カキリの可能性1
古びた廃城の後ろで流星が流れる
そこまで朽ちていないながら不気味な雰囲気を醸し出していた
廃城の地下に存在する拷問部屋
この城はかつて拷問など秘密裏に行う執行者が使っていた時があり
その時の名残が残される
城主はもうこの世にはいないため
故にかつての国家にとって都合が良かった
適当に流した噂を現実味を持たせ流行らせるだけで
近づく者はいない
そんな廃城の古びた拷問部屋に縛られ、動けないカキリ
「くそっ!」
監視は無く、放置を受けているのではと思えるくらい
シーンとしており
薄暗い中で灯が黄色く光っていた
時間間隔が鈍るぐらい
精神的にダメージがあるその空間は
徐々に反抗を削ぐように拘束を受ける者を支配する
階段の音が響き
聞き慣れた声が聞こえる
「弟く~ん? 起きてるか~い」
ニヤついた表情が張り付いた男
ヒキリ、ヒローディア
拘束を受けるカキリの兄であり一族の中で最強にして
今から災厄をばらまこうとしている悪人
「ちょっとさ~ 思い出話をしようよ~」
何を企んでいるのか
突拍子もないことを言い出す
「なにが目的だっ! 兄さん!」
「父さんと母さんも生きてたな~」
人の話を聞かずに語り始める
かつて皇を守っていた最強の一族
ヒローディア家
その当主にグレン、ヒローディアがいた
グレンは皇騎士団の中でも
最強という枠組みを遙かに超えていた
誰も到達できない早さで
皇側近騎士の騎士長を務めていた
皇のお世話もこなすグレンは
家族を置き去りにしていた
グレンの妻であるアカリ、ヒローディアは
仕方ないと
いつもぼやいていた
ヒキリとカキリにとっては誉れであるものの
家族の時間がないというのは寂しいものだ
そういう家庭事情を知っていた皇側は
同じ年の軍属または貴族の子供を
紹介した
ヒキリはその中で一番の友を得る
ガウェン、トリアージム
騎士団の中で次期騎士団長と噂をされていた
あまり口数はないものの
カリスマ的な魅力がある老け顔の青年
剣術の稽古や夢を語り合ったりした
しかし、その中である事件が起こる
極西の者による誘拐事件
その時にグレンが駆けつけれなかったのは謎の死を迎えたから
母もその時に同時に亡くなっていた
皇騎士団の悪しき歴史であり、今も裏で隠された事件
そして兄は記述で語られなかった真相を話す
「これは誘拐の時の記憶でさ~」
誘拐された先で見たものとは
取引と信じられない光景
ガイン、トリアージムと極西の者達は
グレンの暗殺と次期皇側近騎士に選ばれた後の報酬
と会話していた
ガウェンの父はこの後、ヒキリのいなくなったあと裁かれたが
ヒキリは知らない
「兄さんは知らないだけだっ!」
カキリはそう言って今の現状を話し始めた
ガイン、トリアージムが裁かれた後
ヒキリの友であるガウェンは必死に探しながら
帰る場所を作ると必死に日常を生きたこと
ガウェンは会う度に申し訳なさそうにしていたこと
「そうだったのか~ まあどうでもいいや~」
そんな話はどうせ嘘だろと手をヒラヒラと振りながら後ろに歩いていく
「この計画はあの腐った国を救うためなんだよ~」
手を広げて理想を語る
黒く染まり果てしない悪意に支配される理想を
「兄さん・・・・・・ なんでそこまで・・・・・・」
弟の悲しみを置いてけぼりに
自分の世界に浸る兄
「そんなに話したらダメですよ」
階段を降りながら静謐に語りかける
金髪の男性
整えられた髪と西洋の司祭の服を着ている
西洋の司祭は少し長い帽子と
スーツの上に垂れ幕のような
白い前掛けが特徴
「まさか私の名まで言ってはいないでしょうね」
「何言ってんだよ~ 計画の肝だろ~」
「よろしい・・・・・・」
少しほくそ笑みながら
視線をカキリに映す
「この者が【フレイムソウル】の核ですか?」
「ああ、そうだよ~ 自慢の弟だよ~」
行動と言葉に違和感を覚えるが
それを誰もおかしいとは思わない
「とりあえず、可愛らしい・・・・・・ 苛めたくなる子ですね」
舌なめずりをしたように思えたが
幻覚だったようだ
「計画はどのくらい進んだんだよ~」
「あと少しでこの子には活躍してもらえそうですよ」
極東皇国騎士団駐屯所
「アリス君の考えはわかったが・・・・・・」
唸りながら資料に目を通す団長
アリスの隣にはアルスが不安そうな顔で見ていた
「ですから! これを使えばすぐに見つかります」
「でもっすよ! アリスに負荷が凄いっすよ!」
アリスの提案した
機械はマナを必要とし過ぎるため
アリスの生命力を少し削る
それは単純に接続者の命を削るという意味
「君に危険が生じてはカキリが悲しむのではないか?」
「それは・・・・・・ わかります」
でも!と食い下がるアリス
その決意にどうしたら良いものか悩んでいた
「団長っ! 話は聞いたぜ!」
セルグアが勢いよく扉を開く
「なんの事だ?」
「団長が調査隊の指揮を執るんだろ?」
セルグアの後から冷静に
アリティが続ける
「水くさいじゃないですか? 団長?」
二人の圧に押され
頭を抱える団長は
「話はこの通りだ・・・・・・ アリス君」
早合点で動いていた自分を恥じるアリス
アルスも安心した様に
「アリスの考えはわかるっすけど」
みんなも同じ考えっすよ!と励ます