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      第9話 ブリーカーボブスの戦い -交錯-

 

「くっ……!」

 弾き飛ばされて倒れ、起き上がろうとしたノイエの眼前に、スケアはL.E.D.の剣先を突きつけた。

「さあ、もうやめよう。これ以上の戦いは無意味だ」

「やめよう……だと? 自分と同じ顔をしているだけで傷つけることもできないのか? だから不良品だって言うんだっ!」

 ノイエの全身を覆う魔力がいっそう輝きを増す。

 自身の皮膚をも焼きかねないほどの過剰な魔力に包まれたその姿に、スケアはノイエのしようとしていることを悟った。

「まさか、自爆する気か!」

「そうさ。いくら空中要塞と言っても、僕の全魔力を爆発させれば必ず落とせる! これでメルクは終わりだ!」

 苦痛がないはずはない。

 それでもノイエは笑顔で勝ち誇った。

「貴様は確かに強いよ、僕達のオリジナルだけのことはある。だが、僕を止めるためには殺すしかない。貴様にそれができるか!?」

 再び襲いかかってくるノイエ。

 スケアは攻撃を捌きながら叫んだ。

「よせ! そんなことをして何になる!」




第9話 ブリーカーボブスの戦い -交錯-




 アイズ、トト、フジノは南方回遊魚の中で乙女話に花を咲かせていた。

「ところでクラウンって言えばさ、本当にイイ男ばっかしだよね。性格は置いといて……あ、勿論スケアさんは性格もいいけどっ」

「そうですね。あのフジノさんと同じ紅い髪の人、綺麗でしたね」

 楽しそうに手のひらを合わせるトト。


   /


「ルルド! あのクラウンを何処かに飛ばして!」

「む、無理だよ! あのクラウン3人共、パパと魔力の波長が同じなんだもん! ここからじゃ分離できない、もっと近づかなきゃ……わぁっ!」

 スケアの救出に向かおうとルルドを、アートの炎が遮った。

「邪魔しないでよぉっ!」

「それはこちらの台詞だ! ノイエの邪魔はさせない!」

 アートがF.I.R.を振り回し、炎と真空の刃が縦横無尽に翔け巡る。ルルドもカシミールもバリアで防ぐが、攻撃が激しすぎて進めない。

「貴方何を考えてるの!? 仲間が死のうとしているのよ!」

「黙れ! 我々クラウンはハイムの兵士だ、戦いに生き戦いに死ぬのみ!」

「スケアは私達の家族よ! 私はもう、好きな人を失いたくない!」

 カシミールが閃光発射の構えをとる。

「ふん! 所詮は女、兵士たる生き様の素晴らしさもわからないか!」


   /


「えーっ、トトってばあんなのがいいの? 性格悪そうだよー」

 アイズが嫌そうな顔をする。

「それより、あの同い年くらいの男の子、可愛かったよね。でも、何かスケアさんに似てたような」

「ああ、それは……」

「ん? フジノもあの子が好み?」

「え? えーっと、そう……かな?」

 昔のスケアと同じ顔だとは言えずに、返答に詰まるフジノ。

「あ、ところでさ、もう一人いたよね。ほら、深い緑色の髪の軽そうな奴」


   /


「ああ、俺もわかんないね!」

「何っ!?」

 突然グラフに蹴り飛ばされ、アートは外壁に叩きつけられた。一瞬遅れてカシミールの閃光が二人の間を貫き、近くの海に命中して巨大な水柱が立ち昇る。

 グラフは右腕を鎖に変えて放つと、ノイエを絡めて動きを封じた。

「ノイエ、作戦は中止だ! こんなところでお前が死ぬ必要はない!」

「何を言うグラフ! 僕達はクラウンだ、ハイムのために戦いに散る! それがすべてだろう!」

「冗談じゃない! そんな理由でお前達を死なせてたまるか!」

 普段は飄々としているグラフの声が、激しい怒気を帯びて辺りに響く。


   /


「そう言えばいましたねー。あんまり強そうじゃありませんでしたけど」

「いや、あの緑髪。あの3人の中じゃ一番できるな」

 フジノはグラフと戦った時のことを思い出しながら、トトの言葉を否定した。

「基本的な性能という点では、おそらく白髪の方が上だろうが……勘と言うか、いいセンスを持ってる」

「へー、そんなことまでわかるんだ」

「すごいですねー」

 感心するアイズとトト。

 フジノは少し照れながらも、確信を持って告げた。

「あの男、この先間違いなく伸びるぞ」


   /


「ならば貴様も不良品ということだ!」

 アートがグラフに斬りかかり、その一方で風の刃を放ってノイエを束縛していた鎖を断ち切る。

 グラフは右腕を盾にしてF.I.R.を防いだ。

「残念だ。お前のことは、同じ新型として能力を評価していたのに」

「……俺はお前達のことを、『仲間』だと思ってたよ……」

 ギリギリと力比べをしながら、グラフは静かに呟いた。


 ノイエとスケアの戦いは続いていた。

 流石に経験豊かなスケアの方が圧倒的に強く、ほとんどダメージを受けていない。

 しかし、最初から死を恐れていないノイエはどんなに攻撃を受けても怯まず、執拗にスケアを攻撃し続けている。

「まずいわね、このままじゃ本当に……でも、今ここから離れるわけには……!」

 戦艦を冷却しながら焦るオードリー。しかし、彼女は動けなかった。

 衝突のショックで動力炉が暴走しており、少しでも冷却の手を休めると爆発の危険があるのだ。小型とは言え戦艦の動力炉、爆発すれば周囲一帯を吹き飛ばす程度の破壊力はあるだろう。ノイエはそれを承知で、あえて戦艦ごと突っ込んできたのだ。

「パパを……パパを助けなきゃ」

 ルルドは何とかノイエだけを瞬間移動させようと試みていたが、動きが激しすぎて捉えられない。カシミールはルルドを抱えると、一旦遠くに離れた。

「いいルルド、よく聞いて。スケアには、あのクラウンを見捨てることはできないわ。あの人は、とても優しい人だから……だから私達がやらなきゃいけない」

 かつてフジノを死の直前まで追い詰めながら、それでも剣を退いたスケアを思い出し、ルルドは小さく頷く。

「貴女は瞬間移動で近づいて、スケアと一緒にもう一度瞬間移動する。そうしたら、私が全力であのクラウンを攻撃する。難しくて危険な役目だけれど、できるわね?」

「……うん」

 ルルドは真剣な表情で、もう一度大きく頷いた。


   /


「いやだ……」

「えっ? どうしたんだ、パティ?」

「また……みんな燃えてしまう……! いやだ……っ!」

「パティ? ……パティ!」

 ケイはパティの肩をつかんで揺すった。

「しっかりしろパティ、君は長官だろう? メルクを守るためにはどうすればいいか、冷静になって考えるんだ」

 パティは最初、ケイのことを幻でも見ているような表情で見ていたが、やがて唐突に我に返って目頭を押さえた。

「……そ、そうね……そうよね」

 パティはしばらく考え込んでいたが、やがて意を決したように顔を上げ、手元のマイクをつかんでケール博士を呼び出した。

 やがて南方回遊魚に回線が繋がると、パティは、叫ぶように言った。

「フジノ、お願い! 貴女の力が必要なの!」


   /


 パティの叫びと共に、アイズ達のいる部屋のモニターに、ケール博士が強制的に割り込ませた外部の映像が流れる。


 自爆しようとしているノイエ。

 懸命に説得を試みるスケア。

 そして何故か、味方同士で戦っているグラフとアート。

 カシミールとルルドは何かをしようとしているのだろうか、少し離れたところから状況を伺っているように見える。


「スケア……ルルド……」

 映像の中に大切な者の姿を見定め、フジノは糸に引かれるように立ち上がった。

「フジノ、行っちゃダメだよ!」

 思わずフジノの腕をつかむアイズ。

「今あそこに行ったら、また戦うことになるんだよ!?」

「アイズ……」

 フジノはしばらく無言だったが、やがて小さく微笑むと、アイズの手を外させた。

「……ありがとう。でも私は、スケアとルルドを助けなきゃ」

「でも、フジノさん」

 トトが悲しそうな瞳でフジノを見つめる。

「せっかくこうして私達、一緒にお話ができるようになったのに」


 その時、突然部屋の扉がノックされた。

 アイズが気を取り直し、「どうぞ」と短く告げる。

「失礼。フジノ・ツキクサさん」

 扉が開かれ、部屋に入ってきたのはコトブキだった。

「コトブキさん! どうしてここに?」

「貴女達のことが気になりましてね。少しお話でも、と思って来たのですが、少し声がかけ辛い雰囲気だったものですから……大変失礼ながら、先程のお話は聞かせていただきました」

「そうなんだ。じゃあ、コトブキさんも思うでしょ? フジノはもう、戦っちゃいけないんだよ!」

「アイズさん。ここは少し、この年寄りに任せていただけませんか」

 コトブキは優しくアイズを制すると、フジノに向かって尋ねた。

「フジノさん。貴女は“本当の戦い”というものがどういうものか、ご存知ですかな?」


   /


「アート、俺も戦いは嫌いじゃない! 嫌な奴をぶっ飛ばせば確かにスッとする! だがな、よく考えてみろ! 俺達は本当に正しいのか!? 俺達が殺そうとしている相手は本当に“悪”なのか!?」

「俺達クラウンは戦いのための人形だ! 研ぎ澄まされた剣のように、ただ敵を殺すことだけが生きるすべてだ!」

「剣にだって、持ち主を選ぶ権利があってもいいはずだぜ!」

 グラフとアートは、戦いながら激しく言い争っていた。

「俺はなアート、さっきはああ言ったが、戦いに生き戦いに死ぬというクラウンの生き様にケチをつける気はない! 俺だって、本当に価値のあるもののためになら戦って死ぬのも悪くないと思ってる! だけどそれは、俺自身の目で見つけたいんだ!」


   /


「……私は、ずっと自分が一番強いと思っていたわ」

 フジノはコトブキを真正面から見つめて言った。

「誰よりも多くの敵を倒せる力を持った自分が、世界で一番強いんだって……でも」

「でも?」

「でも、それは本当の強さや力じゃなかった。私が今までしてきたことは“本当の戦い”じゃなかった。そのことを、貴方達のホテルの支店長やアイズ、トト、スケア、カシミール……そしてジューヌ先生とアインスが教えてくれた。私の“本当の戦い”は……やっと今、始まったばかりなんだと思う」

 フジノの返答に、満足気な笑顔で頷くコトブキ。

 そのまま部屋を出ようとしたフジノの手を、アイズがもう一度つかんだ。

「フジノ! 貴女は私の友達だからね!」

 フジノはアイズの手を握り返した。

「アイズ、トト。貴女達との旅は本当に楽しかった。いつかまた……きっと3人一緒に、もう一度色んな場所を旅しよう」

 そしてフジノはアイズの手を離し、南方回遊魚の出口に向かって走っていった。

「……フジノ……」

「心配ないですよ、アイズさん」

 コトブキがアイズの肩を叩く。

「彼女は今、本当に“強い”人間になりましたから」


 そんな二人の背後では、トトが──いや、“もう一人のトト”が、誰にともなく呟いていた。

『罪の輪が……切れましたね』


   /


「今だっ!」

 スケアとノイエの間に突然現れたルルドに、二人の動きが一瞬止まった。

「ルルド!?」

「ちっ、瞬間移動か!」

 ルルドがスケアに抱きつき、そこにノイエが襲いかかる。ノイエの拳が二人を捉えるよりもわずかに早く、ルルドはスケアごと瞬間移動した。

 直後、

「食らえっ!」

 カシミールの閃光がノイエを襲う。

 しかし次の瞬間、信じられないことが起きた。カシミールの閃光が何かに弾かれ、軌道を変えて上空に消えたのだ。

 無事なノイエが手にしている剣を見て、カシミールがその理由を悟る。

「しまった、L.E.D.を……!」

 ノイエが手にしていたのはL.E.D.だった。ルルドが強引にスケアと瞬間移動した際、不運にもスケアの手を離れてしまったL.E.D.を奪われたのだ。

「はははっ、いい物を貰ったよ! こいつの力を上乗せすれば、更に威力が何倍にもなる!」

 ノイエの輝きが一層強くなる。


「やめろノイエ! 死ぬな!」

「黙れ不良品がっ!」

 ノイエを止めようと背中を向けたグラフを羽交い絞めにし、アートは叫んだ。

「やれ! やるんだ、俺達の勝利のために!」


「こうなったら……!」

 カシミールがツェッペリンを解放させ、


「やるしかない!」

 オードリーも戦艦冷却の手を一旦休め、ノイエを凍結させようと身構える。


「よせ、やめるんだーーーーっ!!!!!!」

 スケアが叫んだ──瞬間。




 辺り一面が、神々しい黄金の輝きに包まれた。




「自爆した!?」

「……いいえ違うわ、何処にも被害がない! この光は!?」

 混乱するケイとパティ。

「な、何なのあれ……と、撮りなさいよっ!」

 ケール博士の指示で外壁のカメラが一斉に光の中心を向き、ブリーカーボブスの全モニターの映像が入れ替わる。


挿絵(By みてみん)


 映し出されたのは、一人の少女。

 黄金の輝きを身に纏い、その背に光の翼持つフジノの姿だった。


   /


 トゥリートップホテルのメンバーはレムを連れ、ブリーカーボブス深部のシェルターに向かって進んでいた。地図を持つネーナが先頭を歩き、グッドマンがしんがりを勤め、支店長は眠るレムを乗せた車椅子を押している。

 と、支店長の肩に何かが落ちてきた。軽く跳ねた後、乾いた金属音と共に床に転がる。拾ってみると、それは小さなネジだった。よく見てみれば一本だけではない、周囲にも多くのネジが落ちている。

「……ネーナ、何か変だよ。止まった方がいい」

 支店長が一行を制止する。

 途端、ガシャン! と大きな音をたて、前方に伸びる廊下の天井から電灯が落ちてきた。驚く3人の目の前で、まるで何かがこちらに近づいてくるかのように、廊下の奥から順に次々と電灯が落ちる。

「な、何なの?」

 思わず怯み、あとずさるネーナ。

 その時、レムが突然目を覚まし、苦しげに呻いた。

「……やめて……姉さん……!」


 前方の天井が崩れ、落ちてきた瓦礫が廊下を埋める。

 電灯がないせいではっきりとは見えないが、落ちた天井の上には人影があった

 その人物が近づいてくるにつれて、周囲のネジが抜け、電灯が落ち、壁や天井が崩れ、廊下のカーペットもバラバラにほつれてゆく。

「この能力、まさか!」

 支店長が備品の懐中電灯で人影を照らす。

 そこには、長い髪で顔の左半分を覆った女性の姿があった。

「カルル姉様……!」

 ネーナが悲鳴に近い叫び声を上げる。

 その時、グッドマンの背後に別の人影が立った。

「カルルには近づかない方がいいわよ。それだけで分解されちゃうから」

「──ハイムの軍人か?」

 そこにいたのは、軍服に身を包んだ見慣れぬ女。

 油断なく身構えながらも怪訝な表情を浮かべるグッドマンの目の前で、軍人は──ハースィード・チェイス少佐は、ニヤリと唇の端を歪ませた。

 

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マリオネット・シンフォニーは週連載作品です。
更新は毎週水曜日を予定しています。

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作者ブログ 森の詞

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