12、能力とユーリ
後少しで9歳になるのに能力を自由自在にできなくてユーリは最近イラついていた。表面上は変わりなくても鍛錬中に焦っている姿が頻繁に見られるようになった。
「ユーリそろそろ街に行かない?」
「そうかもうそんな時期か。」
あまり行きたくないのか少し気持ちが入っていない声で言う。最近ユーリの事が分かるようになってきた。
「ユーリが行きたくないなら1人で行くけど。」
純粋に乗り気ではないならと思い意地悪しようと言った訳では無かったのだが通じなかったのか少し怒って言う。
「行かないとは言ってないだろ!」
確かに言い方が悪かったので素直に謝る。
「ごめん。じゃあいつも通り馬車に紛れて。」
「……ああ。」
一応準備を始めたがユーリは心ここに在らずという感じだった。
「さあ手を繋いで。ユウどこに行く?」
「まずはジュースだな。それから最近できたらしいクレープを食べて次はあの店に行こう。」
「分かった。」
ユーリは街に来るとやはり楽しいのか、早足で歩き始める。
「はー食った食った。じゃあ次は本屋へ行こう。」
買い食いを終えてユーリは完全にいつも通りになった。やっぱり街に来て良かったと思う。
本屋へ行く迄の道中に可愛いアクセサリーショップを見付けたが今日は男装中だし、ユーリの願いを叶える日だから何も言わなかった。
「真由、今日は本当にありがとうな。」
ユーリがいつもの優しい笑顔で言う。良かった楽しんでくれて。
「うん私も楽しかった。あまり無理せずにゆっくりやって行こう。」
「そうだな。ありがとう。」
「最近、真由は自分のやりたい事を言わなくなったね。」
ユーリが王と謁見中なので珍しくピートと2人きりだ。
「そう?パフェは毎日食べてるけど?」
「うーんだって昔は僕と王子を色んな事に誘ってくれたのに。庭でピクニックとか城全部を使ったかくれんぼとか遊ばなくなったでしょ?」
「皆、忙しいから。もう10歳だしね。」
「ふーん……僕、2人は秘密なんてないって思ってたけど真由は最近ずっと黙ってるよね。王子に気を遣い始めたでしょう本当にそれでいいの?」
「いいの。」
「ふーんそう。僕みたいになったらダメだよ。」
「ピートは良い奴だからなりたいわ。」
「なあ真由あいつまた俺を…無理やり…気持ち悪い想像するんだよ。」
ユーリが吐き気を抑えながら私に縋るように言う。午前中王家だけでという理由で、私は同席を許されなかった会食にて色々見てきたらしいユーリが会食を終えたその足で私の部屋に飛び込んできた。
「うん。うん。」
「本当に…あいつ…。それに王に金を渡して言う事を聞かせようって。」
私も同じように座り込むとギュッと抱きしめられた。力強いが微かに震えている。成長してきてしっかりと人の考えている事の意味等が分かるようになって昔よりも気分が悪くなる事が多くなった。
「お前は静かで安心する。温かい。お前はずっと傍にいてくれよ。」
「うん。」
「早くこの能力を自由自在に使えるようにしないと。」
「うん頑張ろ、少しの時間なら聞こえなくなるようになったやん!後もうちょっとやって!」
「もう11歳だぞ!あれから何年経っても全然できないんだ。真由が封印してくれた時だけだよ完全に能力が眠るのは!だから助けてくれ頼む!」
かといって私にはもうどうする事もできずただユーリを抱きしめるしかなかった。
「うん、うん。」
12歳になってユーリはまたあまり笑わなくなってしまった。能力が強くなったのか心の深い場所まで見えると辛そうに言う。
「ねえユーリ。」
「なんだ真由。」
ユーリの部屋でいつものようにパフェを食べているとそうだと思い付いた。
「ねえ心が見えるんでしょ深いとこまで?」
「ああ。」
「ユーリはその優しい心で許してあげれば?」
「許す?どう言う事だ?」
「彼等の考えている事は所詮、空想にすぎない。何を考えていたって本当に行動に移す可能性は限りなく低い。だから何を見せられ聞かされても許す。目の前の人間が自分を殺す空想をしてても、王になる夢を抱いてても、そいつ等に心を許す事はないけど、その空想をめぐらせる事は許すの。」
「許す…。」
「うん、そう。空想って絶対にこうはならないからせめて自分の頭の中だけでもって思ってる事が多いと思うの。だから全てを許す。きしょいけど許す、腹立つけど許す。」
「許す。わかった。」
「うん。」
私の言った事を実践してくれたのかまた少しユーリに笑顔が戻った。全てを許す事は大変だけどユーリならきっとできるだろう。




