし。3B教室は刺繍クラブの子達が使用する教室でクラブ内には女子しかいないはず。隣の編み物クラブは男子が2人いるらしいけど。
「なんかあったのか?難しい顔をして。」
昼食の時ユーリが心配そうに聞いてくれる。言うべきか言わないべきか。他言せずって書いてあるし…いや見せたらダメとは書いてなかったぞ。一休さん並のとんちを閃きユーリに手紙を見せた。というのもユーリは私の心の声が聞こえないのでとても疑う時があるのだ。
「これ。なんだ?告白か?にしては場所が特殊か。」
「うん。とにかく1人で行ってくる。」
「えっ!大丈夫なのか?」
目を見開いて叫ぶユーリが珍しく笑ってしまう。
「あはははは。大丈夫でしょ。」
「おい。真剣に言ってるんだ。自分を大切にしろよ。」
「んー。分かったでも1人で行く。」
「頑固だな。一緒に行こうか?」
「分かってるでしょ?これを見せたのは隠し事をしたくないから、一緒に来て欲しい訳じゃない。」
「…お前は本当に…馬鹿だな。もっと俺を頼れ。」
「じゃあ待ってて。一緒に帰ろう。そうやなぁカフェかなんかで待っててよ!」
「分かった。」
「うんお願い。」
「ああ約束だ。」
「真由様、私にユーリ様を返してください!」
「返して!幸せだったのに!」
「そうよ隣にいられるだけで幸せだった!」
「………ユーリ様。」
「そうよ、私に愛を囁いてくれたわ。」
おうふ、5人いるとは思わなかったでござる。ユーリめ!それによく見ると女の子の後ろには数人の屈強な男もいやがる。
「それなのにいきなりもう一緒にはいられないって!」
「私はもう忘れてくれって!」
「私はもう好きじゃないからって!」
「……さようならと。」
「私はユーリ様を忘れられない。」
「そうですか。」
「何その態度?」
「そうよ元婚約者のくせに!」
「いつまでもそばをちょろちょろと!」
「……目障り。」
「ユーリ様を愛してたのに。」
めちゃくちゃや。どうしようもない。
5人の中には髪の短い女の子と髪の長い女の子もいる。先頭を切って話しているのは髪の短い女の子だ。ユーリといる時は朗らかに笑っていたのに、目の前にいる女の子は泣き続けたのか目が腫れて赤く充血し怒りに震えながら怒鳴っている。
「だから真由様にはきえてもらいます。」
「…憎い。」
「そうよ!傷を負えばいい!」
「………。」
「悲しい、もう声も届かない。」
「やって!」
髪の短い女の子が叫ぶと同時に屈強な男が一斉にかかってきた。どうやら法律・政治コースの上級生のようだ。剣は使わずに1人1人相手をしてやろう。
うぐっ。という男の声が聞こえ次は怒鳴りちらしながら駆け寄ってくる足音、そして男の呻き声、その後小さな男の悲鳴とドサリと倒れる音。
私は君達が勉強してる間、遊んでいるわけではないんだぞ。
「私がいなくなったからってユーリが手に入る訳じゃないんだぞ。」
「そ、そんな。3人がかりでも駄目なんて。」
「うるさい!だったら私達の能力で。」
「くっ。」
「……。」
「悲しい。」
5人が思い思いに構え始める。私も身構える、能力か、何が来るのか検討もつかない。
その時ヒュンと音がしてナイフが飛んできたので咄嗟にかわす怖い!髪の長い女の子だ。避けた場所で植物が私の手足を掴もうとしたが私に触れる前に消滅してしまった。その瞬間水と炎がこちらに向かってきたがまたしても目の前で消えてしまった。ユーリの言葉は正しかったようだ。私は能力の影響を受けない。
「な、何が起こったの?」
「えっ。」
「どうして?」
「……?」
「何故?」
「私の能力は他の能力の影響を受けないというものなんです。」
「「そんな。」」
「もし私を傷つけたいなら能力は使わずにかかって来ないと無理なんです。昔、ユーリを狙う刺客に殺されかけた傷は残っています。」
とお腹の傷を見せた。
「まあ酷い。」
「大きな傷。」
「それでユーリ様を縛ってるのね!」
「……可哀想。」
「同情はしない。」
「ええ別にそういう意味で見せたわけではないのです。ただ私の事を知って欲しかったんです。後、ユーリはこの傷を見た事はありません。刺されたのは知ってますが傷が残っているのは知りません。」
私はこの子達の気持ちも分かるし、急に捨てられて気持ちを踏み躙られるそんな感情も知ってる。だからこそ真摯な対応を心がけたいと思う。
「ま…真由様はユーリ様を愛しておられるのですか?」
髪の短い女の子が泣きながら私に聞く。これは…真剣に。
「あ、愛してます。昔から。」
「分かりました。じゃあもういいです。」
「えっ。」
「いいの?」
「……。」
「忘れなくちゃいけないの?」
「帰りましょう。私達はもう忘れるんです。」
「忘れる…。」
「ユーリ様を。」
「……うっぅぅぅ…。」
「悲しい。」
「ではさようなら。真由様。」
「はい、お気を付けて。」
と5人の女の子達が泣きながら教室を出て行く。私も帰ろう3人の男達は放っておこう。
「真由!無事だったか?今彼女達が横を通り過ぎて行ったから。」
結局、ユーリは教室の外の廊下の端っこで待っていてくれたようで、教室から出た途端すぐに走ってきてくれた。
「うん、なんともない。何となく何があったか分かると思うけど私は気にしてないからユーリも忘れてあげて。」
「でも。」
「お願い。お願いだから忘れて。」
「……分かった。」
「うん。ありがとう。」




