表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

1






これは、遠い遠い世界のお話。


ある所に、この世界の始まりから知っている王様がいました。


王様は、不老不死の力を持ち、百年に一度純粋な魂の生き血を飲む事と引き換えに、国を守っていました。


生贄を出す村は決まっています。


純粋な魂を持った者が生まれると伝わる村です。


村人は、前回の生贄の儀式から八十五年目に産まれた子供を村で育てます。


そうして生贄の子供が十五歳になる年に、王様に捧げるのです。


生贄を捧げる事により、村は国のいくつもの地域から寄付を受け、豊かな暮らしが出来ます。


毎回、子供は男の子に決まっています。


王様は純粋な魂を持った男の子の血を好むからです。



しかし、ある八十五年目、村には女の子が一人だけしか産まれませんでした。


村人は、困り果て、結局産まれた女の子を生贄に捧げる事に決めました。



生贄の子供は、村の共有財産です。


村にいる幾つかの動物と変わりません。


子供は、動物達がいる畜舎で育てられます。


子供は、日に二度与えられる食事の時間に村人から言葉を少し教わります。


それ以外に与えられるのは、汚いボロ切れだけ。


後は、粗相をしてしまったり、逃げ出そうとした時に与えられる鞭だけ。


子供はやがて希望を失います。


知恵の無い子供は、いつしか逆らう心を忘れます。


いいえ、初めから持ち合わせていなかったのかもしれませんね。



こんな酷い事を平然とするこの村に、本当に純粋な魂が生まれるのでしょうか?


いいえ、生まれる筈がありませんね。


もし、生まれるとしたら。



それは、虐げられた痛みを知る、生贄の子供だけでは無いでしょうか———。

















今日は、『夜』にとって初めて良い事があった日だ。


いつもタライで水を掛けられてお仕舞いなのに、清潔な風呂に入れた日だからだ。


初めて入った風呂は、嗅いだ事もない様な甘い匂いがした。

髪が泥や、垢や汗で大変な事になっていたから、短く切って貰えた。

それから何度も湯を変えてすっかり綺麗にしてもらえた。


だが、寝る時は少し嫌だった。

友達の豚のプギーと別々だったからだ。

母親代わりの牛のギムレットとも別々だ。

いつも少し意地悪だけど、心優しい馬のハンクとも別々。


代わりに、ふかふかのベッドで寝た。

初めて触った時は、蕩ける心地だったが、家族の動物達が居ないベッドは寂しくて冷たかった。


いつもの畜舎には藁しか無いけど、家族がいる。

夜の家族と友達は動物達だ。


一日に二度来る村人は、夜は嫌いだった。


人間の言葉を押し付けて夜に話す様に強要する。

出来なければ、すぐ鞭で打つし、食事を取り上げられる。


夜がお腹が空いて泣くと、ギムレットが慰めて乳をくれた。


夜が、お母さん大好き、とギムレットに縋り付くと、ギムレットは夜の頰を舐めてくれる。


可愛い私の赤ちゃん、ギムレットはいつもそう言ってくれる。


お母さん、大好き。


夜の大事な家族だ。



夜という名前は村人が付けた。


夜に生まれたから夜。


今までの生贄の子供達も、朝に生まれたら朝。


昼に生まれたら昼。


そういう決まりらしい。


夜は、この名前が嫌いだった。


だが、嫌がると鞭で打たれるから、誰にも言えなかった。



朝になると、見た事も無い綺麗な真っ白なワンピースを着せてもらえた。


どうやらとうとう出荷されるらしい。


何頭もの動物の友達も出荷されて行ったから、自分の順番が来た事を夜は悟っていた。


でも開き直ってもいた。


出荷する為に綺麗にしてくれて綺麗な人間らしい服が着れる。


初めての人間らしい振る舞いに、夜は少しワクワクした。


出荷が決まった朝、ギムレットもプギーも、ハンクも。


皆泣いていた。


夜も少しだけ泣いた。


だけど、笑って皆に、じゃあね、と言った。


意地悪なハンクが、お前殺されるんだぞ!と夜に怒鳴った。


夜は得意げに、知ってるもん!と言い返した。


知ってるよ、酷い王様に血を吸われて殺されちゃうんだ。


知ってるよ。


何度も村人から言われて来た事だったからだ。


だけど、夜は少しホッとしていた。



もう鞭で打たれない。


お腹も空かない。


夜は、疲れていた。


生きるって大変。


疲れちゃうよ。


夜はそう思っていた。



昼になった。


夜は真っ黒な窓の無い馬車に入れられた。


窓から景色が見えると、道を覚えて逃げ出してしまうと考えられたからかも知れない。


夜は、逃げないよ、そう思う。


もう疲れたから。


パクッと食べられて終わりにしたい。


そう考えていた。


痛く無かったらいいけどなあ。


夜はそれだけ心配していた。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ