21、ピートとヒース
「ピート!」
運動場に戻る途中マリスが声をかけてきた。
「やあマリスまだ帰っていなかったのか?」
「あっうん、一言君にお礼を言いたくて。」
「僕?今を狙うという事は僕だけに?」
「あっその君だけに。僕の為に課題を手伝ってくれてありがとう。よかったらこれから家に来ない?」
「ありがとうでも遠慮しておくよ。真由とヒースと約束してるから。」
「あ、あの2人かい。君には釣り合わないんじゃないかな?真由はもう王子の婚約者では無いただの下女だしヒースは下位の貴族だ。その点、僕達は同位の貴族だし。」
「一言いいかな、僕は君の事を好ましいと思った事は一度もない。その考え方もあるが何よりも君が騎士コースを選んだ理由が気に入らない。」
「えっ急にどうしたの?なんで?」
「知ってるんだよ君の兄さん、法律・政治コースなんだって?しかもその年の首席だった。比べられるのが嫌で同じコースじゃなくて騎士コースを選んだんだろう。その考え本当に気に入らない。これからは授業以外では話しかけないでほしい。では失礼する。」
僕はマリスを廊下に残し運動場へ急いだ。
「ピート!帰ってきた!」
「うるせえな。さあ何か食いに行くか。」
「待たせたねじゃあ行こうか。」
ピートが笑顔で戻ってきて言う。私達は肩を並べて街にくりだした。ピートと出かけてから街に行くのが珍しい事ではなくなっていた。
「やっぱりクレープはエビアボカドだね!」
「いいやチョコバナナだ。」
「はあー?ないわ。おかず系のクレープが最高に決まってるでしょ!」
「いやない。クレープだぞスイーツだよ。」
「まあまあどっちも美味しいから、大きい声を出さない。僕はあそこでジュース買って来るから。」
「私はメロン!」
「俺はミックス!」
「はいはい、仲良くね。」
ピートはジュースの屋台に行ってしまった。私とヒースは噴水の前に座りクレープを食べ始める。美味しい。
ヒースがチョコバナナのクレープを食べながら私を肘で小突く。
「おい!ヒース!」
私がやり返すとヒースが一瞬ニヤリと笑いハンカチで口を拭った。
「真由そんなにエビアボカド美味いのか?」
「えっうん。」
「そうかそうか。じゃあ。」
と私の手を掴み私のクレープを大きな口で一口食べもぐもぐと満足そうに口を動かしている。エビが入っている美味しい部分をとられた。
「確かに美味いがやっぱりチョコだな。」
「1番美味しい所を!あんた!」
「だってお前がそんなに言うから、気になってさ。」
「しばいたろか!」
私はわなわなと震えながらヒースのクレープを奪い取って食べ始める。ヒースはあっけにとられて目を丸くしている。
「チョコも美味しいけどやっぱりおかず系がいいね。」
「お前、全部はないだろ。」
「私のクレープ美味しい所を全部食べたでしょ馬鹿が。」
「お前なぁ。まあいいか食っていいぞ。」
「ヒース優しいー素敵ーかっこいいー好きー。」
「はいはい、黙って食えよ。」
と私の口をハンカチで拭ってくれる。こいつほんまに優しいな。めちゃくちゃいい男やん顔怖いけど。だからか呼び込みも全くされなかったし。
「はい買って来たよ…って。それ真由が食べてるのヒースのクレープ?」
「うん。ヒースが私のクレープを食べちゃったから仕返し。」
「食べちゃったって一口だけだろ。いい加減にしろ。」
「真由のをヒースが食べたの?」
「えっうん。そうだけど。」
「それって間接キス…。」
ピートが小声で何か言ったが私とヒースの耳には届かなかった。私は黙り込んでいるピートの手からジュースを受け取る。
「とにかくジュースありがとうピート。」
「えっああうんどうぞ。」
「ありがとう。」
「ヒースにもどうぞ。」
「あ、ああ。ありがとう。」
ヒースが急に動揺している。どうしたんだろう?ピートはいつもよりニコニコとしているし、なんだ?
「お、俺もう少し何か食べようかな。ホットドッグ買ってくるわ。」
「私も。」
「じゃあ僕も。」
「ああ3つ買って来るから。」
ヒースはオドオドとしながらホットドッグの屋台の方へ歩いて行く。ホットドッグの屋台は路地にあるのでヒースの姿はすぐに見えなくなってしまった。
ピートがヒースが立ち去った私の隣にピタリと座った。なんだ、なんなんだ。
「ヒースとそんなに仲良かったっけ?」
「ううん?今日仲良くなったね。うん。」
「僕言ったよね真由が好きだって。」
「うんありがとう。」
「僕だって嫉妬するよ。王子ならまだしも他の男と仲良くするなんて、イライラする。」
笑顔で言っているがなんというか不穏な空気が漂っている。でもかーわいい。
「ピートってほんまに…面白いなぁ。どうやったら機嫌がなおるの?」
ピートは少し考えてにこやかに言う。
「…それでは姫、少しの間、貴方に触れる事をお許しいただけますか?」
「ぶはっ姫って…コホン…ええ許しましょう。」
と言うとピートが私の手をそっと握りそのまま自分の頬に大事そうに擦り寄せる。そしてまた大事そうに私の手を自分の足の上に置き今度は私の髪を梳くようにして髪に触れる恭しく感触を楽しむように、そしてそのまま耳にかけてピアスを見て微笑む、未だにピートとお揃いのピアスだ。
「もうそろそろ良くない?ねえ?」
「まだ5分も経っていませんよ。姫様もう少しだけ。」
そのまま頬にそっと触れられる。右手を左の頬に添えて親指でなぞっていく。頬や眉毛、唇にそっと触れられるとなんともいたたまれない。
「公衆の面前で何やってんだ?」
ピートの手がそっと離れる。ヒースの顔を見ると残念そうにため息をつき私にウィンクして、
「続きはまた今度、姫。」
と言うのでヒースはますます怪訝そうな顔をして私を見た。私はヒースを見ながら横に首を振り、
「私に聞かないで。」
と言った。ヒースはうんざりした様子でホットドッグを渡してくれる。
「お金渡すね。」
と言うとヒースが首を振り、
「いいよ。今日は俺の奢り。」
「やりぃあざーす。」
私は言うやいなやかぶりついた。ヒースはピートに、
「なんでこんな女がいいんだ?」
と馬鹿にしたように言いピートは気にするでもなく、
「僕だけが知ってればそれでいいんだよ。」
と恥ずかしげもなく答えた。こっちが恥ずかしい。
「さっじゃあ帰ろうか。」
「ああ、明日もあるしな。」
「明日はなんだっけ?」
「明日は2ヶ月後の文化活動発表会の係決めだよ。」
「へーそうなんや!専門学コース?」
「うん、それと部活動だね。」
「へー。」
まあ私には関係ないか……。




