1、悪夢と気分転換
「頼りがいがないっていつも俺に言うけどさ、じゃあ逆に一度でも素直に頼ってくれた事あるか?お前さ体調が悪い時デートをドタキャンして謝りの連絡をいれてくるだけで後から言うだろ。辛かったとかしんどかったって。仕事でも大変な時、会うのやめようっていう連絡だけしてきてさ。その時にしんどいって言ってくれたらよかったじゃないか。気付けとか聞いてほしいとかそんなの俺が分かるわけないだろ。」
「それは……。」
昔、あなたが泣き言を言う女は嫌いって……。
「別にお前みたいな強い女…と思ってるわけじゃない。ただ素直に弱さを見せられない上にそれを俺のせいにする女はごめんだって言ってるだけだ。」
「ごめん。」
「はあ。頼りになる男になってほしいって言う前にお前が俺に頼る努力をしろよ。俺に全てを求めないでくれ、助け合って生きていく気がないならお前とは一緒にいられない。じゃあな。」
「ま、待って!待って……。ハアハアまたこの夢。」
時計は6時をさしていた。まだ起きるには早い。今日は1ヶ月前にあんな別れ方をした彼の結婚式の日だ。
「結局私と別れたかったって事やね。」
今日は土曜日で仕事は休みだしデートの約束も全てぱあになったし。
「はあ28にもなって悪夢とか……。ないわ。」
最近、何事も上手くいかない。恋愛も仕事も人間関係もとどのつまり良い方向に発展しない。
「なんか疲れちゃったなぁ。何か気分転換したいなぁ。ネットで検索するか?失恋 気分転換。」
髪を切る いつもと違う服を着る 元彼を呪う 泣く 野菜を刻む
「どれもありきたりじゃない?なんか絶対にしなさそうな……。」
ホストクラブに行く。
「ホストクラブ……。いいやん。絶対に行かないもん。5万…いや10万持って行くか?足りるかな?」
私は朝から何度もお風呂に入り昼食を抜き夕方美容院に行き少し髪を整えてもらってから繁華街に出向いた。
いざ来てみると分かったが、多すぎて何処に入ればいいのか分からない。
「ありがとうございました。」
ちょうどお店から出てきたボーイさんと目が合った。業者の人を見送っている。白いワイシャツに黒いチョッキ、黒い蝶ネクタイ、黒いスラックス姿の茶色の髪を軽く分けて流している少しラフな髪型でキチッとした服装なのがとてもいい。ボーイさんすらかっこいいなんて凄い。
「迷ってらっしゃいます?」
ボーイさんが優しい声で話しかけてくれる。なんかお兄ちゃんっぽい感じ。優しい声、優しい笑顔にガチガチに緊張していた体が少しほぐれる。
「あのこういう所って初めてでも入れますか?」
「ええ勿論です。」
ニッコリと微笑み頷く。切れ長の目が笑うと線になるのが可愛い。なんというかシュッとした顔だ。
「あのこれだけしかないんですけど大丈夫ですか?」
と10万円を見せる。
「充分です。」
少し屈んで目線を合わせてくれるのも嬉しい。最近、人に優しくされた記憶がない。
「初めてでマナーとかも分からなくて……。ホストの方に失礼じゃないですか?あっ触ったりとかはしませんよ!そういうんじゃなくて!お酒飲まないといけないとか勧めないといけないとかありますよね?」
「うふふ大丈夫、みんな優しい人ばかりですから。でもそんなに心配なら僕は如何でしょう?」
「あなた?」
「ええ僕です。僕はバーテンダーも兼ねているのでこうやって少しお話してお酒を飲んで慣れてきたら他の人も呼んだりしますか?」
「ご迷惑ではないですか?」
「いえいえ大丈夫ですよ。さあ入りましょうお姫様。」
と手を出してくれたのでそっと手を出した。そのまま手を引いてくれた状態でクラブの中に入った。