理想の未来
「やっと完成させたぞ...。」
ここ数日間、研究室に引きこもっていたS氏は遂に完成したタイムマシンを見て歓喜の声を上げた。
「さて、使ってみるとするか。」
中には、「過去」と書かれたボタンと「未来」と書かれたボタンが着いている。どちらかを押しあと、日、週、月、年を選び最終決定ボタン(誤操作しないようにカバーが着いている)を押して過去か未来かに飛ぶことが出来るのだ。
「まずは未来に行くとしよう。まぁ30年後くらいでいいだろう。」
そう言ってダイヤルやらボタンやらを操作し、カバーを外す。
「ピッ」
いかにもSFチックな、S氏が興奮するような電子音が流れたあとガラスの外は光よりも早い速度で時が流れていた。
..........
「成功なのか...?」
ガラスを外して辺りを見るとそこは素晴らしい景色だった。
先程の時代よりも遥かに高いビルが立ち並ぶ街。空を鳥の如く飛び回る車。明らかに地球の者ではない生物が営むお店。その全てがS氏の神経を高揚させた。
「これが未来...。まさに理想の世界だ!」
しかし彼の目には彼自身には見えないグラスが掛けられていた。
ひとたびそのグラスを外すと世界はグルっとひっくり返したような光景だった。
破壊され燃え続ける郊外。悪政が続くあまりにも薄汚い王都。捕虜となり枯れ果てた畑を耕そうと、ガリガリの腕を動かす異星人。それを嘲笑う地球人たち。
そんな光景を夢にも見ずにS氏はただ、彼自身の理想の未来を見続けるのであった。