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「夜、いい所に連れて行ってあげる」


食堂を出ると、ルーカスにそっと手を引かれた。

城を出て、裏庭に続く道を歩く。

ルーカスは夜よりも足が長いから、ついていくのも一苦労。

夜が疲れて肩で息をすると、ルーカスが気付いてそっと抱き上げてくれた。


「ごめんね、ルーカス」


「いいんだよ。十五歳でも、僕からしたらほんの子供さ」


ルーカスは片手で軽々夜を抱きながら、さっきよりも早く歩き出した。


着いた場所は畜舎だった。

中には沢山の立派な軍馬と、少し離した場所に鶏や牛がいた。

そこからまた離れた場所に彼らはいた。


「ピギー!ハンク!お母さん!!」


夜は思わず飛び付く。


「気に入ってくれた?」


優しくルーカスが降ろしてくれた。


「うん!ありがとう、ルーカス」


「僕は連れて来ただけ。夜の内にね。後で王様にお礼を言ってね」


にこにこ笑いながらルーカスは夜を見ていた。


「よう!夜ー、ここは良い所だな!」


ピギーは陽気に餌を食みながら夜に挨拶する。


「まーだ、おっ死んでなくて安心したぜ」


ハンクが憎まれ口を叩く。


「夜、夜、良かった。また会えたわ。私の可愛い赤ちゃん」


ギムレットはにこにこしながら泣いている。


一人と三頭は肩を寄せ合って再会を喜んだ。

ルーカスが夜の肩に手を乗せる。


「皆は喜んでくれた?不満は言ってなかった?」


「皆大喜び!ここは良い所だって!ルーカスにも皆の言葉、分からないの?村の人も分からないって、だから私が不気味だって言ってた。ルーカスもそう思う?」


夜は不安になった。

会ったばかりだが、優しいルーカスに嫌われたら嫌だと思ったからだ。


「全然!羨ましいくらいさ。僕の一番の親友はあそこにいる馬のシンフォなんだけど、彼と話が出来たら最高なのにっていつも思っているんだよ」


ルーカスは畜舎の入り口近くにいる一頭の真っ白な軍馬を指差した。


「シンフォ……、綺麗な馬ね」


「俺のがイケてる!」


「いーや、逆立ちしたって敵わないや」


ハンクが嘶くと、プギーがからかった。


「夜、王様によくお礼を伝えてね。私と大事な娘を会わせてくれてありがとうと」


ギムレットが夜に言い聞かせた。


「うん、お母さん。ちゃんとするよ、大丈夫」


「さあ、夜。そろそろ王様に会いに行こうね。皆にはまた明日会おう」


「ここで寝ちゃ駄目?」


「それはいけないな。もしかして、寂しいの?」


「うん、一人で寝るのは寂しいの。ベッドが冷たいから」


「じゃあ暫くは非番の日は一緒に寝てあげる」


夜は嬉しくてルーカスに抱き着く。


「ルーカス、ありがとう!大好き!私のお父さんになってくれる?」


ルーカスは夜を抱き締める。


「せめてお兄さんにしてくれないかなあ」


優しく夜の髪を撫でる。


このお城は暖かい。


そんな城の主人はどんな人だろう。

夜は王様に会うのが、少し楽しみになった。












黒で纏められた玉座の前に夜は跪いて首を垂れていた。

隣にいるルーカスも片膝をついている。


()い、話せ」


澄んだ低音が、広い玉座の間を震わせた。

然程大きな声では無かったのに、よく響いた。

夜は、隣にいるルーカスに縋り付きたい気持ちだった。


ちびっちゃいそう!


夜が震えて隣に居るルーカスを見ると、ルーカスはにっこり笑った。


「こちらが今回の生贄の少女、夜です。ヴィルヘルム王」


ルーカスの言葉に沈黙が走る。


「少女……だと?」


「はい。今回はどうやら女しか生まれなかった様で、この夜が生贄として育てられた様です」


「生贄は出さなくて良いと言っているのだから、差し出さないという選択肢は無いのか、奴らは」


胸糞悪いとでも言う様に、ヴィルヘルムは吐き捨てた。


「村は生贄を差し出す代わりに色々恩恵を受けている様ですからね。差し出さない選択肢は彼らの中には無いのでしょう」


「それにしても、まだ子供では無いか」


「彼女、これでも十五歳だそうです」


「何?!」


「栄養状態が悪かったのでしょう。王が村に支援する貴族を尽く処罰していったのが裏目に出たのかもしれませんね」


ヴィルヘルムは溜め息を吐く。


「侭ならんな」


夜は一言も話せない。

恐くて恐くて逃げ出したい気持ちだったからだ。


「顔を」


短くヴィルヘルムが言う。

ルーカスが、


「大丈夫だよ、王様に顔をお見せしてあげてね」


夜はルーカスにこくりと頷く。

生唾を嚥下して、恐る恐る顔を上げる。


「城は気に入ったか?」


「はい。清潔で、良い匂いがします」


ヴィルヘルムは、フッと優しく微笑んだ。


「そうか。友達には会えたか?」


「会えました。お母さんが、王様にお礼を言ってと言ってました。王様、私のお母さんと、お友達に会わせてくれて、本当にありがとう」


ヴィルヘルムは少し考えて頷いた。


「ああ、雌牛がお前の母親代わりだと聞いたな。会えて良かったな。ふふ、雌牛に礼を言われる日が来るとは。何万年も生きたが、初めての経験だ。今宵は特に良い夜だ」


気怠げに玉座に頬杖をついているヴィルヘルムは愉快そうに笑った。


夜は王様がいっぺんに好きになった。


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