最初の日
馬の背に乗せられ、兵士の一人に手綱を引いてもらいながら、私は部隊の道案内として隊の前列に先行し、道案内をいたしました。
「へっ……俺達は歩きなのに、大罪人のお前は馬かよ……結構なご身分だなあ、おい」
「……すいま……せん」
手綱を引く若い兵士からそんな言葉を掛けられつつも、私は馬上から僭越ではございますが、部隊の行軍しやすい道を案内いたしました。
初日の道中は、特に何事も無く夜を迎えました。夕暮れの前に部隊は行軍をやめて野営の準備を始め、私はと言うと、何かの役に立てるでもなく、その様子をただぼんやりと眺めておりました。
改めて兵士達を見てみますと、やはり若い兵たちで部隊は構成されておりました。ガラン隊長がやはり一番の年長者のようで、兵士たちは皆、二十代か、もしかすると十代の若者も居るようでございました。
皆一様に、あまり士気は高くない様子で、この魔物討伐にいやいや参加しているのが、野営の準備をするその動きから見て取れました。
「おーい、ちゃっちゃっと準備しろよ! 日が暮れちまうぞ」
ガラン隊長がそうやって兵士達に発破をかけておりましたが、効果の方は余り無いような様子でございました。
それでも何とか日暮れと共に野営の準備も終わり、数カ所にある焚き火で食事の準備も始まりました。私は、少し離れた暗がりで、目立たってしまわないよう心がけつつ、隠れるようにして膝を抱え、座っておりました。
兵士の一人が、嫌な顔をしながらも私のもとにも食事を運んで来て下さいました。
「ほら……さっさと食え」
木の器に入ったスープのようなものと、干したパンのようなものを私は渡されました。私は、それを大変ありがたくいただきました。
「何だこいつ……大げさな奴だな」
まるで、天から何か授かったかのように平伏して食事を受け取る私を見て、その若い兵士は変なものを見るような顔をして立ち去っていきました。
私は、兵士から渡された乾パンとスープを見つめました。
兵士たちから見れば、なんの事はない、大したこともない食事でしょう。しかし、私にとっては、これは信じられない程のご馳走なのでございました。
固いパンを口に入れ、スープを続けて口に含み、私はゆっくりと固いパンを口の中で柔らかくしながら噛みました。
その時になって気が付いた事でございますが、どうやら私のあごは相当弱くなっていたようで、何回か食べ物を噛んでいますと、直ぐにあごの筋肉が疲れてしまうのでした。
しかしながら、私にとってこの疲れは喜びでございました。
パンをを頂き、食べることが出来る。噛むことが出来る。飲み込む事が出来る……素晴らしいことでございます。
私は静かに、茂みの影で一人きりで、そしてまさに文字通り、ゆっくりと噛みしめて食事をいただいたのです。
私がパンをかじる音、そして時々聞こえる獣の鳴き声、そして少し離れたところで談笑する兵士たちの声……
私の耳に入るのは、それだけでございました。そうやって、初めての行軍の旅の夜は更けていったのでございます。