18、素直
あれからユーリと女の子の姿をよく見かけるようになった。短い髪の女の子だったり、髪が長い子、少し制服を着崩している子、様々な女の子達が入れ代わり立ち代わりユーリそばに居るようだ。良かった1人じゃなくてという安堵の気持ちと同時に私の居場所ではないんだと少し悲しい気持ちになった。
「私はもう婚約者じゃないし隣にいる権利もない。」
城の自室で独り言ちる。騎士コースで良かったと思う。ユーリのそばに居るとおかしくなるところだった。ユーリと女の子を見ていると私…この感情は…。
私の中に現れたこの感情、こんなものが今になって分かった事に苦笑する。私はもしかしたら少しムキになっていたのかもしれない、いつまでたってもユーリに婚約者だと認められない事に。だからそれならいっそ婚約者を辞めようと、そしたらユーリが私の事を必要としてくれるかもって、本当に馬鹿だった。いつまでたっても素直になれず、自分の気持ちを伝えられない、彼の言う通りだ。私はもっと素直にユーリに言えば良かったのかもしれないな認めて欲しいと。
「いや無理だな。私はきっといつまで経っても素直になれない。だからいつも気付くのが遅い。」
私、いつの間にかユーリが好きになっていたんだ。大切には思っていたけど横に違う女の子が居るのを見てやっと気が付いた。
「よし!次だ!次に行こう!せっかく若返ったんだしまだ時間はある!よっしゃー!」
忘れるぞ!寝よ!
「よし寝るぞ!寝る寝る!」
そして私は眠りについた。
「学校はいいね。勉強は楽しいし、騎士の鍛錬も楽しい。」
色んな事を忘れられる。実際勉強は楽しい。大人になって嫌という程勉強すれば良かったと思っていたので勉強しなおせるなんて最高だ。
放課後、ピートと2人で教官に頼まれた仕事を終わらせて帰るところだ。
「真由は本当に面白いね。僕も好きだよ。城は割と暇だったもんね。自由がないから外にも行けなかったし。」
「ああー外かぁ。そういえばピートとは一緒に行かなかったね。」
「えっ?外に行ってたの?」
やべっ。
「えっあぁ、いやぁあのぉ。うーん、さあ?」
「嘘つくの下手すぎじゃない。」
ピートは笑いながら言う。私は少し恥ずかしくなって下を向く。ピートが近付いて来てしゃがみ私の顔を覗き込んだ。
「顔が赤いよ。可愛いね。」
「もうやめて。」
「んーどうしようかな?そうやって僕を除け者にしてたなんて寂しいなぁ。しくしく。」
「分かった!行くから!」
「やった!外で王子と何したの?」
うっユーリと一緒だったのもバレてる。仕方ない全て話すか。
「えっじゃあ何度も外で食べてたの!毒味なしで!しかも2人きりで!何それなんで僕は?えーずるい!」
珍しくピートが子供みたいにわがままを言い出した。可愛い。髪が揺れて赤いピアスがちらっと見える。青い髪が日に照らされて透けるような青になっている。ピートは眉を下げて少し不機嫌そうにでも優しく言う。
「ふふふ、ごめんねピート。いつにする?」
「すぐに行こう!すぐに!」
「えっすぐは無理かな?男装しないとあかんし。」
「大丈夫騎士の制服だから、このまま帽子に髪を入れ込んでしまえばいいよ!」
「帽子って、これに無理じゃない?」
騎士の帽子は学生帽って感じだし。
「行こうよ!大丈夫だから!」
珍しいなピートのこのテンション。
「分かった髪を束ねて帽子を深く被るわ。」
「やったぁ。行こう!」
ピートが私の手を引いて早足に歩き始める。
「さあ行こう!」
「うわぁ久しぶり!1年ぶりかも!いつも誕生日前に来てたから。」
「そうなんだ、まずは何食べるの?」
「ええっとーホットドッグかな。そこでフルーツジュースも買うよ。それからあそこのクレープも。」
「ほーいいね。じゃあジュース買いに行こ!」
ピートってこんな性格だっけ?なんかめちゃくちゃはしゃいでるの可愛いな。こんな事なら早く連れて来てあげれば良かった。
「うわぁ楽しいなぁ。自分で選んで自分で買って食べるなんて最高だよ。」
「ねーいいでしょ。ピートあっちの肉の串美味しいよ。」
「行こう。食べたい。」
ピートは目をキラキラさせて私の手を引っ張る。ここは変わらないなぁ、いつ来てもワクワクさせてくれる。肉の串の店の前に噴水があるので私はそこ座りピートは買いに並んでいる。
「信じられない。これだけは2人の秘密だって思っていたのに。」
急に腕を掴まれて立たされたのでびっくりして犯人をみるとユーリだった。どうしてここに。
「真由、街に行くのは俺とお前だけの秘密だったじゃないか…どうして…。」
「ユーリ私は…。」
「ユーリ様!待ってください!」
謝ろうとした時ユーリの後ろからあの短い髪の可愛らしい女の子が出てきた。なんだそっちもちゃんと秘密じゃなくなってるんじゃない。
「えっとユーリも秘密にしてないじゃない。私だけを責めるのはやめてほしいな。じゃあ行くね。」
「えっ違うこれは…。」
「待ってユーリ様!」
「真由。待ってくれ。」
私はユーリの言葉を聞かず歩き始めた。ちょうど買い終えたピートと合流できた。
「どうしたの真由?」
「ううんなんでもない!さああっちで食べよ。」
少し離れた公園で食べ始めた。さっきまで楽しかったのに今はもう肉の味さえ分からない。
「ねえ真由、僕は絶対に傷付けない。真由から離れないしずっとそばに居て真由を守るから、だから今じゃなくていいから僕を選んでほしい。」
いつの間にか隣に座っていたピートが私の手を握って言う。とても真面目な話をしているのに口の端にタレをつけているのがおかしくて笑ってしまう。
「ピート、ふふふっ。タレがついてる。」
と頬に手を添え親指でタレを拭ってやる。ピートは少し頬を赤らめて私の手の上に自分の手を乗せて頬を寄せる。
「ピートは素直だなぁ。」
「そうだよ。真由に対してだけだよ。」
「可愛いなぁ。」
「可愛いも良いけど好きになって。」
「素直だなぁ。」
「ふふふっ、さあ帰ろうか。」
「帰ろう。明日も学校だからね。」
ピートがそっと手を握ってきたのでそのまま城まで帰った。ピートと居るといつも穏やかな気持ちなって安心するなぁ。
「俺が…あそこは俺の居場所だったのに。」




