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心境の変化

「おい……謝れ! 謝れよ! お前のやったことを、謝れよ!」


「……もう、し、わけ……無いです」


 私を罵倒し、謝罪を要求する者たちに対し、不逆さからわずの呪いを受けたこの私には、言われた通りにする他は無く、私は手を付いて彼の前に土下座をし、謝罪の言葉を伝えました。


 この後に彼がすることは、恐らく私を罵倒し、暴力を振るい、そして私を痛めつけて殺す事でございましょう。そして、事実その通りでございました。


 しかし、私に彼を非難する筋合いがあるでしょうか。いいえ、有りは致しません。


 私もまた、命乞いをする者達を無慈悲に殺し、弱い者たちの泣き叫ぶ声を無視していたのでございます。


 私の居る路地へとやってきた者達から殺され続け、私の衣服には私自身の血がこびり付き、破れ、剣で刺した穴が残り、段々とただの汚いボロへとなっていきましたが、代わりの服など支給されるはずも無く、私は汚いボロをまとい、ヒゲも髪も伸び、道を這う虫を見つけては、それを捕まえ、口に運んで飢えを凌ごうと無駄な足掻きをする、そのような様子と成り果てました。


 そのようにして、一年の月日が流れました。その間、私は人々から罵られ、石を投げられ、暴力を受けては死に続けました。


 ある者からは、剣の試し斬りをされ、殺されました。


 また、ある者からは、魔法の練習台にされてしまい、やはり私は殺されてしまいました。


 しかしながら、だからと言って私が何を非難できましょうか。おお、確かに、確かに今もはっきりと覚えております。私もまた、他の者達に同様の事を戯れに行っていたのでございます。


 私は、戯れに捕虜で剣の試し斬りを行い、攻撃魔法をぶつけて楽しんでいたのです。


 死ぬ、というものは、何度経験しても慣れるものではございません。何度死んでも、やはり苦しく、痛く、恐ろしいものでございます。と言いましても、そのように死を何度も経験する事など、普通の人は無い事ですから、これは私にのみ関係ある事でございましょうが……


 撃たれるのも、切られるのも、辛く、痛うございましたが、やはり一番苦しかったのは、窒息死と焼死でございます。


 水の入ったたらいを用意され、このように命じられるのでございます。「水に顔を付けて、絶対に上げるな!」と。


 逆らう事のできぬ私は、言われた通りに顔を水に付け、そのまま死ぬまで、そのままで居なければなりません。


 体が痙攣し、無意識の内に顔を上げようと足掻こうとしても、体はそれを認めないのでございます。


 そして、私は苦しみ、溺れて、そして最後には死ぬのでございます。


 体に油をまかれ、火を付けられて殺されるのも、大変恐ろしく、苦しゅうございました。


 このような事を経験するうち、私は心に変化を感じるようになってまいりました。


 悪事など、しなければ良かった……と。


 そして私は、このように考えるようになりました。


 力を得ても、調子に乗るべきでは無かった。


 例えなにか偉大な功績を残したとしても、その後驕り高ぶるならば、その功績はその人にとって害にしかならない。


 今の自分は、誰よりも下の位の、奴隷よりも下の大罪人である。自分が偉大であると言うならば、この状況を自ら脱して見れば良いのに、所詮ただの人としての力しか無い私には、何も出来ないではないか。


 私は、所詮少しばかりの力を得てのぼせる、その程度の人間であったという事なのだ。


 自分は、ちっぽけな存在であったのだ。


 撃ち叩かれ、石を投げられ、蹴られながら、私はそんな事を考えるようになっていたのでございます。


 私は、心の中で女神に祈り、死なせてくれるように願いました。しかしもちろんその願いは叶えられる事は無く、女神も私の前に現れるなどと言う事も無く、ただ私は罰を受け続けました。


 私が死を求めても、今や死は私の元を無情にも去っていってしまう……当時の私には、そのように感じられました。


 そして、更に一年の月日が流れたのでございます。

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