第30話 チェック・メイト
ノイエはゆっくりと右腕を下ろした。
自身を元に完成されたという最高の兵士、最強の人形──その残骸を足元に見下ろして。
「……これが、僕達か?」
少年を背後から貫いた白色の閃光は、その上半身を完全に消滅させていた。にも関わらず、残った下半身だけは未だにピクピクと動いている。
「これが……僕達の本来あるべき姿なのか」
ノイエは誰にともなく呟くと、キッと上空のエンデを睨みつけた。
「そうよ。それがお前達の姿」
エンデは鬱陶しそうに言い放った。
「感情を持たず、ただ人を殺すためだけの戦闘用人形。わかった?」
「ああ……よくわかったよ!」
鋭く叫び、ノイエがエンデに向かって飛びかかる。
しかし次の瞬間、ノイエの足首に何かが巻きついて床に叩きつけた。
「ぐっ……!?」
ノイエの視線の先で、一本の鎖が不気味に蠢く。ノイバウンテンで倒した少年とは別の少年が、片腕を鎖状に変化させてノイエの足首に巻きつけたのだ。
鎖はノイエに絡みついたまま巻き戻されて腕に戻り、あっという間にノイエは羽交い締めにされた。
「は、放せっ!」
振り解こうともがくノイエ。しかし少年の力は強く、びくともしない。
「まったく、ただの試作機のくせに。余計な手間をかけさせてくれるわね」
エンデが忌々しげに吐き捨てる。
「ノイエ……!」
焼け爛れた身体に鞭打ち、グラフは辛うじて上半身を起こした。
白蘭、ナーと少年達の戦いは続いていた。機体の戦闘性能では少年達が上回っているが、戦闘技術と観察力、息の合ったコンビネーションで、2対3ながら互角以上の戦いを繰り広げている。
だが可変性鉱体の機体を持つ少年達に決定的なダメージを与えるには、ノイバウンテン並の高出力で一瞬にして消滅させるしかない。白蘭の剣技とナーの格闘術では、負けないまでも決して勝つことはできない。
あの二人にノイエを助ける余裕はない──しかし自分はもうほとんど動けない。
「動、けっ……!」
それでもノイエを救出しようと、震える右腕を変形させようとした、その時。
身動きの取れないグラフを庇うように、アートが目の前に立ち塞がった。
第30話 チェック・メイト
「あの話を覚えているか? グラフ」
怪訝そうな顔をするグラフに背を向けたまま、アートは独り言のように呟いた。
「『名前のない通り』のエピソードだ。ボロボロのクマのぬいぐるみを持った貧しい女の子が金持ちに尋ねられる。その古いクマの代わりに、私が新しいクマを買ってあげよう、と。だが女の子はそれを断る。金持ちは更に続ける。新しいクマはお喋りもできるし、綺麗な服も着ているよ。そうだ、それを2つ買ってあげよう。どうだい? いい話だろう、と……それでも女の子は、もう一度きっぱりと断るんだ」
「……ああ。確かお前、それを見て言ってたよな。どうして断るんだ、バカな話だって」
「グラフ、お前はどう思う? どうしてあの女の子は、新しいクマを断ったのか」
「それは……」
グラフは少し考えてから答えた。
「やっぱり、その子は古いクマのほうが好きだったからじゃないか? 単純すぎて、またお前にバカにされるかもしれないが……」
しかし、アートはその答えに満足したように微笑んだ。
「いや……俺もそう思う」
羽交い締めにされたノイエの前に、白蘭・ナーとの戦闘から離脱してきた一人の少年が立った。容赦なく振り下ろされた刃に、ノイバウンテンの右腕が斬り落とされる。続いて左腕が、右脚が、左脚が──為す術もなく四肢を切断され、床に落ちるノイエ。
少年が感情のない瞳でノイエを見下し、もう一度大きくF.I.R-IIを振りかぶる。
「……やっぱり僕は、人形なのか」
ノイエは虚ろな瞳で呟いた。
「古くなったら捨てられる、人形……か……」
F.I.R-IIの刀身を真紅の炎が包み込む。
と、突然二人の少年が弾き飛ばされた。
「お前は人形なんかじゃない! 俺達が……お前を守る!」
交錯した瞬間に少年の手からF.I.R-IIを奪い取り、アートは吼えた。
「どいつもこいつも……! いい加減しつこいのよっ!」
エンデは狂ったように叫ぶと、すべての少年たちに直接命令を下した。
「あの不良品を消してしまえっ!」
その言葉に反応して、二人の少年が同時にノイバウンテンを構えた。
白蘭、ナーと戦っていた残り二人の少年も、一斉にアートに照準を合わせる。
「ノイエ!」
グラフは右腕を鎖状に変形させ、ノイエをつかんで引き寄せた。それを見届けたアートが、先程弾き飛ばした二人の少年に向かって突進する。
「まさか……! よせ、やめろアートーーーーッ!!!!!」
グラフが叫んだ瞬間。
「はぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
F.I.R-IIから噴き上がる真紅の炎を身に纏い、アートは稲妻のような速度で突撃した。
二人の少年がまとめて串刺しになり、その背中から突き出たF.I.R-IIの刀身もろとも炎の竜巻に包まれる。
「さぁ、どうする!」
共にその身を業火に焼かれながら、アートは叫んだ。
「貴様らが完璧な“兵士”なら、この状況で取るべき手段は唯一つだろう!」
「やめろアート!!! 離れろーーー!!!!!」
「アート、死んじゃいやだぁぁああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
グラフが、ノイエが、声の限りに叫ぶ。
──その時。
アートがこちらを振り返り、優しく微笑んだ……気がした。
次の瞬間、一斉に発射されたノイバウンテンが二人の少年ごとアートを消し去った。
「アートーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」
凄まじい爆発に、部屋中が砂煙に包まれる。
やがて流れてきた風に煙が吹き払われたとき、そこには何者の姿もなかった。
ただ、床を削る閃光の跡を除いて。
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「……まったく、不良品ばかりね」
エンデは憎々しげに呟いた。
「だけど、これでもう……」
「チェック・メイトよ」
不意に近くから聞こえた声に、エンデは驚いて振り向いた。
「誰かと思えば。アイズじゃない」
いつの間に登ってきたのか、自分と同じように崩れた天井の縁にアイズが立っている。
「あんたもとうとうお終いね。ここで他の連中と一緒に殺されるといいわ。もっとも、誰も何もしなくても、ツェッペリンで吹き飛ばされるけどね」
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「くそっ、上では何が起きてるんだ……アイズ! 聞こえるか!?」
遥か階下でツェッペリンを抑え込みながら、フジノは上に向けて叫んだ。
「今はルルドと一緒に抑え込んでるけど、そう長くは持ちこたえられそうにない! 早くこの島を離れるんだ!」
/
「ふん、無駄よ。もうそんな時間はないわ」
エンデは鼻で笑うと、アイズに向かって手を伸ばした。
「ま、あんたのことは確実に殺すように言われてるし。この場で殺してあげる」
「ちょっとエンデ、そんなことより早く私達を回収してよ!」
焦りを隠せないヴィナス。
一方、アイズは平然と言い切った。
「別にいいのよヴィナス、そんなこと気にしなくても。だって、もう勝ってるもん」
「……何?」
エンデが、ヴィナスが、訝しげに眉根を寄せる。アイズは「わかってないなぁ」と肩をすくめた。
「知らないの? チェスはキングを取ったら勝ちなのよ。例えそれまでの戦いが、どんなに相手側にとって有利に見えてもね」
「はっ……何を言いだすかと思えば」
エンデが呆れ顔で言う。
「あんたに何ができるっていうのよ? 臨界間近のツェッペリン、最新型クラウン、空中戦艦……そしてこのあたしに!」
「ほんとにわかってないわね。武力だけがすべてじゃないのよ」
アイズがパチンと指を鳴らす。
すると、アイズの手に一本の薔薇が出現した。
「世界を平和に導こうと思ったら、花を愛する余裕くらい持たなきゃね。そんなことだから当たり前のことさえ見えなくなるのよ。今回みたいにね」
「……?」
エンデが改めて部屋を見渡す。
床を削る閃光の跡、傷ついて倒れているグラフとノイエ。少し離れたところでは白蘭とナーが、最新型クラウン2体を相手に戦っている。
──他には誰もいない。
「まさか!?」
エンデは驚愕の声を上げた。
「他の連中は! メルクと独立軍を何処にやった!?」
「独立軍? 何のこと?」
横からヴィナスが口を挟む。
「私とネイがここに来たときには、今ここにいる奴等以外は誰もいなかったわよ?」
「……バカな……!」
「だから言ってるでしょ? 武力だけがすべてじゃないってね。大切なのは広い視野と心のゆとり、平和を求める心と平等さ……そして」
アイズはニッと笑った。
「あんたみたいなバカに負けないだけの、ほんのわずかな“力”かな?」
アイズは手にした薔薇を軽く放り投げた。
何の変哲もない薔薇がアイズの手を離れ、エンデに向かって放物線を描く。
エンデは咄嗟に手を伸ばし、薔薇を払いのけようとした──瞬間。
「な……!?」
薔薇の茎が凄まじい勢いで伸び、エンデの身体を刺し貫いた。
「この力、まさかリングの!」
薔薇の茎は際限なく伸び続け、瞬く間にエンデの全身を棘が覆い尽くしていく。
「な、何!? 何なのよ、これは!?」
「離れるぞ、ヴィナス!」
ネイが咄嗟にヴィナスの手を引き、押し寄せてきた棘から逃れる。
「そういうことか、あんたを確実に殺すように言われたのは……! だけど!」
エンデは全身から稲妻を放った。
伸びるよりも早く棘が燃え落ち、エンデの拘束が徐々に解けてゆく。
「こんなものであたしを倒せるもんか!」
「わかってないわね。これは勝利の為の第1歩」
アイズは足元から生やした蔦を自分に巻きつけて床に降りると、部屋の入り口に向かって叫んだ。
「次は頼んだわよ、レムさん!」
「なっ……! き、貴様!?」
突然呼ばれた天敵の名に、エンデの顔が引き攣る。
途端、アイズの棘が淡い輝きを纏ってエンデの身体を包み込んだ。先程まで次々と燃え落ちていた棘がエンデの稲妻を弾き返し、完全に抑え込む。
「くぅっ……! ど、どういうことだ!? トトならばともかく、あいつにここまでの力はないはず!」
「確かに。私一人でこれほどの力を出しては、身体がついていきません」
声と共に、車椅子に乗ったレムがケール博士に押されて姿を現した。
「しかし“生命”を生み出すアイズさんの力と組み合わせれば、私の貧弱な身体でも十全に力を発揮することができる。ましてや、私がこの場に直接出向いている以上……一人安全な場所から遠隔操作で精神だけを飛ばしている貴方などに、劣る道理はありません」
/
「相変わらず無茶をするわね、フジノ」
声と共に、ツェッペリンの輝きが急に穏やかになる。フジノは驚いて振り返り、自分の横から手を差し伸べてきた人物を見てもう一度驚いた。
「……カシミール!」
同時に、また別のほうからも手が差し伸べられ、不規則に変動していたツェッペリンの魔力の波長が安定する。
「何度も言ってるでしょ。どんなものにもリズムはあるって。どんなに複雑な動きをするものでも、どんなに不規則に見えるものでもね」
「ジューヌ先生!」
ルルドが声を上げる。
「さぁ、ルルド。こいつを片付けてしまおうか?」
「……うん!」
カシミールの圧倒的な出力とジューヌの調律が加わり、フジノとルルドの魔力がツェッペリンに同調する。
「消えてなくなれっ!」
ルルドの叫びと共にツェッペリンが消滅し、直後、遥か上空で大爆発が起こった。
魔力を使い果たして倒れるフジノを、カシミールが抱き止める。
「カ、カシミール……?」
戸惑うフジノに、カシミールは素っ気無く言った。
「言っとくけど、私は貴女のことを許したわけでもないし、今でも大っ嫌いだからね」
「……ごめん、カシミール」
フジノが苦しげに呟き、目を伏せる。
カシミールはちょっと困ったような顔をしたが、すぐにそれを隠すように憮然とした口調で言った。
「やけに素直ね……気味が悪いわ」
/
「バカな、ツェッペリンが!」
アイズとレムに抑え込まれたまま、エンデは上空の大爆発を驚愕の眼差しで見つめていた。光の棘はますます勢いを増し、機体内部にまで侵入してくる。
「くそっ、このままでは……! お前達、先にこいつらから始末しろ!」
エンデが叫んだ途端、少年達の動きが変わった。白蘭・ナーとの戦闘を継続しつつ、隙あらばアイズとレムに攻撃を加えようとする。
「させません!」
二人がノイバウンテンの射線に捉えられるよりも早く、ナーの蹴りが少年の腕を跳ね上げる。白蘭が懐に入り込んで近接戦闘を仕掛け、風の刃を放つ暇を与えず攻め続ける。
「何故だ……! 何故あんな連中に、あたしの最高傑作が……!」
「わかっていませんね、エンデ」
レムが静かに言う。
「確かに彼らは強い。機体の戦闘性能に限れば、間違いなくこの場にいる誰よりも上でしょう。ですが、心がない。わずかながらも意志の力が感じられるところを見る限り、人格の剥奪ではなく感情の抑制措置を施しているのでしょうが」
打たれても、斬られても。
顔色一つ変えずに戦い続ける少年達を、憐れみの目で見つめるレム。
「死の恐怖を知らない者が、真に強者となることは……っ」
「レムさん!」
突然咳き込み始めたレムに、慌てて駆け寄るアイズ。
「はっ……偉そうなことを言っておきながら、ざまあないわね。所詮あんたは出来損ない、せいぜい死の恐怖とやらに怯えているがいいわ。さあ、このまま押し返してやる!」
アイズの棘を包む光が弱まり、徐々にエンデの稲妻が勢いを取り戻す。
レムは汗にまみれた顔を上げ、肩で息をしながらも尚、穏やかな笑みを浮かべた。
「死の恐怖を知っているからこそ、私達は互いを頼り、助け合うのです。一人の力でできることには限りがあると、知っているからこそ」
「そんな臆病な私が、これですべての手を出しきったと……そう思いましたか、エンデ?」
何処からともなく凄まじい閃光が迸り、白蘭と対峙していた少年が消滅する。
「な、何!?」
驚いて振り向く白蘭。
その視線の先で、一人の青年が巨大な剣を構え直した。
「白蘭さん、遅れて申し訳ありません!」
「スケアさん!」
「はーい、お待たせ! よく頑張ったわね、ナー!」
「あ、貴女は……オードリー姉さんですか!?」
ナーに斬りかかった少年のF.I.R-IIを氷の盾で受け止め、オードリーが笑う。
「そうよ、直接会うのは初めてだったわね。ホント言うとのんびりお話したいとこなんだけど……ケール、可変性鉱体の弱点って何だっけ?」
『そうねぇ。あんまり大きな声じゃ言えないけど、極端な温度差には耐えられないはずよ』
通信機からのケール博士の返答に、オードリーはニッと笑って顔を上げた。
「なるほどね」
途端、オードリーの周囲の気温が急激に下降した。F.I.R-IIの炎が消え、あっという間に少年ごと凍りつく。直後、オードリーの放った灼熱の炎を浴び、F.I.R-IIと少年は変成して崩れ落ちた。
「一丁上がりね」
「この裏切り者が……!」
エンデは凄まじい眼差しでスケアを睨みつけた。
「よくもあたしの最新型を! お前だって同じ戦闘用の人形なんだ、それなのに!」
「……ああ、そうだ。確かに私は、ずっと戦闘用人形として戦っていた」
L.E.Dを構えていた手を下ろし、スケアは静かに語った。
「小さな子供でも、生い先短い老人でも。戦う力もなく逃げ惑うしかない多くの人々を、私は殺し続けた。だがそれは、ハイム上層部が言うような『国のため』ではなかった。君のような、ほんの一握りの支配者のためでしかなかった」
その時、ジューヌに肩を支えられてフジノが戻ってきた。すぐ後ろには手を取り合って佇むルルドとカシミールの姿もある。
スケアは彼女達を見つめ、続けた。
「エンデ。君の言う通り、私は戦闘用人形だ。その事実は今も変わらずここにある。だが、今の私には家族がいる。あの頃とは違う戦う理由がある。今の私は愛する者達のため、そして自らの夢のために戦う戦士だ。同じなどではない……決して!」
「やれやれ……流石にいいこと言うじゃないか。ちょっと年寄りくさいけどな」
溜息混じりに呟くグラフ。ノイエは何も言わず、ただじっとスケアを見つめている。
その時、上空に浮かんでいた戦艦が動き始めた。
「ちっ……! 今度は何をするつもりだ!」
「空中戦艦に攻撃指令を出したのよ」
レムとアイズに抑え込まれながらも、エンデが不敵な笑みを浮かべる。
「こうなったらメルクだけでも潰してやる!」
空中戦艦が砲門を開き、海岸近くに不時着しているブリーカーボブスに狙いを定める。
途端、空中戦艦の後方から凄まじい砲撃が加えられた。
/
「砲弾を惜しむな! この戦いに我々の未来がかかっているんだ!」
南部独立解放軍主力戦艦のブリッジで、オリバーは全艦に向けて叫んだ。
「卑劣な侵略者に我々の誇りを見せてやれ!」
/
一方ブリーカーボブスのブリッジでは、パティとケイが次々と指示を飛ばしていた。
『長官、航行準備が整いました! いつでも発進できます!』
「よし!」
機関部からの報告を受け、パティは前面のモニターを見据えた。後方からの予期せぬ攻撃を受けたハイム空中戦艦が、態勢を整え反撃しようと慌てて転回してゆく。同時に、独立軍の砲撃を浴びて大破したばかりの部分が、無防備にもブリーカーボブス正面に曝け出された。
「今だ! 浮上と同時に攻撃開始! 全力で叩き潰せ!」
/
「バ、バカな……」
前後から集中砲火を浴び、爆炎に包まれてゆく空中戦艦を愕然と見つめるエンデ。
「だから言ったでしょ、エンデ。もう勝ってる……ってね」
アイズは哀れみさえ込めた口調で言った。
「ここにいたパティさんとケイさん、それから独立軍の人達。あんたがグラフ達に気を取られてる隙に……一度フジノに壊されてから戻ってくるまでの間に、みんなそれぞれの仲間のところに戻ってもらったのよ。ルルドの瞬間移動魔法でね」
「……くっ……ちくしょぉぉおおぉおぉぉっ!!!!」
絶叫と共に凄まじい稲妻を放出してアイズの棘を焼き尽くし、床に飛び降りたエンデがアイズに襲いかかる。
次の瞬間。
床を突き破って現れたアートがF.I.R-IIを一閃し、エンデを一刀両断した。
「アート!?」
ノイエとグラフが同時に声を上げる。
「ど……どうして……?」
上半身と下半身を切り離され、床に落ちるエンデ。
その前にしゃがみ込み、アイズはエンデに右手で触れた。
「バイバイ、エンデ」
瞬間、エンデの機体は無数の花びらとなって散った。
「終わったか……」
呟き、空を見上げて目を細めるフジノ。
今まさに墜落してゆく空中戦艦を見つめながら、しかしアートは、F.I.R-IIを握り締める手に力を込めた。
「……いや、まだだ」