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毛布を被る

 私はその夜、茂みの影で夜を過ごしました。季節は春であり、寒さも大したことはなかったので、常に外で過ごしている私にとっては問題なかったのですが、次の日の朝に私が野宿をしたことに気付いたガラン隊長は、笑いながらこうおっしゃいました。


「ああ、そうだった。お前の寝るところも確保しないとな。兵士達はお前と一緒だと嫌がるだろうから、お前は今夜からとりあえず俺と同じテントで寝ることにしろ。良いか?」


「……あ、ありがとうございます」


 私は、この隊長が私を普通に人間扱いしてくださる事に、少しばかり驚いてしまっておりました。


 部隊は、小刻みに休憩をはさみつつ、ゆっくりと進軍しました。


 途中、魔物に遭遇することもございましたが、兵士達は何しろ数が多いものですから、魔物達を難なく退治しておりました。怪我人も多少は出ておりましたが、回復の魔法を使える神官も部隊に同行しており、問題はございませんでした。


 二日目の夜、私はガラン隊長のテントの隅で寝かせてもらう事が出来ましたので、久し振りに……本当に久し振りに、雨露をしのげる所で、毛布を被って寝る事が出来たのでございます。


「ほら、これはお前の分の毛布だ。使うといい」


「あ……有難うございます……」


 私は、ガラン隊長から無造作に投げてよこされた毛布を拾い上げると、その毛布を両手で抱え、彼に向かって礼を申し上げました。


 その時、隊長の横に控える副隊長の男が、礼を言う私を睨みつけながら隊長に向かって口を開きました。


「こんな奴、そこら辺にでも寝かせておけば良いのですよ。今はそれほど寒くはないのですから、凍死の心配もしなくても良いでしょう。こんな大罪人に毛布など、全く隊長も甘いと言うか、ぬるいと言うか……」


 彼の名は、シーレンと言いました。


 彼は以前、戦友を私に殺された事があるとの事で、私に向かって敵意を隠そうともせず、常に私の悪口を言っていました。


「……で、でしたら……毛布はお返しします……」


 私がそう申し上げて、細く弱々しい手で毛布を持ち、ガラン隊長の方に差し出しましたところ、彼は笑って私に向かって手を振り、私が毛布を返そうとするのを制しました。


「ああ、良いんだ良いんだ、なあシーレン、こいつに毛布くらい使わせてやったっていいだろう。こいつが風邪を引いて道案内に支障が出たら、困るのは俺達だぞ? それに……」


 ガラン隊長は、少しだけ生えているあごひげを撫でながら、その後の言葉を続けました。


「こいつにちゃんと食事を与えて、睡眠もちゃんと取らせる……そうやってしばらく経てば、こいつも自分で歩けるようになるだろうよ。そしたら馬をこいつの為に使わなくて済むようになるだろうし、逆にこいつの労働力に期待することもできるかも知れん……なあ、シーレンよ、俺はただ優しくしてるって訳じゃあねえ。ただ合理的に考えてる、それだけなんだぜ?」


「隊長がそこまで仰るのなら、私も異論はございませんが……」


 副隊長のシーレンは、毛布を抱えて立ちすくむ私を冷たい目で睨みながら、今度は私に向かって口を開きました。


「おい、貴様。お前がかつてやった悪事、俺達は忘れていないし、これからもずっと忘れてやる気はないからな! せいぜい隊長に感謝しろよ!」


「は……はい……」


 私は一言、そう答えますと、隊長に向かって地に手を付き、改めて隊長に感謝の言葉を申し上げました。


「ガラン様……有難うございます」


 "不逆さからえず"の呪いで、人の命令に従うしかできぬ私ではございましたが、例えそうでないとしても、私は隊長に感謝していた事でございましょう。


 ガラン隊長は決まりが悪そうにあごひげを撫でると、分かったからもういいとばかりに私に早く休むよう指示し、彼自身も毛布を被ってしまったのでございました。

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