死の旅
ある日のこと、痩せて骨ばかりとなり、常に死と隣り合わせにある……とは言え、その死は私の所には決して来てくれはしないのでございますが……そんな私の元に、複数の兵士がやって来ました。
私は最初、兵士達は私を殺して憂さ晴らしをしようとして来たのであろうと思いましたが、それは私の間違いでございました。
私の衣服にこびりついた血の匂いに顔をしかめながらも、その兵士たちは私に向かってこう告げました。
「呪われた大罪人、キーンよ。今からお前は、我々と共に大陸を周り、村と町を巡らなければならない。そしてそこで人々に謝罪し、罰を受けるのだ」
私は、大陸中を巡る旅をする事になったのでございます。
私は、馬車に乗る兵士たちの後ろを、鎖に繋がれてついて行きました。
歩く私が、馬車と同じ速さで移動できるわけも無く、私は馬車から引きずられては体を地面で傷付け、そして死にました。
馬車は、死んでいる私をそのまま引きずって走り、私はしばらくして復活するたび、また死ぬのを繰り返しながら馬車と共に移動致しました。
王都の近くの町から始め、私は町を、村を巡り、そして行く先々で罵声を浴び、呪いの言葉をかけられ、手をついて謝るよう命じられ、そしてその後石を投げられ、打たれ、殺されました。
何時しか、馬車に引きずられる私の衣服は――もう以前から服と呼べるものかどうかは微妙でございましたが――完全にすり切れ、ボロ切れと見分けがつかなくなっておりました。
何日も、何ヶ月も、何年もかけて、私は大陸を馬車に引きずられて移動しました。
私を連れている兵士たちは私に向かい、民の不満をなだめるため、こうやってお前に恨みを晴らさせているのだと言っていました。
私のせいで王国から征服された民の中には、私の事を恨む者も数多うございました。ですので王は、私に対し、言いたい事を言わせ、存分に恨みを晴らさせ、そして民の不満を逸らそうとしていたようでございます。
ある村で、私は弟と妹に再開致しました。
二人とも、立派に成人しており、それぞれに伴侶を得ておりました。
「……あなたの事は、兄とは思わない」
妹からはそう言われ、石を投げつけられました。
「お前から殺された、父と母の仇だ! 思い知れ外道!」
弟からはそう言われ、弟の手にする鍬で殴り付けられました。
私はその時、何故でございましょうか……。不思議と、何か安心したような気持ちになっておりました。
ああ、ようやく仕返ししてもらう事が出来た。
ずっと私は、自分自身がこのような状況にありながらも、弟と妹を心配していたのでございます。
村を焼き討ちしたあと、二人の行方は分からずにいたものですから、力を失った後の私は、二人が何処でどうしているか、無事なのか、苦労はしていないか、そのような事を心配しておりました。そのような境遇に追い込んだのは当の私であると言うのに、おかしな事ではあるのですが、確かに私は心配していたのでございます。
そして、このような形ではございましたが、無事である事を知ることができ、そして、二人に復讐させる機会が与えられた……それは、私にとっては良い事でございました。
そして、街を巡り、村を巡りして、また再び私が王都に戻った……いや、連れてこられたのは、私が王都を出てから9年後の事でございました。その間、私は人々から行った先で忌み嫌われ、罵られ、復讐の対象として暴力を受け、そして死に、また生き返る日々を過ごして参りました。
私が呪いを受けてから、はや11年の月日が経ちましたが、私の体は年を取らず、呪いを受けた20歳のあの時のまま、変わる事はありませんでした。
王都に戻り、再び以前と同じように、寂しい路地に鎖で繋がれた、そんな私の元に、数日後、王の使者と名乗る兵が訪れました。
今になって思えば、あの時にその兵が告げた言葉が、その後の私の運命を大きく変えた……そのように思えるのでございます。
その兵は、私にこう告げました。
「呪われた大罪人、キーン。お前は、これから魔物討伐隊の道案内をするように王から命じられた」
私は、かつて私が魔王を倒した地への道案内をするよう、命じられたのでございます。