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夜は青年にすっかり洗われた。

青年はずっと、彼女は子供、彼女は子供と呪い(まじない)の様に呟いていた。

青年は優しく夜をタオルで拭いてくれた。

大きな掌が、夜の短い髪をあっという間に乾かした。

着替えの寝巻きは清潔な匂いがした。


「あのね、夜。明日、王様に合わせてあげるよ」


青年は優しく夜をベッドに横たえると、肌掛けを掛けてくれた。


「明日、食べられるのね?」


「大丈夫だよ。心配しないで。王様は、とっても優しいからね。だから心配しないでお休み」


青年は、夜の短い髪を撫でてくれた。

お母さんみたい。

優しい。

この人、大好き。

夜は初めての動物達以外の優しさに触れた。


「あのね、お名前教えてくれる?」


「忘れてた。僕はね、ルーカスだよ。君の五代前の生贄さ」


「嘘!」


「嘘じゃないよ。だから大丈夫。さあ、お休み」



ルーカスに瞼を撫でられた。


あっという間に夜は眠ってしまった。


ルーカス、お母さんみたい。

優しい。

でも男の人だからお父さん?

うんと年上だからおじいちゃん?


明日、ルーカスに聞いてみよう。













「おはよう!夜。まだ城の皆は寝ているよ。夜は朝起きるだろうから、僕が代表して起きていたよ」


カーテンが閉じられていて時間感覚が分からない。

そっと窓辺によると、ルーカスに背後から抱き止められた。


「開けてはいけないよ。僕が灰になってしまうから」


本当かな?

夜は首を傾げる。


「本当だよ。それより食事にしようね。お腹空いたでしょう?」


「うん、お腹空いた」


ルーカスが、部屋の外にあったワゴンを押してくる。

部屋にある小さなテーブルにワゴンに乗っていた食事を置いてくれる。

温かいスープが湯気を立てている。


「スプーンはね、こうやって使うんだよ?」


ルーカスが椅子に座った膝に夜は乗せられる。

ルーカスが夜の背後から、抱き締める様に教えてくれた。


「ルーカス、ありがとう。ルーカスは優しいね。私の家族みたい。大好きって言ってもいい?」


「勿論!夜は可愛いね。僕も夜が大好きだよ」


ルーカスは微笑みながら夜の頰に付いたパン屑を拭ってくれた。


「あのね、夜になったら一緒に王様に会おうね。大丈夫だよ、僕も一緒だからね。心配しなくて良いよ。王様に会う前に城の皆も紹介してあげる。怖がらなくていいよ。皆気の良い人ばかりだから」


「ルーカス、私、何も知らないの。皆に変な事して嫌われちゃうかも」


「大丈夫だよ。皆分かってくれているから。さあ、段々生活の時間帯を変えなきゃいけないからね。子供だし、まだまだ寝れるだろう?僕と一緒に少し眠ろう」


「眠くないよ、ルーカス」


「抱き締めてあげる。目を閉じているだけでいいんだよ」


ルーカスは夜をベッドに連れて行くと抱き込んで寝てしまった。


夜は、誰かに抱き締められたのは初めてだと思った。


ギムレットや、ピギーやハンクは夜を抱き締められないから。


でも、皆と寄り添って寝ている時みたい。


ルーカスの胸に耳を当てる。

ちゃんと心臓の鼓動がした。

少し安心した。










夕方、夜はルーカスに食堂に連れて行かれた。


中には沢山の人が居た。

何れも男ばかりだ。

夜を興味津々に見ている。


「ちっこいな」


「大丈夫さ、数年もすればちゃんと大人になるさ」


「ヴィルヘルム様にぴったりの淑女に育てよう」


「そうだ!王様にぴったりの女性にしよう」


「顔も可愛いし、いいんじゃないか?」


「でもまだ子供だよ?」


「いくつかな?」


「十才くらいじゃないか?」


「壊れそうに小さいな」


口々に夜の感想を述べている。

夜は不安になってルーカスの後ろに隠れた。


「夜、大丈夫だよ。皆君と仲良くなりたいんだよ」


ルーカスは笑っている。

すると、一人の青年がルーカスと夜の前に近寄って来た。

ルーカスよりも筋肉質で少し怖い顔だ。


「彼はね、ダリルというよ。この城のコックさ。朝食べた食事もダリルが作ってくれたよ。夜、お礼をしようね?」


ダリルと紹介された青年は、確かにコックが着る白いコックコートを着ていた。


「あ、ありがとう。とっても美味しかった。あんなに美味しいスープ初めて食べたよ」


夜がペコリと頭を下げると、熊の様な厳つい顔をふにゃりと蕩けさせて頭を掻いた。


「気に入ってくれて嬉しい。名前は夜と聞いた。年はいくつだい?」


「分からないの。でも、多分、十五歳くらい。村の人が言っていたのを聞いた事があるの」


これにはルーカスが驚嘆する。


「えっ?!嘘だろう?!十五歳なら立派なレディじゃないか。こんなに小さいなんて」


お風呂入れちゃったよ!ルーカスは小さく叫んだ。

そうしてルーカスは思わずといった感じで夜をじろじろ見る。


「ルーカスはもうジジイだから自分の時の事を忘れたんだろ?」


コックのダリルの後ろから、ひょっこり陽気そうな青年が顔を出す。


「彼は、クリミア。僕と同じ騎士だよ。でも年は夜に一番近いかな。まだ二百年くらいしか生きてない」


ルーカスが紹介してくれる。


「夜はもっと食わせなきゃ駄目だな」


「腕によりをかける」


クリミアの言葉にダリルが頷く。


「きっと村での食生活の所為で成長が乏しいんだよ。沢山食べて、沢山寝て、沢山遊ぶんだよ?」


ルーカスがそう言った。

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