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君の声が聞こえたら  作者: 川辺 竜介
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騎士団

 皇騎士団(すめらぎきしだん)の駐屯所では

新たな危機について会議が三人の幹部により円卓で行われていた

「団長っ! これは動くには良い機会だと思うぜ!」

「確かに好機ではあるのだがな・・・・・・」

団長と呼ばれた少し年を食った男性が血の気の多い団員に言い渋った

「なにか裏があると? では調査隊を出した方が良いでしょうか・・・・・・」

団長の隣で冷静に判断を仰ぎながら資料を探す団員

血の気が多いがしっかりと考えるセルグア、アルティムの

意見は正しいが

冷静な団員で団長の右腕であるアリティ、グイントの

調査隊を出すというのは妙案だ

何故ならこの会議の主題である危機とは

極東皇国(きょくとうすめらぎのくに)に侵攻を始めた

海を越えた西洋にある極西教王国(きょくせいきょうおうこく)

あちらでの名は違うのだが

そう呼称する国の術式である死者を操り、戦う者達

【ネクロマンス】

その者達の正体について判明したことがあったからだ

「資料を参照しましたがやはり

あの男が関わっていると思われます」

「ヒキリ、ヒローディア・・・・・・」

ヒローディア家の中で最強の男にして

力キリの兄である暗躍者

「やはり力キリ君を戦線に出すのは危険なのではないでしょうか?」

「いや、恐らくだが力キリを町に残すほうが危険だろう」

団長であるガウェン、トリアージムはある可能性を示唆する

力キリを狙うのなら戦線でわざわざ引き抜かない

ならば残せば確実に城下町と力キリに危険が及ぶ

ヒキリの実力は団長ですら互角の力がある

城下町など赤子を捻るようなものだ

調査隊を出し、状況を判断しなければ

タイミング次第では絶望に落とすことになるだろう

「とりあえず力キリには誰であろうと口外は無しだ」

「それが良いでしょう・・・・・・」

「ちっ・・・・・・ しかたねえか・・・・・・」

結局、話は調査隊を出して判断をするということに決まった

一方、その頃の力キリ達は

「ここのカルボナーラは最高だな・・・・・・」

しみじみとおじいさんがお茶を飲むが如く味わっていた

「力キリ君ってほんと何歳なの? ふふふっ」

「もしかして中身はおっさんじゃないっすか?」

茶化したアルスは色んな角度からカキリを観察をする

そして斜めから見ると

いつもよりかっこいいという成果を得る

それを何故かアリスに報告した

「そうなんだ・・・・・・ カメラあったかな・・・・・・」

「どうしたんだよ二人とも」

「なんでもないっすよ!」

ん?と疑問符を浮かべる力キリに残りを頂くっす!と

カルボナーラを横取りしようとするアルスは

しばし格闘する

アリスもそんな様子を微笑ましく見ている

ところ戻って騎士団駐屯所では

謎の男の目撃情報が行き交っていた

調査隊を出すよりも早く“あいつ”がやってきたかもしれない

「ぐっ! 力キリの近くには誰がいる!」

報告しますと団員が状況の知らせを述べ始める

緊迫した様子の下級騎士団員がそれをもはや物語る

「謎の男は近衛騎士を青と朱の炎で破ったとのことです!」

青と朱の炎

それはヒキリ、ヒローディア以外を示さない

「くそっ! 遊撃部隊を招集で力キリを呼び出せ!」

そんな招集の伝令鳩を飛ばす

今から時間の勝負だ

何故ならヒキリはカキリを使い【フレイムソウル】という

災厄を起こすためなのだから


 遊撃部隊というのは名ばかりで

一種の保護に近い種別である

国家に関わりを持つ者で

なお部隊として近衛騎士に囲まれる

ヒローディア家は元々は(すめらぎ)と呼ばれる

国の長であり、国を作った一族を

護衛する傭兵だったと聞く

この国自体が皇の神威(かむい)により出来た

聖剣とも鬼刀(おにかたな)とも認識を受ける

その武装により国が出来る前に土地を蔓延った魔物を退け

この国を作った

それ故にヒローディア家は

「灯火の象徴である火」か「生命を生み出す水」に

分かれるマナを扱う者が生まれる

しかし、ある事件により保護を受ける事となる

それを拒絶したヒキリは

今やテロリストの扱いを受けている

そんな傷を負っていても

いつか兄とまた笑える日々が来ると弟は切に願う

見てられないような心の傷を知っても

人に希望を見る力キリは誰よりも強かった

そんな弟の前に現れたのは

絶望を知り、屈した兄だった

伝書鳩が届かなければ消し炭だったろう

「兄貴・・・・・・ なんで・・・・・・?」

目の前には青と朱を手に宿す男がニヤリと笑い

石畳の道を焦がす

アルスは右腕を少し火傷している

伝書鳩に気がついたのはアルスだった故に

力キリを庇ったのだ

「よう! もう少しで俺のもんだったのにな~」

バカにした様な言葉を放つ男

アリスはどうしようもなくその場に立ち尽くし

何もできない

「兄貴には今だったら勝てる気がするな・・・・・・」

アリスを見つめ

“守らなきゃ”と心から染み出す感情に任せて

橙の槍と橙の刀による二段構えでヒキリを睨む

「おっ! いいね~」

あしらう様に青の刀と朱の槍に炎を変化させる

「兄弟ゲンカで俺に勝ったことあるか? 愚弟がっ!」

ニヤついたままバカにする兄に本気で飛び込む弟


 騎士団の駐屯所

「戦闘が城下町で行われているとの報告が!」

下級騎士団員は情報を吐き出す

「どこの区画だ! アリティとセルグアに向かわせろ!」

団長は怒号を飛ばし、指示を送る

激しい現状が諜報部隊から次々に発信される

遠距離の通信手段である

魔道具から劣勢に立たされていくカキリの状況が

伝わってくる

そして、ついに戦闘が終了したと報告がもたされる


 橙の槍と刀はボロボロだった

力を使い果たし目前の敵に及ばなかった

ニヤニヤと笑う兄は

勝利を味わうかのように屈した弟の肩に足を置き

「だからいったじゃねえかよ! 雑魚がっ!」

キッと睨む弟に続ける

「お前は俺の計画に必要なんだけどよ~」

言葉で止めを指すために

視線をアリスに移した

「あの嬢ちゃん・・・・・・ 計画に使っちゃおうかな~」

「やめてくれっ! 兄貴っ!」

「じゃあさ~ わかるよね~」

言葉を誘導する悪魔の様な取引

「ほらさ~ 僕を兄貴の最高の計画にさ~ どうするんだっけな~」

「僕を・・・・・・ 使ってください・・・・・・」

「聞こえないな~」

僕を兄貴のために使ってくださいと諦念の言葉を口走る

アリスは無力にも立ち尽くし

心の中では行かないで私が代わりにと溢れたが

恐怖で言えない

そんな言葉でカキリは留まらないし

きっと私を助けに来る

そうすればもっと悲惨になるに違いない

正論なのにどうしても納得できない

離れたくない

二度とあの時のカキリは見たくない

兄が失踪したと知らされ

絶望に染まり、目に光が無かった

何もかもを投げだそうとまでした

皮肉にも兄との再会がまた、引き起こそうとしている

自分が犠牲になったらと楽な考えが過ぎってしまう

絶望に抗える力があったら

この手にカキリを救える力が

そう切に願う

現実は残酷なことに変わりは無い

「大丈夫だ・・・・・・ すぐにもどるから・・・・・・ アリス・・・・・・」

ニッと笑ってみせるカキリに

胸の奥から締め付けられた

どんな状況でも

もうあの日は来ないからと

そう宣言するかのように

「あれ~ なにいってんのかな~」

戻らないよと言う前に

かぶせるように

「俺は絶対に戻る! アリスと笑いたいから! ずっと!」

おっ!とニヤついた兄は

「お前次第かな? ちゃんとあれの核になったらな~」

それは死の宣告に近い

だれにも周知出来たその言葉

あれが何かはわからないが

きっと戻らない

そんな予感が支配する

「そんなことはさせないっす!」

後ろから忍び寄っていたアルスはカキリを取り戻そうと

黄色い刀で斬りかかる

それさえもお見通しだったようで

あしらった後に吹っ飛ばす

遠くから集団の声が響いてくる

「おおっ これは早いね~」

問答を切り上げ肩に乗せていた足に力を入れ

組伏させ、青い炎が縄になり

カキリを拘束する

「じゃあね~ 雑魚共~」

空間が歪み

その歪んだヒビにサアーっと吸い込まれ

消えるカキリとヒキリ

残されたのは恐怖から解放され

涙が溢れるアリスと石畳を殴るアルスが

アリティとセルグアを迎える現状

「くそっ! 遅かったか!」

「まずいですね・・・・・・ 団長に知らせましょう」

心の底から焦っていた騎士団幹部

カキリほどの“二番目の最強”をあしらった

遊撃部隊だからとは言え

一応にも元最強だったカキリを子供の様に捻ったのだ

【団長に匹敵する】

これは紛いない事実で計画の鍵が揃った今では

絶望そのものだ

 

 騎士団駐屯所

「くそっ!」

円卓を叩く団長のガウェン

指揮系統を保持しなければいけない状況であったが

ガウェンが赴けば

助かったかもしれない

その感情が後悔を倍増させる

「いえ、私たちがもう少し早く着くことが出来ていれば・・・・・・」

アリティの青い瞳が涙を含むことを理解するぐらい濡れていた

セルグアもやりきれないのか赤い髪をぐしゃぐしゃと搔く

アリティ、グイント

金髪で青い瞳が特徴の騎士団きってのキレ者

背が低いことが悩みだが

機動力があるその体躯を誇っている

中性的な見た目は団でも人気がある

セルグア、アルティム

赤い髪で左を刈り上げている

黒い瞳が真の通った気質を表す目つき

背が高く、筋肉がほどよくついた熱血漢

冒険者の服を二人とも着込む

騎士団の鎧を似合わないと嫌っているからだ

そんな二人をまとめる団長

ガウェン、トリアージム

気難しいと見られがちだが面倒見が良く

騎士団の父親的な存在

老け顔ではあるがアリティとセルグアとは同期

年齢より上に見られるのは愛嬌として捉えている

黒い髪に白髪が交じり、眉間にシワが寄りがちの

精悍な顔立ちに高い背丈にガタイがいい

その三人も落ち込んではいられない

すぐさまカキリを救わなければならない

【フレイムソウル】

ゴーレムに近い機械巨人に魂を持たせ

終焉をもたらす

そんな狂った計画

伝承の中との認識を改める事件

極西教王国(きょくせいきょうおうこく)の邪教

ディアブロソウルによる

ヒキリ、ヒローディアの誘拐事件

これはヒローディア家の保護の発端となった

若かったヒキリは自分の無力さを認めることが出来ずに

今回の結果を生む

団長には後悔があった

ヒキリに信頼を寄せられ親友とまで呼び合った

なのに

国の命令に従う他なく

裏切ったのだ

【どんな時だってお前の味方だからなっ!】

幼き日の約束を破り捨てた

信じることより安心という自己満足を選んだ

監視の中で生きたヒキリはどれだけ寂しかっただろうか・・・・・・

そんな考えがずっと過ぎっていた


 極東皇国(きょくとうすめらぎのくに)宿舎

アルスとアリスの二人は宿舎で保護を受けていた

窓を見つめながら涙をすっと垂らすアリスは

なんでこうなったかをずっと自問自答する

きっとそれだけではない

夜空を見ながらカキリの理想を聞く

それはアリスにとって楽しみを越えた

幸せだった

遠く遠くに見えなくなった幸せとカキリの横顔を

思い浮かべる度に

悲しみが途絶えない

“力があれば”

そんな彼女に落ち込みながらアルスが呟く

「今は何ができるかっす・・・・・・ 無力な自分には何もできないっすけど・・・・・・」

何が出来るか・・・・・・

その言葉が妙に突っかかる

「私に出来ること・・・・・・」

自分が持てるものはなんだろう?

待つだけでカキリが戻ってくるとは思えない

しかし、自分は無力だ

いや・・・・・・

「ちょっと団長に会いに行こう! アルスも!」

決意に染まったアリスは行動を起こす


世界が分かつことが出来るのは何だろう

人との繫がり? 運命ではない全て?

世界は何も絶つことは出来ない

人が諦め、人を手放すから絶たれるのだ

諦めない想いがやがて世界さえも動かす







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