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      第16話 戦争[中編]

2009/10/4

挿絵を掲載しました

 

「必ず、勝って迎えに行くよ」

 カシミールを抱き締めて、アインスは言った。

「ええ……信じているわ、アインス。貴方の勝利を」

「大丈夫だよカシミール。僕もついてるんだ、そう簡単に負けはしないさ」

 明るく笑うリードに、ペイジ博士が頼もしげに頷く。

「さ、そろそろ出発するぞ、カシミール。リード、後は任せた」


挿絵(By みてみん)


「父さんこそ気をつけて。モレロ、しっかり護衛を頼むぞ」

「わかってるって」



第16話 戦争[中編]



 リードランス王立研究所、屋上。

 国外に脱出していく飛行機を眺めながら、金髪の美しい青年が呟いた。

「皆、行ってしまうのですね。自分の道を、見つけ出して」

「ああ……そうだな」

 プライス博士は答えた。

「後悔なさっているのですか、父上? カシミールの改造を許可したことを」

「……ツェッペリンの封印場所として、これ以上は望めまい。正直寂しい気もするがね。カルル、レム、ネーナ、スフィーダ、ジューヌ……そしてモレロとカシミール。子供が成人して離れていく親の心境というのは、きっとこういうものなんだろうなぁ」

「まだ私もグッドマンもいるではありませんか。滅多に帰ってきませんけれど、リードにサミュエル、オードリーだって」

「お前も無理に私のもとに留まらなくてもよいのだよ、レアード。お前は充分に私に尽くしてくれた。アインス王子も立派に成長なされたし、これ以上皆の“兄”でいる必要もあるまい。少しくらいはジューヌを見習ったらどうだい?」

「末っ子なのに一番自我が強いですからね、あの子は」

 はねっ返りの強い末妹の顔を思い浮かべながら、レアードが淡々と呟く。

「そうですね、やりたいこと……なくはないのですが。本当によろしいのですか?」

「ああ、言ってごらん。できる限り力になるよ」

「そうですか。それでは……」



 ───280年 秋



 戦況はリードランスが優勢を保っていた。リードの活躍は目覚ましく、とうとうハイム軍を国境外に追い出すことに成功する。

 だが、そんなある時。


「何だと、リードが孤立した!?」

 非常連絡の通信を受けて、レアードは立ち上がった。

『はい! 野営しているところを、いつの間にか包囲されていたのです! 隊長は我々を逃がすために、単身敵の本陣に斬り込んで……!』

 血まみれの兵士が必死の形相で報告する。

「何ということだ……!」

 レアードはすぐに別の通信に切り替えた。

「サミュエル、オードリー! すぐに出るんだ! 任務内容はリードの救出、急げ!」


 リードは戦っていた。たった一人で、実に千を越える軍勢と死闘を繰り広げていた。

 だが戦いの最中、リードを一つの魔法弾が襲い、L.E.D.が弾き飛ばされてしまう。L.E.D.を受け止めたのは、ハイム軍の鎧を身にまとった燃えるような赤毛の少女……フジノであった。

 L.E.D.を失ったリードに向かって、ハイムの軍勢が殺到する。


「何だって!?」

 モレロは耳を疑った。

「嘘だろ……まさか、あのリードが……!」

 愕然としながら、モレロは目前のモニターを見る。

 そこにはレアードの映像と並んで、カシミールへのツェッペリン封印手術の様子も映し出されていた。

「……姉さんに何て言えばいいんだよ……!」


 救助隊に所属するサミュエルは、地面に転がっていた腕を拾い上げた。わずかに躊躇した後、所持していた短剣で腕の筋肉を切り裂く。そこには、人間の物ではありえない、金属光沢を放つ骨が見えていた。

 がくりと膝をつくサミュエル。

 そこに、彼のパートナーであるオードリーがやってくる。

「これが……近くの池の中から発見されたわ」

 彼女が手にしていたのはL.E.D.だった。

「多分リードは、己の敗北を悟った時点で、これだけは奪われてはならないと判断したんじゃないかしら。だから池の中に隠した……」

 悲痛な表情で呟くオードリー。

 だが、真実はそうではなかった。

 真実を知る者……フジノは、サミュエルとオードリーから離れたところでリード捜索の手伝いをするふりをしながら、密かに唇をニヤリと微笑ませた。


 リードランス王国に、冬が訪れようとしていた。



 ───281年 春



 ハイム軍が再び国境の砦に押し寄せてきた。

 国境警備にあたっていたのは元リードの隊であり、当時3人しか残っていなかった円卓騎士の一人を新しい隊長にしていた。

 また「リード隊長の仇は我々がとる!」と、かなり士気が高かった。そこにハイム軍の襲撃である。

 国境警備隊は、何人たりとも通さない確固たる意志で戦いに望んだ。

 ……だが。

 軍勢を遥か後方に控えさせ、少数の剣士と思われる人影のみが近づいてくる。その姿をはっきりと確認した途端、

「ま、まさか……そんな!」

 彼らは驚愕に目を見開いた。


 わずか半刻の後、開戦の時と同様に、国境警備隊は全滅した。

「奴ら……奴ら、リード隊長を……っ!」

 という、一人の兵士による通信を残して。


 ハイムの軍勢は、砦を陥落させただけで去っていった。増援部隊が現場に到着した時には、敵の影も形もなかった。

 砦の中は異様な光景を見せていた。大勢の人間が立ち入った形跡はなく、ただ兵士達だけが確実に、ほぼ一撃のもとに殺されている。それは戦いの跡ではない、一方的な殺戮の跡であった。

 新任の隊長である円卓騎士の死体も発見された。

 だが彼の剣には敵を斬った形跡があり、また命を失いながらも一本の腕を抱えていた。

 そして……。


「……やってくれ」

 アインスは言った。

 彼の目前には、テーブルの上に置かれた一本の腕がある。『CROWN:02』という刺青が入っているその腕は、新任の隊長を務めていた円卓騎士が命と引き換えに斬り落とし、増援部隊が持ち帰ったものだった。

 オードリーが頷き、腕の筋肉を短剣で切り裂く。

 その奥から姿を現したのは、人間の物ではありえない、金属光沢を放つ骨。

 アインスが、オードリーが、表情を凍らせた。


 戦況は再びハイム軍が有利となった。国境の砦から次々と全滅の報告が届き、リードランスは丸裸にされていった。そしてすべての通信には、必ず『クラウン』の名があった。

 クラウン・ドールズ……それはハイムに回収されたリードの身体を複製して造られた、量産型リードとも言える殺人兵器だった。その戦闘能力は個体差こそあれオリジナルであるリードに追随し、比較的弱いものでも、リードランスが世界に誇る騎士が3人がかりでやっと互角に戦えるほどであった。

 この事態に、アインスは一つの決断を下す。


 一日の雑務を終えて自室に戻る前に、アインスは一つの部屋を尋ねた。

 アインスが扉を開けると、部屋の中にいた紅の髪の少女……フジノが、スッと目を上げた。


 同時刻、ハイム研究所。

 白衣の科学者が扉を開けると、部屋の中にいた栗色の髪の少年が、スッと目を上げた。

「出番だぞ、スケア。明日から君も参戦だ」


 他のクラウン達と共に、スケアは戦いに明け暮れた。

 数えきれない命を奪い、敵には恐怖を、味方には畏怖を抱かせた。

 そんなある日、砦を一つ陥落させて前線基地に帰ってきたスケアは、No.8『カレオ』とNo.12『コルティナ』からの通信が途切れた連絡を受ける。そこでスケアは脳に内蔵されている通信機を使い、後続部隊にいるクラウンのリーダー的存在であるNo.3『バジル』に再出撃の報告をする。

「あいつらのことだからさぁ、何処かで適当に楽しんでるんじゃないの? 行くだけ無駄だってば」

 バジルは言ったが、スケアは二人の通信が切れた地点に向かった。


「ひどいな……」

 スケアは呟いた。

 そこは元リードランス側の砦で、周囲にはハイム軍の残骸、死骸が多数転がっていた。にも関わらず、大軍勢が押し寄せた形跡はない。

「この短時間でここまで徹底的に壊滅させるとは。騎士団の仕業か……?」

 砦の内部に入ったスケアは二階へ。そこには床一面の兵士の死体に加えて、カレオとコルティナの骸。そして、一人の少女がいた。

「うーん、持って帰ってこいって言われてたけど、なんかヤだなぁ、これ運ぶの。あ、でもちゃんと言われた通りに持って帰ったら、アインスが誉めてくれるかも?」

 気配を断って近づいてきたわけでもないのに、少女はスケアの方を見向きもしない。その態度が、スケアに少女の実力を見誤らせた。

「ここで何をしている。何があったんだ?」

 スケアは乱暴に少女の肩に手をかけた。

 少女が振り向き、

「邪魔」

 とスケアの手を振り払う。

 瞬間、スケアは手に激痛を覚えて後方に跳躍した。慌てて見ると、なんと手首が折れ曲がっている。

「き、貴様! 騎士か!?」

「違うよ、『勇者』だよ」

 フジノ・ツキクサは微笑んだ。


 スケアはフジノに手も足も出なかった。戦闘速度の高さや強大な魔力を備えているというのも勿論だが、それらの点ではスケアとフジノの実力は拮抗していた。

 彼女の最大の強さは“迷いのなさ”だった。相手を傷つけることに躇いが、動作に無駄がない。まるで最初から決められた踊りを舞うように、最短時間に最小の動きで最大の効果がある箇所を攻撃してくる。

 スケアは思った。これこそが戦いの理想形態ではないだろうか、と。

 フジノの蹴りで壁に叩きつけられ、動けなくなるスケア。だがスケアには、彼女に対する憎しみはなかった。彼女になら殺されても構わない、と本気で思った。

 スケアの顔を覗き込み、フジノがささやく。

「ねぇ……あたしって、強いよね」

 素直にそれを認めるスケア。フジノはニッコリと笑ったが、すぐに少し悲しそうな表情になった。

「アインスがね、戦っちゃダメだって言うの。戦うことより、君には相応しいことがあるはずだ、って。変だよね、あたしはアインスのために戦ってるのに。あたしが戦うことが、アインスのためになることなのに……」

 スケアはまったくその通りだと思った。どうしてこの少女と共に戦える権利を放棄するのだろう。できることなら、そのアインスとかいう奴の代わりになりたいくらいだ、と。


 そう、アインスの代わりに。


「悪いけど、アインスのために死んでもらうわ」

 フジノがとどめを刺そうとする。

 しかしフジノのためならばともかく、スケアはアインスという者のためには死にたくなかった。

「嫌だ、僕は君と……」

 スケアがフジノに抵抗しようとした、その時。


「はーい、囚われの王子様? 貴方の騎士がお迎えに参上しましたよ。……なーんちゃって」

 部屋の入り口に立っていたのはバジルだった。


「……すまない、バジル」

「いいってことよ。それにしても、化け物かあの女の子は……イテテテ」

 バジルはフジノの手からスケアを救出し、砦から逃れていた。右目を押さえる手の下から赤黒い血が流れ出ている。

 スケア救出の代償として、バジルは片目を失っていた。


 バジルに背負われながら、スケアは考え続けた。





 どうすれば彼女を手に入れられる? どうすれば彼女と共に戦える?




 

 

【リード】

挿絵(By みてみん)

 プライス・ドールズNo.12。設定年齢20歳。

 翠緑の髪と瞳。ドールズ唯一の戦闘型として特に強靭な機体を与えられ、体内には魔力炉を有していた。

 リードランス王国では近衛隊長の任に就いていたが戦死。クラウン・ドールズのオリジナルとして利用される末路を辿る。

 名前の由来は古代リードランスにおける『戦いと勝利の守護者』聖リード。


【レアード】

 プライス・ドールズNo.04。設定年齢20歳。

 金髪翠眼。ドールズ初の成功例であり長兄。

 プライス博士から頭脳の複写を受けており、助手の任務に携わる傍ら、ネーナが国外に脱出してからは中央管制室長の任にもついていた。

 後期ナンバーズの中には、彼が創造過程の一部を手掛けたものもある。


【サミュエル・トール】

 プライス・ドールズNo.08。設定年齢25歳。

 リードランス王国ではオードリーと共に救助隊に所属していた。

 名前の由来は古代リードランスにおける『出発と開拓の守護者』聖サミュエル。


【オードリー・トール】

挿絵(By みてみん)

 プライス・ドールズNo.09。設定年齢25歳。

 リードランス王国ではサミュエルと共に救助隊に所属していた。

 名前の由来は古代リードランスにおける『成功と繁栄の守護者』聖オードリー。


【バジル・クラウン】

挿絵(By みてみん)

 クラウン・ドールズNo.03。設定年齢21歳。

 漆黒の長髪が特徴。

 スケアの『風』のような特殊能力はないが、ずば抜けた身体能力と戦闘センスを誇り、初期型でありながらクラウン最強と言われた男。

 

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マリオネット・シンフォニーは週連載作品です。
更新は毎週水曜日を予定しています。

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作者ブログ 森の詞

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