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第一章 第1話 エコーデリック

2009/10/3

挿絵を掲載しました

 




 ───280年 夏


 リードランス王国 中央管制室





「どうだい、ネーナ」

「ダメです……やはり通じません。通信が途絶えてから、もうすぐ1時間……どうやら回復の見込みはなさそうですね」

 中央管制室長ネーナ・ブロッサムは、機器を操作する手を休めて答えた。

 彼女の背後には二人の男性がいる。40歳程度の落ち着いた壮年と、30歳前後のまだ若い男だ。

「もうじきグッドマンが現場に到着するはずだ。そうすれば、何かつかめると思うのだが……おっと、噂をすれば、だ」

 落ち着いた壮年の言葉に重なるように、呼び出し音が鳴り、モニターの一つに精悍な青年の顔が現れる。

『これはやばいですよ、父さん。国境警備隊が全滅しちまってるんです』

「な……全滅!? どういうことだ!?」

 まだ若い男が思わず声を荒げる。

『ここに来る途中、城に向かっている武装した連中を見かけました。多分奴らの仕業じゃないかと……見て下さい』

 グッドマンの顔が消え、砦の悲惨な状況が映し出される。

「グッドマン、すぐにそいつらの元に向かって頂戴。こちらの態勢が整うまで、できる限り足止めをお願い」

『おいおい姉ちゃん、俺の力を信用してねぇな? あんな奴ら、俺一人で蹴散らしてきてやるよ』

 ネーナの言葉に笑って答え、グッドマンは通信を切った。


 数時間後、グッドマンが全身傷だらけになって帰還する。

「冗談じゃねぇぜ、あいつら10万を越える大軍勢で押しかけてきやがった……!」





 リードランス大戦 勃発









 ───280年 秋


 リードランス王城内 廊下





「これ、何?」

 蒼髪の青年から一枚の書状を受け取って、紅の髪の少女は言った。

「救助隊の隊長に宛てた紹介状だよ。フジノ、君には今後、負傷兵の救助を中心とした任務についてもらう」

 青年が気乗りしない様子で答える。

「救助? 戦いじゃなくて?」

 不服そうな少女。

「そうだ。正直なところ、君には早く避難してほしかったんだが……そうも言っていられなくなった。ついさっき、プライス博士に呼ばれてね。ラトレイアが、息を引き取ったそうだ」





 リードランス王国騎士団長


 ラトレイア・アメティスタ 死亡









 ───280年 冬


 リードランス王国 中央管制室





「何だと、リードが孤立した!?」

 非常連絡の通信を受けて、金髪の青年が立ち上がった。

『はい! 野営しているところを、いつの間にか包囲されていたのです! 隊長は我々を逃がすため、単身敵の本陣に斬り込んで……!』

 血まみれの兵士が必死の形相で報告する。

「何ということだ……!」

 青年はすぐに別の通信に切り替えた。

「サミュエル、オードリー! すぐに出るんだ。任務内容はリードの救出、急げ!」





 リードランス王国近衛隊長


 リード 死亡









 ───281年 秋


 リードランス王国ハイム領『北の都』 王国軍総司令官寝室





 蛇腹状の剣をゆっくりと構え直し、蒼髪の青年は尋ねた。

「君は、“生きる”ということがどういうことか、考えたことはあるかい?」

「戦うことだ」

 黒塗りの剣を携えた小柄な少年が、まだ幼さを残した声で即答する。

「貴様を殺してフジノを手に入れる……そして二人で永遠に戦争を続けるんだ!」





 王家最後の蒼壁


 アインス・フォン・ガーフィールド 死亡









 ───11年後









第1話 エコーデリック



 密輸船【イート・イット号】の操舵士、ルーカス・アルビコックは、機関室の窓から遥かなる大空を見つめた。

 淡灰色の瞳に映るのは、何処までも高く澄み渡り、一点の曇りもない空。

 ……今の俺の心境とはえらい違いだ。

 ルーカスは大きく溜息をついた。見事な赤毛をぼりぼりと掻き毟り、冴えない足取りで機関部の点検作業に戻る。


 イート・イット号は現在、高度10000メートル付近を飛んでいた。

 彼の船は全長20メートルほどの小型の貨物船だ。後方の6メートルほどが推進用のエネルギー噴出部にあたり、残りの殆どを貨物室と機関室が占めている。

 古い船だが、小回りが利くし偽装もしやすい。密輸船としてはもってこいだ。

 それでも昨日の仕事はやばかったな、とルーカスは思う。

 昨夜から機関室の点検を続け、幾つかの場所でオイル漏れを見つけた。内側からでは確認できないが、外壁にも剥がれている箇所があるだろう。

 よくもまあ逃げきれたものだ。

 あの悪夢のような追撃。戦争中の対空砲のほうがまだ可愛げがある。噂には聞いていたが、あそこまで凄まじい所になっているとは思わなかった。


 今回の彼の仕事は、とある国から一枚の設計図を持ち出すことだった。

 その国の名はハイム共和国。十年程前の内戦で新たに誕生した、精密機械工業や重工業の分野で世界一の技術を誇る国だ。周囲は海に隔てられ、一部の企業が工業製品を輸出していることを除けば外界との接点はほとんどない。

 特に技術面での交流は皆無に等しく、ハイムの突出した科学技術の実態は全くの闇に包まれている。

 今回ルーカスが持ち出したのは、そんな技術の一つだった。


 荷物が設計図一枚で助かった。これが大荷物だったら大損だったところだ。

 機関室から貨物室へと続く扉を開け、ルーカスはまたも大きく溜息をつく。ただでさえ狭い貨物室が、大口径の貫通弾に撃ち抜かれて大破している。

 俺みたいなコソドロ相手に撃つもんじゃねぇな。もう一つの予定外の荷物も小さくて助かったぜ。

 ルーカスは貨物室の隅に目をやった。

 その『予定外の荷物』は、小さな船内の一つしかないベットの上を占領していた。


「……いい加減に起きやがれ」

 ルーカスは毛布に包まっている荷物を靴の先で軽く蹴飛ばした。

 荷物が小さなうめき声を上げ、薄く目を開く。


挿絵(By みてみん)


「あ……おはよう」

 荷物は──少女は目を擦りながら呟くと、一つ大きなあくびをもらした。

「昨日はよく眠れた?」


 あいつは一体何なんだ?

 ルーカスは操縦席に座りながら考えた。

 予定外の荷物をこのまま乗せていくわけにはいかない。機体の損傷も激しいし、航路を変更して何処かの港に寄らなければならないだろう。この辺りで目立つことなく安全に入港できる所となると……。

 と、目の前に何かが差し出され、ルーカスは驚いて顔を上げた。

 見ればあの少女が、紅茶の注がれたカップを両手に屈託なく微笑んでいる。

「昨日は徹夜だったんでしょ? 目覚ましの紅茶よ」

「……勝手に台所を引っ掻き回すんじゃない」

 ルーカスが文句を言うと、少女は小さく肩をすくめて答えた。

「ごめんなさい。もう朝食の準備もしちゃったわ」

 呆気に取られたルーカスが次の言葉を口にする間もなく、飲まないの? と自分のカップを傾ける。ルーカスが差し出されたカップを受け取ると、少女はにっこりと微笑んだ。

「用事が終わったら来てね」

 言い残し、そのままブリッジを出て行く。

「……朝食ね……」

 空のカップを片手にキッチンに向かう少女の肩越しに時計を見やり、ルーカスは今日何度目かの溜息をついた。


 こいつは一体何者なんだ?

 少女の作った『朝食』を食べながら、ルーカスは再び自問自答を繰り返した。

 いや、実際にはわかっている。彼女は密出国者だ。それも、ルーカスが知る限りでは史上初めての密出国者。

 ハイム共和国では民の出入国を禁じている。数少ない外交会議や海外企業との商談でもない限り、ハイムの民が国外に出ることはない。

 詳しくは知らないが、ハイムは共和国とは名ばかりの徹底した身分制度によって国民を管理しているそうだ。この少女はそんな国政に嫌気がさした下級層の国民なのか、それとももっと別の何かなのか?

 テーブルに並べられた料理に目を落とす。あの狭いキッチンと寄せ集めの食材で、よく短時間のうちにこれだけのものが作れたものだ。一人で生きていくだけの技術は身につけていると見ていいだろう。行動力があり、肝も据わっている。

 いくらなんでも、この年で追っ手のかかった政治犯やテロリストと言うわけではないだろうが。

「どう? 美味しい?」

「ん? ……ああ。うまいな。少なくとも俺の作った料理よりは」

「……何か褒められてる気がしないんだけど」

「そうか?」

 ルーカスの張り合いのない応答に、少女が軽く肩をすくめる。

 と、窓から明るい陽光が射し込み、外を見た少女は歓声を上げた。

「うわぁ……! すっごく綺麗な空ね!」

「そりゃそうだ。なんせ上空10000メートルだからな……ごちそうさん」

 ルーカスは食事を終えると、食器を片付けながら続けた。

「空は高く昇れば昇るだけ綺麗に見える。邪魔な雲は足元だからな、ぼやけて見えることもねえってわけだ」

「私の国なんか、いつもスモッグで曇ってるよ」

「そりゃあ良くねえな。綺麗な空が見えないんじゃ人生楽しくねえだろ」

「うん……少し前までは、そんなこと考えたこともなかったけどね」

 眩しそうに目を細め、少女は空を眺め続けている。

 ルーカスは食器を洗う手を止め、尋ねた。

「……で? お前は何者なんだ?」


「私はアイズ・リゲル。ハイムの特別市民よ」

 少女は答えた。

「特別市民?」

「第一市民より上の階級のこと」

 少女──アイズの返答は、ルーカスが予想していたものとはかなり異なっていた。察するに、一応は民主国家で君主のいないハイムでは最高の階級ということになる。

「その特別市民とやらのお嬢さんがどうして密出国なんかしたんだ?」

 ルーカスは尋ねた。

「あの国のことはよく知らねえが、豊かな国だろ? 下層の国民ならともかく、生活に不満はねえはずだ」

「そうだろうね。ハイムの生活水準は世界一だってよく宣伝してたしね」

「だったら、どうして国を出た?」

 アイズは少し黙っていたが、やがてもう一度窓の外を眺め、呟いた。

「そうだな……空が見たかったからかな」

「空が?」

「そう、いつも見てるのよりもっと広い空が。それに、まだ知らない国や人をね」

 アイズは微笑んだ。


「あの国はひどい所よ。すべてが与えられているけど、すべてがない」

 アイズが自分の国のことについて話し始めたのは、夕食を終えてくつろいでいるときのことだった。

 既に日は落ち、暗闇が空を覆い尽くしている。二人がかりで片付けてどうにか落ち着けるようになった貨物室の中、薄ぼんやりと輝く明かりに照らされた少女の貌からは、昼間の快活な面影は微塵も感じられない。

「世界一の環境とか言いながら、実際は私達を甘やかして管理してる。たった一つの国政機関とたった一つの情報機関……たった一つの考え方。そして私達は外の世界のことを何も知らない。自分達でそれを選んでるのよ。安楽な生活と引き換えに自分で物事を考えることをやめているのね」

 アイズは自嘲気味に呟いた。

「私達は飼い馴らされた動物と同じなのよ。不満があれば鳴いて騒げるけど、結局は檻の外へは出してもらえない。私は特別市民の子供として他の人より多くの物を与えられたけど、自分で手に入れたものは何もないって気づいたの」

「だから密輸船に忍び込んで密出国か? 無謀だな」

「あんまり回りくどいことを考えられない人間なのよ」

 アイズは微笑んだ。

「それは俺も同じだけどな」

 ルーカスは蒸留酒の入ったグラスを傾けた。

「そう言えば、おじさんの名前をまだ聞いてないわ」

「俺の名前はルーカス・アルビコック。何処までもオリジナルな空の男さ」

「オリジナル……か。いい言葉だね」

 アイズは微笑んだ。

「ところで、エルパニアの人が自分の名前を名乗ったってことは、私をこの船に乗せてくれるってことだよね?」

「…………!」

 ルーカスは表情を硬くした。

「変わった習慣よね、エルパニアって商業国家でしょ? 信用第一の商人が、取引相手にも本名を教えないなんて」

「……さっきのが本名とは限らねえだろう。第一、俺がエルパニアの人間だとどうして言える?」

 先程の『オリジナル』という言葉、あれはエルパニア特有の表現だ。自己を確立している、突出している、他の誰にもない自分だけの能力がある、などという意味を持っている。個性を大切にするエルパニアにおいては最高の褒め言葉であり、自らに用いることは自信の証明でもある。

 だが、この言葉の意味を知っていただけでは、ルーカスがエルパニアの民だという確信には結びつかないはずだ。

「だって貴方、これでもかってくらいエルパニア系民族特有の顔立ちをしてるわ」

 ルーカスの疑念をあっさりと吹き飛ばし、アイズが可笑しそうに笑う。

「それに少なくとも、普段使っている名前とは違うわね。それとも貴方は密輸品の受領書に本名でサインするわけ?」

「そんなところまで見てたのか」

「さっき偶然目に留まっただけよ」

 アイズはにっこりと笑みを浮かべた。

「貴方偽名は一つしか使わないのね。シンプルすぎるのも考えものよ」

 ルーカスは酔いが覚めていくのを感じた。

「ハイムの人間が他国の習慣を知っているとは思わなかったな」

「学校で習ったわけじゃないわ、家庭教師に教えてもらったの。でも良かった。私、いつ船から外に放り出されるかわからないし、変な所に売り飛ばされるんじゃないかって思ってたわ。でも、エルパニアの人は本名を名乗った相手に失礼は働かないのよね?」

「……ああ、その通りだ」

 ルーカスが苦笑交じりに呟くと、アイズはもう一度にっこりと笑った。

「そろそろ寝るわ。お休みなさい」


 アイズが貨物室の隅にあるベッドに潜り込むと、船内は急に静かになった。見慣れたはずの貨物室が、古ぼけた照明に彩られてやけに寂しく見える。ルーカスは空になったグラスに蒸留酒を注ぐと、一息に飲み干した。

 大した奴だ。まだ小娘だと思って油断していたら、完全にしてやられた。

 しかし、ルーカスは怒りも後悔もしてはいなかった。何故なら、自分が本名を名乗ったのは事実なのだから。何も知らない小娘だと思っていたにせよ、自分が下した判断を間違っているとは思わない。


 ルーカスは操縦席に戻った。どうも機体が安定していない。

 今夜も徹夜になるかもしれない。

 まあ、それもいいだろう。夜は星が綺麗に見えるし、あいつにベッドを貸してやる口実ができた。

 ……それにしても。

「本当に変わっちまったんだな……リードランスは」

 アイズの話を思い出し、ルーカスは小さく呟いた。


 翌朝。

 徹夜明けで少しまどろんでいたルーカスは、突如として吹き荒れた大音響の嵐に飛び起きた。

 船内に取り付けてある緊急用アラームでもこれほどの音は出ない。最初は空中海賊か国際警察でも襲ってきたのかと思ったルーカスだが、少し頭が冴えてくると、それが最近話題のグループの歌であることに気がついた。

 悪くない歌だが、いくら何でも音が大きすぎる。

 頭痛が起こり始めたルーカスは、音源と思われる貨物室に向かって叫んだ。

「アイズ、でかい音を出すな! うるさい!」


「ごめんね。私、音楽好きなのよ」

「戦争中継が好きなのかと思ったぜ……」

 ルーカスが嫌味たっぷりに言うと、アイズは申し訳なさげに微笑んだ。

 テーブルの上には小さなラジオが置かれており、今は小さな音量で歌が流れている。

「ハイムで放送される音楽って生温い音楽ばかりでさ。一度外の音楽を拾ってみたいってずっと思ってたの。だって、中からは全然聞こえないんだもの」

「あの国の周りには電子防壁が張り巡らされているからな」

 ハイムの電子防壁については自分もよく知っている。ハイム共和国全体を完全に海外から遮断する電子の壁……外との連絡が全く取れないというのは、忍び込んだネズミにとっては恐怖以外の何ものでもない。

「やっぱり外は電波の受信がいいわね。すっごくよく聞こえるわ」

 アイズは嬉しそうにラジオをいじっていたが、やがて何かに気づいたように眉をひそめた。

「ねぇ……気のせいかな、さっきから音楽番組しか入らないんだけど」

「何言ってんだ、当たり前じゃねぇか」

 逆に怪訝そうな顔をしたルーカスが、すぐに「ああ」と手を打つ。

「そうか、ずっとハイムにいたんだからな。知らないのも無理ねえか。それは電波の飛び石の影響だ」

「電波の飛び石?」

「ああ。通常の電波はたいして遠くには届かねえんだ。せいぜい1000キロかな。だが歌を乗せた電波だけは世界の反対側までだって届くのさ」

 それを聞いて、再びラジオをいじり始めるアイズ。

「本当だ、歌が終わったら受信しなくなってる。ねぇ、どうしてこんなことが起きるの?」

「原因は未だに解明されちゃいない。俺は精霊説を信じてるけどな」

「精霊説?」

「ああ」

 ルーカスはこともなさげに言った。

「風の精霊達は歌が好きなんだよ。だから歌を乗せた電波だけは、世界中に届けてくれるのさ」

「へぇ……」

「何だよ。何か変か?」

 アイズは、ううん、と微笑んだ。

「とっても素敵な考え方だと思うわ」


 その時、異常が起きた。ラジオが激しいノイズを撒き散らしたかと思うと、機体が大きく揺れ始めたのだ。

「な、何!?」

「まずい、エコーデリックだ!」

 ルーカスは立ち上がって叫んだ。


 何もない空間に閃光が迸る。

 それは瞬く間に視界全体を埋め尽くし、ある一点に向かって渦巻いた。

 先程までの穏やかな青空が一転し、光と轟音の世界に変わる。

「ねえ、エコーデリックって!?」

「空にできる落とし穴みたいなもんだ! それよりしっかりつかまってろ!」

 アイズに身体を抱えさせ、ルーカスは操縦桿を握り締めた。

「……綺麗……」

 アイズは窓の外を見ながら呟いた。

 一面の空が七色に輝く火花を放ちながら渦を巻く。それは幻想的で美しい光景だった。

「余裕あるじゃねえか!」

 ルーカスの苦笑混じりの声は轟音に掻き消され、アイズの耳には届かなかった。


 アイズはじっと窓の外を見つめ続けた。

 目の前に広がる幻想的で……しかし恐ろしい光景を。

 今までのようにテレビの画面で見ているんじゃない。実際に今、自分がその中にいる。

 アイズは震えていた。

 恐怖のためではない。これから始まる自分の旅を感じたからだ。

 そうだ。今、自分の旅は始まろうとしているんだ。


 床に転がったラジオは強烈な磁場の乱れに巻き込まれて沈黙していたが、ふと一つの音色を奏で始めた。

 それは幽かな歌声。

 閃光と轟音に支配されたエコーデリックの中で、ラジオは一つの歌声を受信していた……。

 

 

【アイズ・リゲル】

挿絵(By みてみん)

 本編の主人公。14歳。

 短く切り揃えた黒髪に黒い瞳。

 ハイム共和国の最上位階級である特別市民の一人。

 偶然ハイムに侵入していた密輸業者、ルーカスの船に忍び込んで密出国した。


【ルーカス・アルビコック】

 密輸船イート・イット号の操舵士。34歳。

 商業国家エルパニアの出身で空軍に在籍していたが、かつての戦争終結と同時に引退し、密輸業を始めた。


【電波の飛び石】

 世界七不思議の一つ。

 歌を乗せた電波だけは、通常とは比較にならない距離の交信が可能となる現象。

 原因には諸説あるが、風の精霊が関与しているとされる精霊説が広く知れ渡っている。


【エコーデリック】

 世界七不思議の一つ。

 空中に突然膨大な量の稲妻が生じ、一点に流れ込む現象。上空で起きやすい。

 一説では、一点に流れ込んだ稲妻は空間移動して別の何処かに出現するという。

 

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マリオネット・シンフォニーは週連載作品です。
更新は毎週水曜日を予定しています。

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作者ブログ 森の詞

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